第218話 作戦会議
落ち着け。
なぜあの女は莉緒を連れて行った?
俺たちが狙われる理由があるとすれば何だ?
あるとすればエロ爺関連か、もしくはフォニアを狙った謎の組織か……。
後者の可能性が高そうだが、それなら浮足立ってる今、隷属させた莉緒も俺たちにけしかければ殺せた可能性は高いと思うが。奴もかなりのステータスだったし……。いやでも、ニルとフォニアもいるし、そう簡単にはいかないか?
「あ……」
そうだ、ニルとフォニアと……、イヴァンだ!
咄嗟に振り返ると三人とも微妙に目の焦点が合っていない。鑑定すると全員魅了状態だった。
「おい! しっかりしろ!」
ニルの顔を両手で掴んで声を掛け、フォニアの肩を揺さぶる。イヴァンはビンタを食らわせて張り倒しておく。
「わふっ!」
真っ先に正気に戻ったのはニルだ。大きく鳴き声を上げるとしゅんと耳を垂れる。
「……お兄ちゃん」
フォニアが悲しそうに目に涙をためて見上げてきた。
「なんで俺だけ……」
地面に倒れ伏しながら呟くイヴァン。
「すまん。八つ当たりだ」
「そうか……。それじゃ仕方ないな」
素直に謝るが特に反論はない。本当に悪いと思っていたが、期待していた文句が来ないことに歯噛みをする。
あの状況で動かないといけなかったは……、唯一動けたのは俺だけなんだ。自分と似たステータスを持つ相手に、莉緒という人質を取られて咄嗟に動くことができなかった。
今思えば奴は魔法職寄りのステータスだったな。テレポートで一気に接近して物理で沈める手を取ってよかったかもしれない。たらればを考えてもしょうがないが、次に生かすことはできる。
『柊、落ち着いて。私は無事だから』
そのとき、莉緒から念話が入った。一気に肩に入っていた力が抜ける。
「あぁ……、はは、そうか、そうだよな」
莉緒は攫われただけだ。まだ身体的に何かあったわけじゃない。それに念話は通じるんだ。そこまで悲観するようなことじゃないはずだ……。
『莉緒か。無事ならよかった。……すまん。咄嗟に動けなかった』
状況を伝えるために念話を全員にもつなげる。
『よかった……。お姉ちゃんぶじで……、よがっだよぅ……。うわーーーん』
念話で器用に泣き出したフォニアを、イヴァンがそっと抱きしめている。
『フォニアちゃん、心配かけてごめんね』
『わふーん』
ニルも莉緒の無事を喜んでいるようだ。
『魅了にかかってたみたいだけど大丈夫か?』
『……やっぱりそうだったのね。今は違和感ないから大丈夫だと思うけど』
『そうか。首輪があるし、魅了は解除したのかもな』
油断は禁物だが、会話はできてるし大丈夫だと思う。俺も一度魅了されたが、そこまで強制力のあるものでもなかった。
『これからアジトに連れて行ってくれるらしいから、もう少し待ってくれる?』
『そうなのか? まぁそっちが大丈夫ならいいが……』
『ええ。……たっぷりとお礼をしてあげないといけないからね』
うふふと笑う莉緒にホッと胸をなでおろすとみんなのほうへ振り返る。
『とりあえず宿に帰ろうか……。莉緒と女はマーキングしてるし、いつでも強襲できるけど、軽く作戦会議やっとこう。アジトに帰りついてからのほうが警戒が緩むだろうし』
『お願いね。……余計なことするなと言われてるからこれ以上話せないけど、なんとかしてまた連絡するわ』
『……わかった。こっちも何かあったら連絡する』
これ以上話せないというのは、隷属の首輪のせいもありそうだな。アジトに着けば命令も変わるだろうし、もうちょっと自由になる可能性もゼロではない。いつでも念話で連絡できるし、莉緒を取り返す準備ができたら連絡してみればいいか。
「おかえりなさいませ」
宿に戻るといつものようにライラさんに出迎えられる。微妙に首を傾げられたのは莉緒がいないからだろうか。
時刻は夕方になっており、ちょうど夕飯時だった。
「夕食の用意はできてますさかい、ごゆるりと」
「ああ、ありがとうございます」
部屋に戻ると、当たり前だが夕食は莉緒の分も用意されていた。
「お姉ちゃん……」
その様子を見たフォニアが寂しそうにしている。
くっ、フォニアまで悲しませるとか、あの女絶対に許さん。
いつもより静かな夕食を摂り終えると、食器を移し替えて莉緒の夕食を異空間ボックスへと収納した。
『さて……、あの吸血鬼女と莉緒の位置は街のどこかに留まってるみたいだけど』
莉緒にも聞こえるように、作戦会議は念話で行うこととする。
吸血鬼女と莉緒の移動は終わったのか、先ほどから動く様子がない。
『一応アジトらしい場所には着いたと思うわ。……どうも盗賊ギルドの毒使いの女が殺した被害者について広まらないようにしたいらしいわね』
会話ができる状況なのか、莉緒から返事がきた。マークをしてある座標を起点にして視界を飛ばせるが、吸血鬼女に気付かれる可能性を考えると安易な行動は取れない。
念話の傍受は考えなくもなかったけど、奴の近くにいる莉緒から繋いできたし、問題ないと思っておこう。
『へぇ、重要人物だったのかな? まぁ結局わからなかったわけだけど』
『そうね。今の私たちにはそこは重要じゃないから省くわね。まずはアイツの鑑定結果を教えてくれるかしら』
そうだった。情報共有は大事だ。覚えている限りの吸血鬼女の鑑定結果を全員に共有していく。
『やっぱり……。どこかで見覚えがあると思ったわ……』
『そいつのことは知らないが……、Sランク冒険者以上のステータスじゃねぇか……』
『それにしても、職業が侍女とはね……。うふふ……、面白いじゃない』
なんだか莉緒から黒いオーラが立ち昇っているように感じるのは気のせいだろうか。なんにしろ、莉緒を取り返すための作戦会議が莉緒を交えて始まった。




