第239話 お別れの挨拶
「どうだろうか。食事には満足していただけたかな?」
宴の後は詳細を詰めるべく、別室にて第二王子と団長、その他護衛と思われる魔人族と対峙することとなった。
誘拐召喚されるわ飯はマズイは毒は出てくるわで、まったくいいところがない。少なくとも『食』については期待できないことがわかった。これはもうさっさとアイサツして出て行くしかないな。
「ぜんぜん美味しくなかったです。ありがとうございます」
「はっ?」
「おい!?」
先制パンチの返事を返したところ、団長の疑問とイヴァンのツッコミが入った。
「そ、そうか……。食文化の違いというのもあるだろうな」
顔を引きつらせながらもかろうじてそう口にする団長。額に血管も浮いてるから怒りを我慢しているのだろうか。文句言いたいのはこっちなんだがな。
「それで、俺たちはどうやったら元の世界に帰れますか?」
「……帰る?」
何を聞かれたのかよくわからなかったかのように真顔になる団長。
「それはもちろん、元の世界での生活があるので」
「あぁ……、なるほど。……だがそれは無理だ」
一応は頷いたようだが、きっぱりと告げられる。最初からそんな気はしてたけど、帰る方法があるかないかはわからないが、少なくとも帰す気はないようだ。
「そうですか」
「心配するな。こちらでの衣食住は保障する」
落胆を見せたからか、団長が取り繕うように言葉をかぶせてくる。
「いえ、帰れないなら別に保証してくれなくてもいいので」
帰す気があったとしても衣食住を世話になる気はないけどな。
そんな俺と団長のやりとりを後ろで見ている第二王子はだんだんと苛立っているようだ。
「さっきから聞いていれば、召喚してやった分際で生意気な!」
と思ったらいきなりキレだした。
「は? 召喚、してやった?」
何様だコイツは。原始的な世界から先進的な自分たちの世界に招待してやったとでも言うんじゃねぇだろうな?
少なくとも食い物は不味かったんだけどな。
「よその国の国民を誘拐した犯罪国の王子が何言ってんだ?」
「召喚してくださいなんて頼んだ覚えはないわよ」
「飯はお粗末だったし、衣食住の食以外も期待できそうにねぇな」
「あとは自分たちで何とかするのでおかまいなく」
俺と莉緒のまくしたてる言葉に、王子の顔がみるみる赤くなっていく。団長も腰に差してあった杖を取り出し、護衛の魔人族も腰に差してある剣の柄に手を掛ける。
「犯罪国だと……?」
「はは……、少し言葉が過ぎるのではないかね?」
「誘拐は犯罪じゃないのか?」
王子と団長の言葉にさらにかぶせると、二人のこめかみがぴくぴくと痙攣しだす。
「国家規模で誘拐を行うなんて、ホント野蛮な国よね」
「貴様ぁあぁぁぁあ!」
「そこを動くな!」
王子が腰の剣を抜き、団長が杖の先に炎の弾を浮かべる。さすが魔術士団団長だけあり、炎弾にはしっかり魔力が籠められている。
「おいおい、大丈夫なのかよ!?」
イヴァンがソファから立ち上がって慌てているけど、まぁ大丈夫じゃないかな。
『団長は任せた』
『了解』
莉緒に念話で合図を送ると、王子を空間遮断結界で拘束する。莉緒も魔力を込めて団長の炎弾をかき消すと、同じく空間遮断結界で団長を拘束したあとに魔力攪乱フィールドを展開した。
「ぐっ!?」
「な、なに!?」
「殿下!」
護衛も剣を抜いて向かって来たので衝撃波の魔法でぶっ飛ばしておく。
「じゃあ行こうか」
「あ、ああ」
「フォニアちゃん、行くよ」
「うん!」
声を掛けると、ニルを抱えたフォニアがソファから飛び降りる。
「ま、待て!」
待てと言われて待つ奴がいるかっての。
「我らの庇護なくしてお前たちはこの地で生きて行けんぞ!?」
へぇ、そうなんですか。だけど心配ご無用です。
異空間ボックスの中身ををちらりと確認するが、ちゃんと野営用ハウスもあるし溜め込んだ食糧だってある。一般商店で何も売ってもらえず、さらに街の外での食糧調達が不可能だったとしても問題ないのだ。
「ま、召喚した相手が悪かったと思って諦めるんだな」
後ろ手にひらひらと手を振ると部屋の外へと向かう。少し見上げる位置にあるドアノブを回して扉を開けると廊下へと出た。部屋の中から隷属の効果がどうたらと聞こえるが全部スルーだ。
気配察知を全力で広げると、地形の把握も行っていく。
「外は……、あっちかな」
現在地はどうやら地下らしい。人に会わずに外に出ることは不可能みたいなので、地上までの最短ルートを通ることにする。誰もいない廊下を進み、突き当りの部屋へと入っていく。鍵がかかっていたが、もちろん音を出さずにぶち壊して侵入だ。
「なんだこれ?」
体育館くらいの広い空間に木箱がたくさん積み上げられている。倉庫か何かだろうか? 何気に蓋を開けてみると、鉱石のような石の塊が入っていた。鑑定すると『タングステン鉱石』と出てくる。聞いたことあるような気がするけど、確か金属だっけ。
「シュウ、行き止まりみたいだけどどうやって出るんだ?」
「ん? ああ、この部屋だけ吹き抜けになってて、すぐ上が地上みたいなんだよね」
「えーっと、それはまさか」
階段を上がる必要なく、天井をぶち抜けば地上に出られるってことだな。
「了解」
俺の意図をくみ取った莉緒がふわりと浮き上がると天井へと近づいていく。
「どのあたりがいい?」
「えーっと、もうちょい向こう側」
そして地上側に何もなく、建物の影になっていて見つかりにくい場所を指示すると、莉緒が空間魔法で天井をくりぬいて穴を開けた。




