第233話 二度目の召喚?
それは突如として起こった。
フェアデヘルデ王国へともうすぐ入るというところで、俺の足元に魔法陣が広がったのだ。
「な、なに!?」
「よくわからんがとにかく逃げろ!」
莉緒が疑問の声を上げると同時に俺も叫ぶと前方へと走り出す。イヴァンはフォニアを抱えて後方へ走り出し、莉緒とエルはお互いに離れるように左右へと走っていく。
が、魔法陣は俺を中心にして広がっているようで、移動している俺についてくる。かなり大きい魔法陣で半径十メートルくらいありそうだ。ニルは傍にいるが俺以外のメンバーは全員魔法陣の内側から出られたようだ。
「なんなんだよっ」
なんとなく見覚えのある魔法陣だ。
このままタダで発動を待つつもりはない。逃げられないと悟ったので魔力を一気に練り上げると、足元の魔法陣の中心へと叩きつけた。
あたり一帯に一瞬だけ光が迸ると、すぐに魔法陣が消えて静寂が戻ってくる。
『……おさまった?』
『……たぶん?』
遠くからの莉緒の念話に、周囲の魔力を察知してから答える。魔法陣が消えてからはおかしな魔力は感じられなくなっている。……と思う。
魔法陣の魔力がすごかったせいか、それが一瞬で消えてちゃんと元に戻ったのかいまいち把握できていない。残滓が漂っているような気がしないでもない……とでも言えばいいのか。
フォニアを抱えたイヴァンと莉緒が、ゆっくりと俺の元へ歩いてくる。エルはまだ左右や上空を見回していて警戒を緩めていない。
「なんだったんだろうね?」
「わからんけど……、すげー見覚えのある魔法陣だったから……」
「えっ?」
「マジで?」
フォニアだけはよくわかっていないようで首を傾げている。
「へぇ、あたしも長いこと生きてるけど、あんな魔法陣は初めて見たよ」
ゆっくり歩いてきたエルが両腕を組んで感心している。なぜか侍女服姿なんだけど、旅するにはあんまり向いてるとは思えない。
「ああ、なんとなくだけど、俺たちがこの世界に来ることになった召喚魔法陣に似てると思った」
「「は?」」
「また召喚ー?」
莉緒がすげー嫌そうな顔をしている。
「召喚ってなに?」
ニルを胸に抱え上げたフォニアが尋ねてきたので、莉緒がいかに悪質な犯罪なのかを説明すると。
「ゆうかいされちゃうの!?」
フォニアが莉緒からくっついて離れなくなってしまった。
「よしよし、私はもうどこにも行かないから安心して」
「はは……」
その様子を見たエルが苦笑いしている。フォニア自身はエルに敵意は持っていないみたいだが、莉緒がいなくなったことが印象強く残っているみたいだ。
「でももう大丈夫なんだな?」
「うーん、たぶん大丈夫だとは思うけど、なんとも言えないな」
周囲の魔力を探ってみるけど、特に異常は見当たらない。
「なんだよそりゃ」
「召喚魔法を使えるやつがそうそういるとは思えないけど、こう立て続けだと……。いやまぁこれが召喚魔法だと確定したわけでもないけどね」
「……そんなもんか。シュウたちがこっちきてそんなに経ってないんだっけ?」
「うん。正確に数えてるわけじゃないけど、まだ一年経ってないと思う」
師匠のところにいたのが半年くらいだっけ? そんなに経ってないかな? なんにしろこの世界に来てからいろいろあったからなぁ。正確に数えているわけではない。
「感覚だけだともう数年経ってる気もするわよね」
「あー、すげーわかる」
などと言っている間にさっきより小さい魔法陣が広がったかと思うと、視界が真っ白に塗りつぶされた。
「またお主か」
視界がずっと白いままで変わらないなと思っていたところに、どこからか低い男の声が聞こえてきた。
「だ、誰だ!?」
隣からイヴァンの声が聞こえてくる。よく見れば莉緒とフォニアにニルも一緒だ。
「……エルだけいない?」
キョロキョロしている莉緒がふと呟く。
「ほほ、今度は一人ではないようじゃの。にしてもお主も運が悪いのぅ」
気づけば目の前に、白髪白髭の貫頭衣をまとった爺さんがいた。激しく既視感に襲われるが、最初に召喚されたときと同じような気が……。
「ここどこ?」
フォニアとニルは耳をぺたりと倒して周囲を伺っている。なんとなく尻尾にも元気がない。
「えーっと……」
「しかし今回ばかりは済まなかったな。せっかく召喚陣を自力で破ったというのに、面白そうだという理由で女神どもが強制発動しよったみたいでの」
言葉を探していると、声の主が裏事情を聞いてもいないのにしゃべりだしている。ええと確か神様だったような気がしたけど、女神がなんだって?
「しかしまぁ、悪いことばかりでもなかったかもしれんのぅ……。次元を渡るスキルが付いたようじゃし」
「えっ?」
「お詫びと言ってはなんじゃが、今まで身に付いたスキルは召喚先の世界でも使えるようにしておいてやろう。若干スキル体系が異なっておるからの、そのままだと使えないスキルも多かろうて」
「は、はぁ……」
何がどうなってるんだ。ちょっと待ってくれ。情報量が多すぎる。
「む、もう時間切れか。新しい世界でも達者での」
「え? あの、ちょっと……!?」
それだけ告げると、俺たちの呼びかけも空しく今度は視界が真っ黒に塗りつぶされていった。




