第222話 お風呂場の惨状
空間遮断結界を莉緒の範囲まで覆って発動すると、相手の風の刃をすべて防ぐ。
「チッ」
庭の外から来た二人が左右に分かれて迫ってくる。今度は圧縮された炎の弾が左右から撃ちだされ、俺と莉緒へとそれぞれ向かっていく。若干重力に引かれて落ちるが、それでも的には向かって飛んでいく。
「柊! フォニアちゃんは守るから行って!」
「わかった!」
もう一度結界を展開しつつ、露天風呂の庭へと飛び出していく。莉緒が守りに徹すれば誰も突破することはできないだろう。空間遮断結界は破ることが非常に難しいのだ。
魔法寄りのステータスを持つエルヴィリノスがバックステップで重力フィールドから距離を取る。もう一人の方へ牽制のアースニードルを放つと、エルヴィリノスへ一直線……とは行かずに少しずれた方向へと飛び出していく。
エルヴィリノスがまっすぐに俺へと飛ばしてきた炎弾は、もちろん命中することはない。そのまま露天風呂の中へと突っ込んで大爆発を起こした。
「ひぃああぁぁぁっ!?」
フォニアの悲鳴が聞こえてくるが、莉緒が守ってくれている。時折莉緒からも魔力が放出されるが、そのたびに重力フィールドで足止めしているやつらの気配が消えていく。
俺はエルヴィリノスへ向かうために空を蹴って向きを変えると、刀を横薙ぎに払うために腰に構える。炎弾を外したエルヴィリノスが焦りの表情と共にフォースフィールド――物理と魔法の防御シールドを張るが、気にせずに魔力を多めに込めた刀を振るう。
「かはっ」
張られた結界などなかったかのように斬り裂くと、刀はそのままエルヴィリノスの右腕と胴を左から右へと通り抜け、切断した。
「なにっ!?」
エルヴィリノスがあっさりやられたことで、もう一人の襲撃者が驚愕の声を上げる。
右へと振り切った刀をそのまま襲撃者へと投擲すると、反応できなかった相手の胸へと吸い込まれていく。命中した勢いは殺されず、襲撃者は内湯と露天風呂を隔てるガラスを突き破ると、そのままお湯の中へと突っ込んでいった。
手持ちの武器がなくなったので素早く短刀を異空間ボックスから取り出すと、抜刀して辺りを警戒する。
「ぐるああううぅうぅああぁぁぁ!!」
重低音の獣の叫びが聞こえてくると同時に、ニルの相手をしていた襲撃者が露天風呂を囲う外壁へ激突する。そこにニルの放った風の刃が撃ち込まれ、相手が防御一辺倒となっている。そこに空を蹴ってニルが勢いよく突っ込むと、魔力で強化した爪を振るう。爪撃を受けた相手は外壁もろとも切り裂かれ、物言わぬ骸となり果てた。
さすがに本来のサイズに戻ったニルの一撃は強烈だ。
「ふぅ……。大丈夫か、莉緒、フォニア」
直近の脅威が去ったところで声を掛け、フォニアを守る莉緒の元へと歩いて行く。
「フォニアちゃん? ……フォニアちゃん!」
が、莉緒の焦った声が聞こえてきた。空間遮断結界で守っていればどんな攻撃も防げると思っていたけど、フォニアに何かあったんだろうか。
「柊! フォニアちゃんが……、反応してくれないの」
「何だって!?」
咄嗟にフォニアに鑑定を掛けると、状態に『睡眠』と出てきた。
「……寝てるだけっぽいが」
「えっ?」
胸元で抱えているフォニアの顔を覗き込むと、特に苦しそうな様子は見えない。規則的に胸が上下に動いていている。
「鑑定したら状態が睡眠になってた」
「ええっ、さすがにこんなときに寝るとは思えないんだけど……」
フォニアの考察をしていると、ニルが小さくなって戻ってきた。くわっと大きく欠伸をしていてなんだか眠そうだ。
「まさか夕飯に睡眠薬とか入ってたんじゃ……」
「俺は眠くないけど……」
「私と柊はたぶん、耐性があるからじゃないかな?」
それはあるかもしれない。成長率マシマシスキルがあるので、何かの拍子にスキルを手に入れることはよくあるのだ。
しかし夕飯食べてる時には危険察知は仕事してくれなかったから、やっぱり命にかかわることじゃなけりゃ知らせてくれないっぽいな。いやでも、敵前で眠ったりしたら命とりなんだが……。どういう基準になってるのかはよくわからんな。
次からは食うもの全部鑑定かけていくか……。自分で料理したやつも例外なく。うん、そうしよう。
「まぁ考察はあとでしよう。とりあえず風呂から上がろうか」
「そうね……。この惨状じゃしばらく楽しめないわね」
大いに壊れたお風呂を眺めて小さくため息をつく。
「ああ。それにまだ……、終わったわけじゃなさそうなんだよな……」
「ええ? ……そうなんだ」
終わってない発言に莉緒が大きくため息をつく。
頭の奥の警鐘はまだ鳴りやまない。さっきよりは治まりはしたけど、まだ残ってる気がするのだ。
ひとまず手持ちの武具を異空間ボックスに収納すると、フォニアを抱えた莉緒と共に脱衣所へと戻る。魔法で一気に体を乾かすと服を身に着けていく。
……とそこに見知った気配が二つ、この風呂場まで近づいてきた。部屋の入り口には宿の従業員なのか、数人が集まる気配も感じられる。
「だ、大丈夫ですか!?」
「すごい音がしはりましたけど、どないしはりました?」
慌てた様子を見せる宿の女将さんであるメサリアさんと、いつもの落ち着いたライラさんである。
二人は脱衣所から見える内湯と露天風呂の惨状を目にすると、口元に手を当てて絶句していた。




