第220話 情報収集
「あらそう。じゃあ座っていいわよ」
「どうも」
こうしてふてぶてしく座り込む吸血鬼女への質問が始まった。改めて自己紹介を促すと、吸血鬼族で名前はエルヴィリノス・ジュエルズと名乗る。隷属の首輪で縛られているのですらすらと答えが返ってくる。
商都のオークションで商品として出品されて、伯爵家の貴族に買い取られたとのこと。ただしこの吸血鬼、隷属耐性なるスキルを持ってるらしく、オークションの時の首輪は用をなしてなかったらしい。
「だから俺に魅了をかけることができたのか……」
「金持ってそうなやつなら誰でもよかったんだよ」
ということはあの会場にいる人間なら誰でもよかったってことだよな。
その後、買われた伯爵家の金庫を漁っていたところがばれたらしい。が、ちょうど伯爵家の当主を狙っていた他所の暗殺者ギルド支部とかち合ったとか。
すげぇ偶然というか、かち合えば一緒に始末されそうな気もしたけど、なんでもこの暗殺者ギルドには二十年ほど前に世話になったことがあるとかで拾われたんだとか。
「二十年……。あんたいくつなんだ」
見た目に十代くらいに見えるエルヴィリノスに思わず質問してしまう。
「さあね。……286歳だよ。……ちっ」
首輪の仕事には抗えなかったようだが、長生きだな。さすが吸血鬼族なんだろうか。
「盗賊ギルドがギブアップしたんだよ。あんたたちを尾行するだけでも難易度が高すぎるって。それで暗殺者ギルドのストーカーに仕事が回ってきたんだけど、そいつもギブアップしてね」
肩をすくめると、「それであたしに仕事が回ってきたのさ」と零す。
そもそもフォニアが目撃した例の事件も、暗殺者ギルドから盗賊ギルドに依頼が下りてきたものだったとのこと。
「そっちの嬢ちゃんを魅了して連れて行った場所はアジトのひとつではあるけど、暗殺者ギルドの本部はどこだかは知らないよ」
「なるほどね……。俺たちが狙われる理由はやっぱり目撃者は消せ、というところかな。しかし思ったよりしつこいんだな。こっちは例の被害者のことはさっぱりわからんというのに……」
「ふん。それで『はいそうですか』と納得して引き下がるわけもなかろう」
「だよなぁ」
そして莉緒が狙われたのは、俺がオークションで魅了に失敗した相手だと気づいたかららしい。強者を隷属させれば自分にも有利だし、目撃された例の被害者のことがどれだけ広まっているか聞き出すにも一石二鳥だ。
だいたいの話を聞き終えたとき、隣からすすり泣く声が聞こえてきた。
「えう……、ぐすっ……、お姉ちゃんがさらわれたのは、ボクのせいなの……?」
「何言ってんだ。そんなわけないだろう」
「そうだよフォニアちゃん。悪いのは盗賊ギルドと暗殺者ギルドのやつらで、フォニアちゃんは何も悪いことしてないよ」
「でも……、ボクが見ちゃいけないもの、見ちゃったから」
嗚咽を漏らすフォニアを莉緒が優しく抱きしめる。
「フォニアは悪くない。気にするなよ」
「わふぅん」
ニルも慰めるようにフォニアの顔を舐めている。
「うん。うん。ごめんね、お姉ちゃん」
莉緒にしがみつきながら涙を流すフォニア。これはもう暗殺者ギルドぶっ潰すしかないな。そこに慈悲はない。盗賊ギルドでマークした全員から暗殺者ギルドに連絡した人物を聞きだして、そこから芋づる式にいこう。
「ふん。もうあたしは全部しゃべったよ。あとはいたぶるなり売るなり好きにしな」
犯罪奴隷として売られた奴隷が逃亡しているわけなので、奴隷商に通報すれば処理はしてもらえると思う。ただし、隷属耐性ってのが曲者だな。莉緒が嵌めた首輪には効果がなかったようだが、引き渡した後どうなるかわからん。
「ええ、そうね……。にしてもあなた、職業が侍女らしいじゃない」
莉緒がそこで言葉を切って口元に笑みを浮かべる。それを見たエルヴィリノスが訝し気に眉に皺を寄せる。
「誠心誠意私たちに仕えてみるのはどうかしら」
「「……は?」」
「いやいや……、マジで?」
俺とエルヴィリノスの声が重なり、イヴァンが莉緒を凝視する。
「だって、しばらく魅了耐性つくまで付き合ってもらうんでしょ。だったら有効活用しないとね」
そういえばそんな話をしていたな。耐性つける以外はどうしてもらうとかまったく考えてなかったけど。
「は? 魅了耐性?」
何か言いたいことがありげにエルヴィリノスが睨んでくるが、隷属の首輪を嵌められた彼女にそのような権限はない。
「……何か言いたいことがあれば言ってくれていいわよ」
不満をずっと溜められるよりはいいと判断したんだろうか。
「耐性が付くまでって、何年かかると思ってるのよ!?」
「あら、それなら大丈夫よ。私たち、習得は早い方だから」
「そんなこと……ぐっ、どっちにしても、あたしに選択肢はないんだろうけど」
首輪の効果なのか、言い返したところで無駄だと気が付いたのか、エルヴィリノスが盛大にため息をつく。
「あたしの隷属耐性が効果なかった時点で終わりだったわね」
そして諦めの言葉がその口から漏れてきた。
というわけで、しばらくエルヴィリノスは俺たちと行動を共にすることになった。
……少なくとも魅了耐性がつくまでは。
「さて、情報共有はこんなところか」
「思ったより時間がかかったわね……」
気が付けば日も傾きかけており、フォニアは莉緒の腕の中でうつらうつらしている。
「本格的に動くのは明日からにするか」
「ええ」
「んだな」
右拳を左の手のひらへ叩きつけるイヴァン。やる気は十分である。




