第203話 被害者はいずこに
建物の外へ出ると、詐欺師の男が入り口前で伸びていた。莉緒にやられたっぽいけどパッと見た限りでは怪我は負ってなさそうではある。
「お疲れ」
「そっちも終わった?」
「おう。矢は本人の太ももにしっかりと返してきてやった」
「ふふ」
『こっちは終わったぞ』
『そうか。裏は何も起こらなかったな……』
イヴァンにも念話で伝えると店の表へと戻ってくる。
「それで、これからどうするんだ? ギルドにでも知らせに行くか?」
戻ってきたイヴァンが今後について尋ねてくるけど、そういえばそこまで考えてなかったな。街の衛兵もいるだろうし、そっちでもいいんだろうけど。
「どうしようか? 正直めんどくさいし腹減った」
「おいおい……」
イヴァンに呆れられるがこれが本心ではある。
「おなかすいたー!」
「わふっ!」
「そうねー、私もお腹すいたかも。明日でいいんじゃない?」
「いやいや、入り口の前に男が倒れたままなのに放置ってのもダメなんじゃね!?」
「よし、んじゃ宿に帰って晩飯にしよう!」
莉緒も明日でいいって言ってるし、明日にしよう。うん、それがいい。
「「おー!」」
「わふー!」
「ええぇぇぇ……」
というわけでイヴァンの声をスルーして、俺の掛け声に賛同してくれるみんなと共に宿へと帰ることにした。
「……ってギルドに行かねぇのかよ!?」
翌朝、宿の部屋に籠って刀を作成していると、イヴァンから盛大なツッコミが入った。昨日は宿に帰ってから、あのとき相対した相手の情報を共有はしてある。
「せっかく本物のアダマンタイト製の刀を分析できたから、忘れないうちに早く試してみたいじゃん?」
「同じく」
俺の言葉の後に、イヴァンを振り返りもせずに莉緒が短く告げる。
「あー、うん、そうですね」
もはや返す言葉もなくなったのか真顔になっていた。
「あとでイヴァンの槍もアダマンタイトで作ってやるよ」
「本当か!?」
「おう。任せておけ」
が、今度は両拳を突き上げて喜んでいる。いろいろと忙しいやつだな。
「ボクもがんばるよ!」
フォニアも鉄鉱石を握り締めてがんばっている。鉄鉱石へと魔力が浸透していき、もこもこと動き出している。なかなか上達してきているみたいだな。
ひとしきり喜んだあと、金属にかかりきりになっている俺たち三人を見回して、顎に手を当てて考え込んでいる。
「じゃあ俺は暇だし、ニルとギルドで情報収集でもするかな」
「わふぅ?」
首を傾げているが、金属いじりを眺めてるよりはニルも暇つぶしになるんじゃないかな?
「行ってくれるなら助かるな。念話は常時繋いでおくから何かあったら言ってくれ」
「ああ、わかった。……じゃあ行こうか、ニル」
「わふぅ!」
呼びかけに尻尾を振るニルを連れて、イヴァンがギルドへと向かった。
ふむ……。念のためイヴァンの周辺は気配察知で警戒しておくか。
「うーむ、もうちょっとアダマンタイト掘りに行くか」
「そうねぇ、鞘も作るとなると足りないわよね」
あれから二日ほどたった現在、俺たちは材料不足に悩まされていた。鞘は他の金属でもいいかと思っていたんだけど、何度かルイゲンツさんの工房に足を運んでアドバイスを聞いたところ、鞘もアダマンタイト製が一番いいとのこと。
あとは少しだけ採取できたオリハルコンの使い方も聞いてきた。刀身に溝を掘って、そこにオリハルコンを流し込むのが一番魔力の伝導がよくなるそうだ。
他にはミスリル銀は柔らかくて魔力伝導がいいので、武器には向かずにアクセサリとか杖の触媒にするといいらしい。魔鋼は単純にちょっとだけ魔力伝導のいい鉄扱いだとのこと。
「まったく……、呑気だなぁ……」
刀造りに精を出す俺たちを見て、イヴァンがため息をついている。
「と言われても、結局手掛かりはなかったんだろ?」
「まぁそうなんだけど」
例の謎の組織と、毒使い事件の被害者についてイヴァンは自発的に情報収集をしていたようだが、結果は芳しくないようなのだ。
盗賊ギルドや暗殺者ギルドなんて、支部も含めたらそこそこ大きな街ならどこにでもあると言われてドン引きして帰ってきたのはついこの前だ。アジトまでは知られてなかったみたいだが、あいつらがこの街の盗賊ギルドの構成員ということは知ってる人は知っているようだった。
「まさか被害者が確認できないって思わなかったよ」
そうなんだよねー。あの毒使い女のリアクション見た限り間違ってないと思ったんだけど、被害者を探してる人まで出てこなかったのだ。しかし、流れの冒険者とかが被害者となればそんなもんなんだろうなとも思う。
「渓谷の川もそんなに浅くなかったし、毒を盛られて突き落とされたらそのまま流されて見つけられないのかも」
「だよなー」
後頭部を掻きながら苦笑するイヴァンに、俺もまたこれ以上調べるのは無理なんじゃないかと感じた。地球の捜査法みたいに指紋とか血液反応とか見れるわけでもないし、こんなもんかな。魔法的な何かはできるかもしれないけど、そこにそれだけ力を入れる必要もないだろう。
「もうこれ以上は調べようがないんじゃない?」
「そうだなぁ。気になって調べだしたけど、見ず知らずの人間にここまでする義理もないか」
莉緒の言葉にイヴァンが肩をすくめている。
「んじゃま、今日は坑道に行こうぜ」
こうして今日の予定が決まった。




