第215話 親方からの呼び出し
三日ほども経つとあの三人の調査結果が浸透してきたのか、ギルドも落ち着きを取り戻していた。例のストーカーを見かけることもなく平穏に過ごしていると、ある時ルイゲンツ工房の親方から連絡が一つ入っていたのだ。
「おはようございます」
さっそく朝から工房を訪ねると、得意顔をした親方が待ち構えていた。
「あれ、珍しいですね。親方が店番してるなんて」
『いや、シュウたちが来るのを待っていたんじゃ』
「やっぱり珍しいじゃないですか」
『がっはっは! こっちから連絡したんだ。待つのは当たり前じゃろう』
「まぁまぁ、店先で立ち話もなんですし、奥に行きましょう」
パウラさんに促されて全員で工房の奥へと入っていく。にしてもこのタイミングで親方に呼び出されるってことは、もしかするのかな。すげぇ機嫌よさそうだし、これは期待してもいいかもしれない。
『さっそくだが、ようやく完成したんじゃよ』
席に着くと待ちきれないといった様子で、テーブルの上に一振りの刀を置く。とりあえず作ってみた俺たちの刀と違い、そこまで派手ではないが装飾も凝った作りになっている。
「手に取ってみても?」
『ああ、もちろんじゃ。名工ルシエルの工法を教えてもらった対価でもある。それはシュウたちのもんじゃ』
「ありがとうございます」
手に取ってみると思ったよりも軽い。自分で造った長刀と同じサイズに見えるが、アダマンタイト製じゃないんだろうか?
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種類 :武器(刀)
名前 :なし
説明 :オリハルコンを鍛えて造られた刀。
その切れ味は他の武器の追随を許さず、
上回るものはこの世に存在しないとさえ言われている。
鞘にも工夫が施されており、抜刀のキレがいい。
品質 :S-
付与 :なし
製作者:ルイゲンツ
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「オリハルコン!?」
『がはははは! ワシにかかればざっとこんなもんよ』
両腕を組んで胸を反らす親方にパウラさんも呆れ顔だ。聞いた話によれば、オリハルコンを打つコツというのがまさに名工ルシエルの工法だったという。もともとある程度できていたが、意識して魔力を込めて打ち込めば面白いようにうまくいったそうだ。
オリハルコンは磨けば磨くほど摩擦が減るそうで、鞘の内側も丁寧に磨いて抜刀しやすくしたそうだ。どうにもならない張り合わせ部分も、魔力を込めて滑らかになるようにしたとか。
確かに鯉口を切ってみると、自然と刃が出てくる気がするくらいに抵抗がない。
「品質もS-とか、今まで見た親方の作品の中で一番だな」
『なんじゃと!?』
「ホントですか!?」
「え、ええ。確かに鑑定結果にS-って出てますよ」
『こうしちゃおれん、すぐに次の作品にとりかからねば!』
「親方! 落ち着いてください!」
ガタンと席を立つ親方をパウラさんが宥めている。品質Sに何かあるんだろうか。
「気持ちはわかりますけど、もうちょっと説明を――」
『それはパウラに任せた!』
「あ、ちょっ!?」
しかしそれを振り切って工房へと去っていく親方。
「はぁ……、親方がすみません……」
ポカンと見送っていると、パウラさんが謝罪しつつも説明してくれた。
品質がSランクのものを作ることができる鍛冶職人は、鍛冶ギルドの中でも特別な存在になるそうだ。何人いるかは覚えていないが、少なくともマイナスのつかない「S」を作れる職人は一人だけ存在するという。
「え、じゃあS+の品質は?」
「それはいないって聞きました。そこまでくるともはや神の領域だって」
「へぇ、そうなんですね」
ふーむ。品質って最近見られるようになったけど、そんなシステムがあるのか。そういえば師匠からもらった武具はどんな品質なんだろうな。改めて鑑定しなおしたことなかったけど、いい機会かもしれない。宿に帰ったら鑑定してみるか。
「はい。それでたぶん、品評会に出す作品をさっそく造りに行ったんじゃないかと……」
「えっ……? 品質Sの作品ならここにありますよ?」
手元にある刀を見つめるが、パウラさんは首を左右に振るのみだ。
「それは報酬として差し上げたものなので、品評会に出すわけにはいきません。どうぞお納めください」
「そこまで言うのであれば……、わかりました。これは俺たちが使わせてもらいます」
「はい。そうしてください」
一通り触ったオリハルコン製の刀を莉緒へと渡すと、嬉々として触りだした。
「では、その品評会に作品を出し終わったあとでいいので、これでもう一本刀を作ってもらえませんか?」
異空間ボックスからオリハルコンの塊を取り出すと、パウラさんへと差し出す。
さっきの一振りは莉緒に譲るとして、自分用にもやっぱり欲しくなってきた。あとで自分で造ればいいかと思ってたけど、実物を見ちゃうとダメだな。
「ええっ? それは……、師匠も嫌とは言わないと思いますけど。……ちょっと聞いてきますね」
すでに一本造ったあとであれば、手持ちのオリハルコンでは一本分にならないはずだ。なのでさっき渡したオリハルコンは少し多めになっている。親方も品評会に総オリハルコン製の作品を出せて、俺たちも造ってもらえてWin-Winなはずだ。
案の定工房の奥から戻ってきたパウラさんから、満面の笑みで快諾を伝えてくれた。




