第211話 部屋付きの露天風呂
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、一緒におふろ入ろ?」
いつものように闇メイドのライラさんたちによって配膳された夕飯を食べ終わったあと、一服してソファでくつろいでいた俺たちに、ニルを胸に抱えたフォニアが上目遣いでやってきた。
「よし、入ろうか」
あまりの可愛さにやられた莉緒が、フォニアの頭を撫でながら即答している。大浴場でエロ爺に絡まれてからというもの、部屋付きの露天風呂に入っているので、もう他の人間に邪魔されたりはしていない。
「今日はどうしたんだ? いつもイヴァンと入ってるだろ?」
一人でショックを受けているイヴァンをちらりと見つつ、フォニアと目線を合わせて尋ねてみる。
「だって……、イヴァン兄やさしくないんだもん」
頬をぷっくりと膨らませて訴える姿に、イヴァンがさらにショックを受けている。
「ちょっとイヴァン、フォニアちゃんに優しくないってどういうことよ」
「いやいや、ちょっと待ってくれ、落ち着こう、フォニアもな?」
「だって、お姉ちゃんは優しく洗ってくれたんだもん!」
ふむ。つまりどういうことだってばよ。
「待て待て、俺だって優しくしてるだろ」
「優しくないもん!」
これはあれか、男特有の荒っぽい洗い方がダメってことか。そこらへんイヴァンは雑そうだしなぁ。前に大浴場で莉緒に洗ってもらったときが印象に残ってるのかもしれない。
「ふふ、じゃあお姉ちゃんと入ろうか」
「うん! お兄ちゃんも行こ」
「え? 俺も?」
思わず自分を指さすが、フォニアは何言ってんのとばかりに頷く。
「いつもお姉ちゃんと入ってるでしょ?」
「まぁそうだけど」
「だから一緒にはいろ?」
と言いつつもイヴァンを一目見て「ふん」と鼻を鳴らしている。
「ふぉ、フォニア……」
胸にニルを抱いたままのフォニアは俺の手を取ると、お風呂場へと歩いて行く。
「イヴァンよ、強く生きろ」
四肢を床について手を伸ばすイヴァンに告げると、俺たちはフォニアと風呂に入ることにした。
脱衣所で脱いだ服を全部異空間ボックスへと仕舞うと、莉緒とニルを抱えたフォニアと一緒に浴室へと足を踏み入れる。洗い場と内湯はそこまで広くはないが、外にある露天風呂はそこそこの広さになっている。かなり透明度の高いガラスで隔てられた外の風景は、内湯からも十分に楽しめそうだ。
「洗ってからお風呂に浸かるわよー」
「はーい」
「よし、ニルは俺が洗おうか」
「わふわふ」
石鹸を泡立ててニルをわしわしと洗っていく。
「フォニアちゃん、かゆいところはないかな?」
「うん、だいじょうぶー。きもちいー」
隣ではフォニアが莉緒に洗われているが、その手つきはとてもやさしい。ニルを洗う俺と比べても全然違う。きっとイヴァンも俺と同じような感じだったんだろうなぁ。
ニルを洗い終わると、全身を震わせて水分を周囲にまき散らす。
「うひゃあ!」
「あはは! はい、こっちも終わったわよ。あったまっておいで」
「うん!」
フォニアがゆっくりと湯舟に足から入っていっている隣に、ニルが飛び込んでいく。
「ひゃっ! こら、ニル!」
顔をぬぐって怒り口調ではあるけど楽しそうだ。
「捕まえたぞー」
捕まったニルはいつもの場所におさまっている。フォニアの胸の前で気持ちよさそうにお湯に浸かっていた。
「ねぇ柊」
「ん?」
今度は自分を洗おうかと石鹸に手を伸ばしたところで莉緒から声がかかる。
「私の髪も洗ってくれる?」
「ああ、いいぞ」
背中を向けた莉緒の髪をお湯で湿らせ、髪専用の石鹸を手に取る。さすが高級旅館だけあってか、お風呂用品も豊富だ。
手元で泡立てると莉緒の髪を優しく洗っていく。
自分で洗っておいてなんだけど、明らかにニルを洗う時より優しいな。やっぱりこういう違いは出てくるよな。
「はぁ~、やっぱり誰かに洗ってもらうって気持ちいわね」
「だなぁ。あとで俺も洗ってくれよ」
「ふふ、いいわよ」
気が付けばフォニアはニルを連れて外の露天風呂に行くのか、内湯から上がっていた。
「フォニアちゃん、お風呂じゃ走っちゃダメよ」
「はーい!」
ニルを抱っこしながら外へと出ると、あったまって暑かったのかベンチへと寝っ転がっている。
「はい、終わり」
「じゃあ次は柊ね」
こっちを向いて急かす莉緒に背中を向ける。
しばらくすると頭が泡立ってきた。優しい手つきが気持ちいい。
「はー、最高」
異世界に呼び出されたときはどうしようかと思ったけど、最近は悪くないんじゃないかとも思い始めている。莉緒と結婚できたのもそうだけど、フォニアを見てると俺たちに子どもができたらこんな感じなのかなとも思ったりする。馬鹿を言い合えるイヴァンもいるし、両親には悪いけど今地球に帰れるとなってもちょっと考えてしまうかもしれない。
「私たちも外行こっか」
お互いに洗い終わった俺たちも、フォニアに続いて外の露天へと出てきた。日も沈んで星も瞬いているのが見える。外から見えないように壁はあるが、斜面の高いところからはもしかしたら見えるかもしれない。
魔法で目隠しするのは簡単だけど、それはそれで風情がないのでやらないけど。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、こっちこっち!」
フォニアに呼ばれて近づいていくと、露天風呂の隅っこで浸かっていた。
「どうした?」
「ここからだとよく見えるよ」
「へぇ。そうなんだ」
莉緒がフォニアの隣に浸かったので、俺はその反対側にフォニアを挟み込むようにしてお湯に浸かる。
見上げると確かに星がよく見えた。
「綺麗だねー」
「そうだな」
こうしてモールボールを討伐した日の夜は更けていった。




