第209話 討伐証明を存分に確認ください
まずは莉緒が亀の側面に相対し、大太刀を上段に構えている。
成長スキルはあるけど普段からガントレットを使った格闘をしている俺と、刀好きでちょくちょく触っていた莉緒のどっちが剣術だか刀術のスキルが高いのかは不明だ。でも少なくとも魔力を纏わせる技術は莉緒の方が高いだろうとのことで、莉緒が先手を取ることになった。
「――ハッ!」
一呼吸で気合と魔力の乗った一撃が振り下ろされる。
大地をも揺らした一撃は、確かに海皇亀の甲羅を切り裂くことに成功していた。
「おー」
「いやいやいや……」
「ほっ!」
どうツッコんでいいのかわからないイヴァンはどうでもいいとして、掛け声とともに刀を振り下ろすマネをするフォニアはとても可愛い。
「斬れるとは思ってたけど、ちゃんと斬れるもんだな」
「でもさすが海皇亀だけはあるわね。端まで斬るように魔力を込めたんだけど、届かなかったわ」
「ほほぅ」
つまり切断には至らなかったってことか。魔法で左半分の甲羅を持ち上げてみると、確かに右側も一緒に持ち上がる。
「じゃあ次は柊ね」
「よし、まかせろ」
莉緒と同じ場所から数歩だけ甲羅へと近い場所へと仁王立ちすると、長刀を抜いて上段に構える。莉緒が斬りつけた位置へ寸分たがわぬ一撃を入れられるようにイメージする。魔力を乗せて気合十分、一気に刀を振り下ろした。
「お、いったんじゃないかな」
甲羅を半分に切り分けた手ごたえを感じると、同じく左半分の甲羅を魔法で持ち上げる。今度は右側がくっついてこなかった。
「そっちは収納しておきましょうか」
「おう」
こうして試し斬りという名の海皇亀解体が始まった。
お昼に亀肉を渓谷の山頂で食したあと、夕方ごろには冒険者ギルドへと俺たちは戻ってきた。ちょっと街に戻ってきたときに騒がしい気がしてたけど、ギルドもなんだか騒がしくなっている。
ちなみに海皇亀の肉は超美味かったです。
「あ、シュウさん! リオさん! ……やっと帰ってきた!」
目ざとく俺たちを見つけたギルドの女性職員――テトラさんが駆け寄ってくる。
「どうかしたんですか?」
「どうもこうもありませんよ! 山頂の調査依頼を受けられて三日も帰ってこないなんて……!」
「はぁ……」
調査依頼なんだから数日くらい帰ってこないなんてこともあるだろうに。そこまで心配してくれるランクではないと思ってたんだけどな。
「いきなり山頂から大量のワイバーンとキマイラが飛び立ったんですよ! もう街中は大騒ぎになって……、何か知ってることがあれば教えてください!」
有無を言わせぬ勢いで背中を押されると、そのままカウンター奥まで連れられた。
というかそんな騒ぎになってんのかい。その二種類の魔物が飛び立つ姿が見られるってのが、この街の売りじゃなかったっけ。
「失礼します。シュウさんたちを連れてきました!」
案の定連れてこられたのはギルドマスターの執務室だ。
「ああ、戻ってきたのかい。これで少しは状況がわかるってもんさね」
安堵の息をつく婆さんだが、ちょっと安心するのは早くないかね。俺たちが最悪な情報を持ってきてる可能性もあるだろ。まぁそんなことはないんだけど。
「さっそくで悪いけど、まずは調査結果を聞かせてくれるかい」
しかも自分が欲しい情報はさっさと寄越せってか。前回は先にソファに座るよう勧められたけどな。
「そうですね」
相槌だけ打つと、執務机の前にあるソファへとゆっくりとした動作で座る。テトラさんがお茶を淹れるためか部屋から出ていき、俺たち四人がソファに腰かけるまでは何も言葉は発しない。
とはいえ俺たちがもったいぶってもこの婆さんと同類になるだけだ。ちょっとだけ婆さんをイラつかせることができたみたいなので、さっさと伝えるだけ伝えてお暇することにしよう。
「モールボールなら討伐してきましたよ」
「は? ……なんだって?」
この婆さん……。とりあえず安心とわかったら、情報の受け取りにも時間をかける気なのか。
「いやだから、モールボールが魔力噴出口を塞いでたので、討伐してきました」
「な、なんだって!?」
おいクソ婆。二回もやるとはいい度胸じゃ――
「それは本当かい!?」
……ああ、信じられなくて聞き返しただけか。うん、俺も落ち着かないといけないようだな。
「はぁ、なるほどね……。それでワイバーンとキマイラが逃げていったってんなら、まぁ説明はつく……かもしれないさね」
なにやらブツブツと考え込む婆さんだが、残念ながらその予想は外れだ。あの臭いが爆発すれば、きっとワイバーンもキマイラも耐えられないんだろう。だが面倒くせぇからそういうことにしてもいいかもしれない。
「えっ? 逃げたのはあのくちゃいボールのせいじゃないよ?」
と思ってたけどフォニアが思わず呟いてしまった。
「……はい?」
胡散臭い目を向けてくるがしょうがない。海皇亀の話題は出す気はなかったけど、どうせ解体した素材をギルドに出せばばれるだろう。
「あんたたち、ホントにモールボールを討伐したんだろうね?」
あ、疑うのはそっちね。それなら証拠があるから話は早い。
「当たり前じゃないですか。証拠もあるんでその目で存分に確認してくれればいいですよ」
莉緒に目配せをするとニヤリと笑う。
「んん? どういうことだ?」
訝しむ婆さんを尻目に、莉緒がソファの横のスペースへと移動する。そのまま異空間ボックスの入り口を開ける。
「待て! わかった! わかったからここで出すんじゃない! 出すんじゃないぞ!」
必死に止めようとする婆さんをスルーして、討伐したてほやほやのモールボールを取り出す。
「や、やめ……っ、ぎゃああああぁぁぁ!!?」
反射なのか鼻をつまみながら婆さんの悲鳴が響き渡った。
しっかり密閉してあるんだがな。




