閑話という名のプロローグ
「では始めろ」
「はっ」
号令と共に、額から二本の角を生やした耳の長い魔術士団副団長が前へ進む。
「魔力を注げ」
団長が声を上げると、床に描かれた魔法陣の周囲に配置された人物が次々と跪いていく。そして四本ある手を触れると魔力を注ぎだした。
端から中央に向かって魔力が充填されていくにつれ、魔法陣がかすかに発光し始める。
「ふふふ……、もうすぐだ……」
魔力が満たされていく目の前の召喚魔法陣に、思わず笑みがこぼれる。これで地底人どもを一掃してくれる。
「召喚者の条件設定に抜かりはないな」
「もちろんです、指示通りに設定を済ませております。近隣世界にいる、争いを好まぬ民族特性を持った、強者になり得る可能性を秘めた成長率著しい人物ですね」
近くで魔法陣の調整を行っている団長へと声をかけると、想定通りの答えが返ってきた。これを間違えると大変なことになるのだ。自分たちが扱えないような人間を召喚してしまえば、地底人どころかこちらに被害が及びかねない。
「多少であれば気性が荒い者であっても問題ないでしょう。軽くではありますが、隷属の術式も魔法陣には組み込まれておりますので」
「そうだな。しかし万が一には備えておかねばならん」
「はい。もちろん警戒は怠りません」
「準備が整いました!」
副団長の言葉に振り返ると、魔法陣全体が光を放つようになっている。
「よし、表面上は友好を装うから、武器を構えてはならんぞ。ただし、何かあればいつでも抜けるようにはしておけ」
「「「はっ」」」
「では最後の仕上げに取り掛かります」
言葉と共に副団長の口から長い詠唱が紡がれていく。これでも事前に四日間をかけて事前詠唱を済ませているので、あとは最後の節を唱えればこの召喚魔法は完成する。
しばらく待っていると、ひと際魔法陣が強い光を放ち始めた。
「おおお……っ!」
あたりには魔力が渦巻き、室内にもかかわらず風が発生し始める。
「――――――っ!」
副団長が最後の詠唱を唱え終えると、視界が真っ白に塗りつぶされて思わず目を閉じてしまった。その後すぐに訪れる静寂とともに、まぶた越しの視界が真っ黒に塗りつぶされる。
恐る恐る目を開けると、魔法陣は発光をやめ、静かに佇んでいるのみだ。その中央には召喚された者が――
「……誰も、……いない?」
「なん……、だと?」
「まさか失敗したのか?」
そこに現れるはずの者がいない魔法陣の中心を見て、魔力を注いでいた周囲の者もざわつき始める。
まさか……、あれだけ時間と金を掛けて準備してきたものが、失敗だと?
震える右拳を落ち着かせようと左手で包み込むと、不意に魔法陣から再び光が漏れだしてきた。
「なにっ!?」
思わず腕で顔を庇うと、魔法陣から風が発生したのか突風が自身の体を突き抜けていき、数歩後ずさってしまう。
収まったあと両腕を顔の前から退けると――
大きな槍を背負い頭の上に耳が生えた小柄な男と、黒髪黒目の男女の子ども、そして小さなぬいぐるみを抱えた、同じく頭の上に耳を生やした赤子が魔法陣の中央に佇んでいた。




