第202話 謎の組織
建物の中は予想通りバーのような店だった。奥に向かってバーカウンターが続いており、客がまばらに席に座っている。
中に一歩踏み込むが特に店員も何も言葉を発しない。勝手に座って勝手に注文しろっていうスタンスの店なんだろうか。
店員と客全部の視線が向けられるが、意に介さずにずんずんと奥へと進んでいく。ニルを先頭に入っていくと幾人かの客がギョッとした顔をするが、特に文句を言ってくる気配はない。
片っ端から鑑定していくが、客は一般人みたいだな。店員も大したステータスの奴はいないが、職業が盗賊と詐欺師のやつがいた。
「おい」
奥にある階段を降りようとしたところでようやくカウンター内にいる詐欺師の男から声が掛かった。
「なんだ?」
「下は立ち入り禁止だ」
「そうか」
ニルはすでに階段を駆け下りている。フォニアを抱き上げると、そんなもん知るかとばかりに無視して階段を下りていく。
「おい! そっちはダメだって言ってるだろうが! ……チッ」
舌打ちと共にカウンターから出てきて男が後ろから追ってくるが、気にせずに先へと進む。扉が二つあるが犯人は奥の部屋だ。手前の扉をスルーしてニルの待つ奥の扉の前へとくると、後ろから来た男が手を伸ばして触れる直前で目の前の扉を蹴り破った。
「なっ!?」
派手な音を立てて扉がぶち破られる瞬間を見た男が絶句する。
中に入ると男が三人、女が二人だ。フォニアを弓で射た奴は『狙撃手』の職業を持つ男だった。これまた全員を鑑定するも、ステータスが最大でも1500ほどだ。他にいる職業は、暗殺者に毒使いに罠師に密偵とかロクな奴がいないな。ここは何が集まるところなんだ。とりあえず全員空間魔法でマーキングしとくか。
「な、なんなんだお前ら!?」
急な訪問に戸惑っているようだが、時間を与えるつもりはない。
「なんだって、落とし物を返しに来ただけだから気にするなよ」
狙撃手の男へと近づきながら、異空間ボックスからフォニアへと放たれた矢を取り出す。ピクリと反応するも、動き出す前に狙撃手の太ももめがけて矢を突き刺した。
「ぎゃああああぁぁぁぁぁ!!」
「えっ!?」
「な、なにすんのよ!?」
「なんなんだ!」
「おいおいおいおい!」
「あとはフォニアを狙った理由を聞きに来た……、ってところだな」
「狙ったって……」
刺された男に視線を向けた男が何かに気付いたように、また俺を振り返る。
「い、いったい何の話だ! いきなりこんなことしてタダで済むと思ってんのか!?」
「おいおい、矢についた匂いをニルが辿って来たんだ。間違うはずねぇだろうが」
ポンポンとニルの頭を撫でると「わふぅ!」という声が帰ってくる。
「それに、Sランク冒険者の索敵範囲を舐めてもらっちゃ困る」
襟元からミスリル製の冒険者証を取り出すと、周りの人間に見えるように翳す。せっかくなのでSランク冒険者の威光を使わせてもらおう。
「あ……、あの女の人、前に河原で見たことあるよ」
が、そのあとに続いてフォニアが声を上げ、青ざめている毒使いの女を指さした。
「河原?」
「うん。宿に初めて行ったときに見たの」
「……あー、あれか」
そういえばそんなこともあったか。確かに男と女が抱き合ってるとかなんとか言ってたけど、見ちゃいけないものを見ちゃったとかそんなところか?
しかし毒使いとなると……。
「特に事件の噂は聞かなかったけどな……。もしかして河原で男でも毒殺してたのか?」
後半はかまをかけるような言葉で問いかけてみると。
「なっ!?」
図星とばかりに青い顔をさらに青くして女が後ずさる。目撃者を消したかっただけなんだろうが、相手が悪かったな。
「くっ……!」
ほぼ同時に、俺たちを追いかけてきていた詐欺師の男が踵を返して外へと出て行く。
『男が一人地下から出て行った。職業は詐欺師、ステータスも三桁前半だったから戦闘能力はないと思う』
『『了解』』
念話で素早く伝えると、莉緒とイヴァンから即返ってくる。うん。念話とても便利。逃げたのか助けを呼びに行ったかはわからないが、どっちにしろ詰んでることには変わりない。
「で、暗殺者に毒使いに罠師に密偵と、そいつは狙撃手だろ? ここはなんかの組織なのか?」
「ぐっ……、何も知らないで……、来たのか!?」
「そうだけど、先に手を出してきたのはお前らだからな?」
理不尽にさらされてますという雰囲気を出しても意味ないからな。これでも結構怒ってるんだぞ俺は。こんなに可愛いフォニアを弓矢で射るとかどういう神経してるんだ。
威圧を込めて見回すと、狙撃手以外の四人ががくがくと震えだしてきた。狙撃手の男は痛みと恐怖で気絶でもしたか。
「フォニアはどうしたい?」
俺の言葉に首を傾げるフォニア。
「フォニアが襲われたわけだけど、仕返ししたいとか何かない?」
「えっ?」
詳しく説明するもピンと来ていないようだ。首をひねって考えているようなのでちょっと待ってみる。
「うーん……、もう大丈夫だよ?」
思ったよりあっさりとした答えが返ってきた。
本人がいいなら、今日はこれくらいにしといてやらんでもないか?
「あ、そうだ」
と思ったけど、本人の怖さも知ってもらわないと、別行動した時にまた狙ってくるかもしれないよな。
「どうしたのお兄ちゃん?」
「ちょっと獣化でもして、こいつらにフォニアの怖さを教えてあげようか」
「? わかった」
よくわかっていないフォニアを地面に下ろすと、着ていたワンピースを脱ぎ去ってパンツ一枚になる。
あー、うん。今後手を出されないように脅しておこうと思ったけど、服もちょっと考えないといけないな……。
パンツも脱ぎ去ると獣化が始まった。ほんの数秒ほどで体が大きくなり体高が二メートルほどの狐になる。もちろん尻尾は五本だ。
「「ひいいぃぃぃっ!」」
「「……ッ!?」」
「……こう見えてもフォニアはSランクの従魔だ。お前らの匂いもニルが覚えただろうし、次はないからな?」
「わうううぅぅ!」
すり寄ってきたニルの首を撫でてやると、嬉しそうに三本の尻尾が揺れる。
「じゃあ帰るか」
『うん!』
扉から出られなかったフォニアがまた幼女へと戻ったので服を着せる。
何とも締まらない脅しをかけ終えると、謎の組織のアジトを後にするのだった。




