第226話 ギルドの仕組み
「はい。ですので、わたしたちが所属する暗殺者ギルドは、頭を潰され主要な幹部メンバーも殺され、ほぼ壊滅状態となりました」
「ぶふっ」
さらなるメサリアさんの追撃にイヴァンが噴き出す。
「か、壊滅って……」
寝て起きたら暗殺者ギルドが壊滅してました。と聞けばそうなるのかもしれない。
「この『妖精の宿』そのものが暗殺者ギルドの本部でもありました。所有者はギルドマスターでしたので、今となっては宿そのものもシュウ様のものとなります」
「「「…………は?」」」
さすがに今の言葉には俺たち三人ともが絶句する。
ちょっと暗殺者ギルドを潰したら最高級宿が手に入るとか意味わからんのですが。というかここが本部? マジですか? 俺たち暗殺者ギルドの本部で飲み食いして風呂に入って寝てたの? 危機感ゼロだったよ?
「……いやそこは他のメンバーが引き継ぐとかあるだろ?」
なんとか言葉を絞り出して話を進める。ここでツッコミを入れたところで得られるものはきっとない。
「いえ……、暗殺者ギルドは謀を含めて力がすべてです。なので、そういうわけにもいきません」
しかし俺の言葉に首を傾げるメサリアさんとライラさん。
「暗殺者ギルドに入った覚えはねぇよ」
何をふざけたことを言ってるんでしょうね。この女将さんは。思わず真顔でツッコんじまったじゃねぇか。
しかし俺の言葉に何かを考え込むようにすると、メサリアさんが言葉を続ける。
「引き継ぐという意味ではギルドのサブマスターであるわたしが引き継いでいます。しかしわたしを含めてライラもシュウ様には全面降伏をしています。つまり本部だった宿の所有権を含め、わたくしどもと傘下のメンバーはシュウ様方の決定に従います」
それだけ告げると、二人そろって跪くように首を垂れる。
あんたサブマスターかよ!? しかも宿だけじゃなくてギルドメンバーまで付いてきてんだよ!? 余計意味がわからなくなったわ!
「へぇ、いいわね。ここの温泉入り放題じゃない?」
「いやいやいや、そういう問題じゃねぇって」
「だって、私たちが泊まってた部屋のお風呂、もう入れないでしょ?」
「えぇ……? そりゃそうだけど……」
彼女たちが俺たちの指示に従うと言われてもピンとこないし、どうすればいいかわからない。莉緒は平気そうなんだが解せぬ。イヴァンはもはや物言わぬ石像となっているので放置だ。俺でも我慢してるのに、いちいちツッコまれても話が進まん。
普通こういうときはどうすんだ? 襲われたんだからしかるべき衛兵や役所に通報か? ……うむ、あれこれ事情徴収されてめんどくさい手続きとかありそうだな。それにもう国の機関には関わりたくない。
「それって要するに、この宿のオーナーになったってことよね? 暗殺者ギルドの仕事のことは置いといて、少なくとも宿そのものが手に入ったってことはそういうことなんじゃないの?」
「……あぁ、うん、なるほど。そう言われれば納得しないでもない」
とはいえ絶妙にしっくりくる表現だ。宿のオーナーね。
実質こっちは被害は受けてないし、襲ってきた奴らはしっかり返り討ちにしたし、正直これ以上面倒なことはしたくない。
それを考えると口だけ出すオーナーならば、面倒は少なくていいかもしれない。
「はい。リオ様のおっしゃる通りで問題ございません。宿の運営そのものはわたくしどもで行いますので」
「でも今まで通り宿の運営はできるの? さっき、幹部のほとんどが死んだって言ったわよね」
俺たちが殺したんだろうが、それは言わぬが花だ。
「それは問題ございません。彼らは暗殺者ギルドの幹部であって、宿の運営にはほとんど関わりのなかった者たちですので。あくまで潰れたのは暗殺者ギルドです」
ふむ。宿を隠れ蓑にして暗殺者ギルドが存在していたということかな? だけど実はその隠れ蓑が本部だったと。
「そういえば他にも下部組織があったよな。ほら、盗賊ギルドとか。あれはどうなるんだ? というか、そもそもその盗賊ギルドの犯行現場をフォニアが見たことが発端なんだよなぁ。それが巡り巡ってこんなことになるなんて……。結局どういう依頼で誰を殺ったんだ」
「……まずは下部組織についてですが、下部組織は下部組織で活動しているので、しばらくは今まで通りでしょう。ただし、わたくしどもからの仕事がこなくなることによって救済を求めてくるところがあるかもしれません」
なんだか一気に疑問をぶつけてしまったが、ひとつひとつ答えてくれるようだ。サブマスターな宿の女将だけあって、できる女って感じだな。
「暗殺者ギルドが潰れて、この宿を狙ってくる奴らも出てくるんじゃ?」
「それは御心配には及びません。そもそもこの宿が本拠地と知っているのはごくわずか……。この場にいる人間と残った幹部数人といったところでしょうか。少なくとも下部組織でここを知る者はいません。それに――」
女将は言葉を切ると、俺と莉緒に順番に視線を向けて再度口を開く。
「先ほども申し上げました通り、力の強いものに従う傾向のある世界でございます。ギルドマスターと幹部をまとめて一蹴したお二人に襲い掛かる者がいるとは考えられません」
「お、おう……」
まったくもって女将の考えていることがわからん。声に熱がこもってきてるし、俺たちを見る目にもなんというかこう、崇めるというか、そんな感情が含まれているように思う。
……いやいや、騙されるな。これも演技かもしれないぞ。ギルドマスターとのやりとりは思わず信じちゃったしな。気を引き締めていこう。




