第205話 Sランク冒険者への依頼
どうせ山頂へ行くなら何か依頼を受けて行こうか、ということでギルドにやってきた。……のではあるが、ギルドに入ってから「そういえばSランクで受けられる依頼ってあるのか」という問題に直面していたりする。
「さすがにないよな?」
依頼ボードを眺めながら莉緒に聞いてみるも、「ないわね」という回答があるだけだ。もちろんAランクの依頼までしかボードには貼りだされてはいない。
「依頼受けずに行くしかねーんじゃねぇの?」
「それしかないわね」
「んじゃそうするか」
「おー!」
「わふーん!」
イヴァンの言葉に全員が賛同する。
じゃあ出発とばかりにギルドを出ようと回れ右したところで、女性職員が目の前に立っていた。なんとなく見覚えがあると思ったら、初めてギルドに来た時にいろいろ教えてくれた人かな。
「シュウさんとリオさんですね」
「ええ、そうですが」
「ギルドマスターが面会したいと申しております。今お時間大丈夫でしょうか?」
なんとなく予想通りの言葉を受け、周りを見回す。特に他に用事もないし、みんな問題はなさそうだ。今までも何度かギルドを訪れると、必ずギルドマスターが顔を出してきていたんだがここも例外じゃなかったみたいだ。
「大丈夫ですよ」
「助かります。では皆様、こちらへ」
最初に会ったときに比べて幾分丁寧な口調で俺たちを案内してくれる。
何事かと注目を浴びながらギルドの奥へと向かう。カウンター奥の階段を上ると一つの部屋へと案内された。
「ギルドマスター。目的の人物を連れてきました」
ノックと共に中へと声を掛けると、「入りな」と若干しわがれた声が響いてきた。どうやらギルドマスターの執務室らしい。
中に入ると、ローブ姿のお婆ちゃんが執務机の椅子に座って待っていた。
「ご苦労。下がってええぞ」
「はい。失礼します」
「さて、あたしゃここのギルドマスターをしているランファンってんだ。よろしくお願いするよ」
女性職員が出て行ったのを確認すると、ギルドマスターが口を開く。
「想像していたより若いねぇ」
お互いに自己紹介をしたところでしみじみとした呟きが聞こえてきた。
「はぁ。それにしても、俺たちに何の用でしょうか」
「そう急かさんな。依頼は逃げやしないからね。とりあえず座りな」
「依頼?」
執務机の前にあるソファに座りながら問い返す。依頼ボードにはなかったけど、Sランクの依頼は表に出ていないだけであるということなのか。イヴァンとフォニアも席に着くと、ニルはソファのそばで寝そべった。
ギルドマスターが対面のソファへと移動したところで部屋がノックされる。
「失礼します」
さっきの女性職員が入ってきてお茶を淹れてくれた。フォニア用の前には小さなお菓子まで置かれている。
カップを手に取るとまずは香りを楽しむ。なんとも高級そうな紅茶の香りがした。
「この渓谷頂上へ行く依頼はランクが高いのはわかるかい」
「ええ。なんでもワイバーンやキマイラが出没するとか?」
「ああ、有名なのはそいつらだろうね。でも他にも厄介な魔物がいてね。あんたたちのランクを見込んで、そいつの調査を頼みたい」
ふむ……。調査ね。予定してた行き先も変わらないし、ついでにこなせそうではある。むしろ今から行く先に出る魔物の情報だ。他に厄介な魔物がいると聞けただけでも収穫だ。
「ちなみにどんなヤツですか?」
俺の言葉にニヤリと口元をゆがめるギルドマスターのランファンさん。
「気になるかい?」
即答せずに一言挟んでくる。
話を振ってきたのはそっちなのに、なんとももったいつける婆さんだな……。
「あ、いえ、わからないのであれば別にいいですよ」
あっさりと莉緒が断りを入れるが、調査の種類によってはさっぱり正体がわかってない可能性もあるよな。ぶっちゃけここからでも渓谷の山頂まで気配察知は届くのだ。調査対象さえわかれば先に教えてもらわなくてもある程度わかる。
「まぁまぁ、そう急かさんな」
もうこの人はもったいぶるのが好きなんだろうな。この状況でカップに手を伸ばして優雅に紅茶を楽しむとか、わかってやってるとしか考えられない。
よし、先手を打って気配察知を伸ばしてみるか。この前フォニアが狙われた時に全力で気配察知したけど、気配以外にもいろいろわかるようになってたんだよね。魔力とか生命力とか、地図スキルのおかげか地形とかまでわかったし、知らない間にいろいろスキルが増えたんだと思う。
山頂に向けて一気に範囲を広げる。魔力噴出口はこれかな……。地中を魔力が走って谷底にまでつながっているのか。大型の魔物もちらほらといるけど、それほど大したことはなさそうだ。皮膜みたいなやつを持ってるのがワイバーンかな。ということはあっちがキマイラか。
……ん? こっちの噴出口は何かに塞がれてるみたいだけど、これも魔物か?
ここまでしっかり座標を把握できれば空間魔法でつなげて視界を飛ばすこともできる。ちょっと気になるし見てみるか。
丸い形状をした緑色の物体が噴出口を塞ぐようにして鎮座している。視界を飛ばすと距離感があいまいになって大きさがいまいち把握しづらくなるんだが、それなりにでかそうだぞ。しかも魔力をどんどん溜め込んでるように見える。そんなに一気に摂取して大丈夫なのか?
「山頂にたまに現れる、モールボールという魔物がおってな」
一通り紅茶を楽しみ終えた婆さんがカップを置くと、ようやく本題に入った。
そのモールボールとかいう臭い息を吐きそうなやつが調査対象ってわけか。ボールという意味じゃ噴出口を塞いでる奴は確かに丸いが。
「このモールボールが、山頂の魔力噴出口を塞いどらんか調査を願いたい」
うん、ちょうど塞いでるわ。




