第199話 弟子
「やっぱり、ルシエルの作品で間違いありません。シュウさんが作ったと言われる短剣も、ルシエルの作品にすごく似ています」
改めてパウラさんに告げられてもやっぱりピンとこない。
「いやだから、師匠はヴェルターといって、ルシエルとは違いますよ?」
「いえ、ルシエルという名前も本名ではないという噂もあるので、そこは問題ではありません」
隣でうんうんと親方が頷いている。
いやでも鑑定したらしっかりと製作者まで見えるんだが……。どうしたもんか。
「あの、ここにはその、ルシエルの他の作品はあったりしませんか?」
おお、ナイス莉緒。もし他にあれば鑑定で製作者がわかるな。これで師匠の名前が入ってたらマジでびっくりだが。
いやでも、あれだけ長生きしてる師匠だ。作った武器が名工とか言われて世に出てる可能性もゼロではないのか……?
「…………」
親方がまた口元を動かしているような気がするが、それを聞いたパウラさんが驚いた表情で親方を振り返っている。
「えっ!? あるんですか!?」
パウラさんも知らなかったようだが、察するにルシエルの他の作品がこの工房にはあるらしい。
「アタイも見てみたいです!」
大きく頷くと、親方はそのまま部屋を出て行く。
「あ、アタイもシュウさんの短剣見せてもらってもいいですか?」
もはや通訳を忘れたパウラさんに頷きを返すと、二本の短剣を手渡す。
「ありがとうございます!」
嬉しそうに観察を始めるパウラさん。違うって言ってるけどもう気にしないことにしよう。ここにある作品を鑑定すればわかることだ。
しばらくすると親方が一本の武骨な片手剣を持ってきた。華美な装飾は施されておらず、実用一辺倒に見えるその剣は第一印象でもインパクトがあった。
無言で差し出されたので受け取ると、さっそく鑑定だ。
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種類 :武器(片手剣)
名前 :シルバーエッジ
説明 :タウル鋼を鍛えて造られた両刃の片手剣。
芯にミスリルが含まれており、魔力の通りも良い。
頑丈な作りで粗雑に扱ってもそうそうに壊れない。
品質 :A
付与 :自動修復
製作者:ルシエル
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「シルバーエッジ?」
思わずついていた名前を口にすると、ピクリと親方とパウラさんが反応する。さすがに名工の作品ともなると、名前がついていてもおかしくないか。にしても、師匠とルシエルが同一人物でなくてよかった。これではっきりしたな。
「鑑定で、製作者は『ルシエル』と出ました。俺たちの師匠とは別人ですね」
「「……!?」」
目を丸くする二人をスルーして、鞘から刀身を引き抜く。ギラリと銀色に輝く刃が空気にさらされる。軽く魔力を流してみると、確かに師匠や俺たちの製法に近い感触が返ってきた。
鞘へと戻すと莉緒へと渡す。俺と同じように確認しているんだろう。ちょっとだけ驚いた表情に変わった。
「鑑定持ちだったんですね……」
「……ッ!?」
「シュウたちの師匠ってすげーなって思ってたけど、さすがに別人だったか……」
イヴァンがホッとした表情になってるが、さすがに俺もあの大雑把な師匠が『名工』って言われるとすげぇ変な気分になる。
「でも、この短剣もですけど、ルシエルの作品と製法がすごく似てるんですよ!?」
パウラさんが力説する通り、確かにシルバーエッジの製法は似たようなところがある。土魔法での形成と、炉で鍛える製法は完全に別ものだろう。でも出来上がった作品の成分分布とか、いろいろわかると土魔法での形成の役には立つのだ。
「……!!」
親分も身振り手振りで何かを訴えているけど、まったく何言ってるかわからなくて通じない。
「鍛冶職人の間じゃ誰も製法に見当がつかなくて、ルシエルの作品は幻とも言われているんです!」
「いやいや……」
「さすがにそこまでは……」
職人二人の熱量に俺たちはドン引きである。だって土魔法でちょっと形成するだけだぞ? 多少魔力を使うけど……、って、そうか。魔力を使うから誰もやらない可能性はあるな……。
Sランク冒険者のリンフォードさんだって、一部のステータスがかろうじて五桁に届いているくらいだった。それにもしかすると土魔法以外のスキルが必要な可能性だってあり得る。そう考えると、名工ルシエルとやらの製法を俺たちだけが使っている説明にはなりそうではあるか?
「…………!!」
「ぜひその製法をおしえてください! お願いします!」
土下座しそうな勢いで拝み倒してくる二人に、部屋の隅で遊んでいたフォニアの顔も引きつっている。
『あのおじちゃんとお姉ちゃん怖い……』
イヴァンよりデカい魔物にも向かっていったフォニアにも怖いものがあったようだ。
「わかりました! わかったので二人とも落ち着いてください!」
どうどうと両手を前に突き出して二人を宥めに掛かる。なんか予想外の展開になったけど、これはこれで悪くない気がする。この調子ならルイゲンツさんが造った失敗作じゃないアダマンタイト製の刀も見せてもらえるんではなかろうか。
「ほ、本当ですか!?」
感極まった声のパウラさんに頷きを返しておく。相変わらず何言ってるかわからない親方に期待の眼差しを向けられながら、今後の話の持っていき方を考えるのであった。




