第198話 名工ルシエル
第四部の章を作り忘れてたので作成しました……。
「第184話 渓谷街フェアリィバレイ」が第四部の1話になります。
「名工……、ルシエル?」
どこかで聞いたことあるようなないような……、いまいち覚えてないけど、その名工がどうしたんだろうか。師匠の名前は鑑定結果にもあるようにヴェルターだし、ルシエルという名前ではない。
「……え、ご存じないんですか? あの名工ルシエルですよ!?」
まくしたてるように迫ってくるパウラさんに押されながらも、莉緒と顔を見合わせるがお互い首を傾げるばかりだ。
「……俺も聞いたことない」
「ボクもー」
俺たち四人全員に否定されて一歩後ずさるパウラさん。鍛冶業界に疎い俺たちなのでそこは勘弁してください。
「と、とにかく、あの名工ルシエル作がここにあるのであれば、親方に知らせないわけにはいきません!」
とだけ言い捨てると、足早に部屋を出て行ってしまった。
「師匠って、ルシエルって名乗ってたっけ?」
「いや聞いたことないぞ」
「でもどこかで聞いたことあるような気がするわよね……」
「……そうか?」
確かになにか引っかかりはするんだけど、ピンとこないんだよなぁ。
「あ、思い出した」
「えっ?」
「そうよ、オークションで短剣が出品されてなかったかしら?」
オークション? あの商都であったオークションか。奴隷の吸血鬼がインパクトあったけど、その前に短剣が出てたような気がしないでもない。
「だけど師匠の作った短剣と見間違うっていうのもなんでだろうな?」
「そうよね。オークションの時の短剣なんてじっくり見てないからなんとも言えないけど……」
当時を思い返していると、親方を呼びに行ったパウラさんと親方本人がやってきたようだ。
「…………ッ!?」
なんか親方が喋った気がするけどさっぱり聞こえない。
「名工ルシエルの作品を持っているというのは本当ですか? って言ってます」
あぁ、やっぱり喋ってたんですね。というか本当に声に出してるのかな。むしろパウラさん、よく親方と意思疎通できますよね。
「いえ、持ってませんけど……」
聴力強化しつつ返答するが、親方の視線は俺が持つ短剣へと注がれたままだ。
「…………!」
髭もじゃの口元が動いたような気がしたけど、マジでしゃべってんのかな。
「そんなはずはないと……、その短剣を見せてもらえないかって言ってます」
やっぱりしゃべってんのかよ。聴力強化して聞こえないんだけど、パウラさんすげーな。
「ど、どうぞ」
ドキドキしながら師匠の短剣を差し出すと、親方が恭しい仕草で受け取った。鞘のついたままの短剣を矯めつ眇めつじっくりと観察している。鞘から抜いて刀身もしばらく観察したのち、がばっと顔を上げると勢いよくこちらに詰め寄ってきた。
「…………!!!」
やっぱり何言ってるかわからん! パウラさん通訳プリーズ!
周囲を見回すと莉緒とイヴァンはドン引きしてるし、フォニアはニルと遊んでいていつも通りだ。
「これは名工ルシエルの作品に違いないと。どこで手に入れたんですか!?」
パウラさんも一緒になって詰め寄ってきたけど、この狭い部屋では正直勘弁してください。
「言いますから、落ち着いてください!」
むしろ落ち着いてくれないと何も言わないという雰囲気を出すと、さすがに空気を読んだのか一歩下がってくれた。
「えー、この短剣は、俺たちの、師匠から譲り受けたものです」
咳ばらいを一つしてから、言葉を区切ってゆっくりと二人に告げる。
「し、師匠!? もしかして……!」
「はい。短剣を作ったのも師匠です」
「ええっ!? じゃ、じゃああなた方はもしや……、名工ルシエルの弟子ということでは……!?」
「なんでやねん!」
おっと……、思わずツッコミが漏れてしまった。
師匠の弟子という言葉は否定しないが、ホント名工ルシエルって誰なんだよ。
「師匠の名前はヴェルターと言います」
「「…………ッ!?」」
名前を告げた瞬間に息を呑む二人。手元の短剣と俺に交互に視線を向けて、さらに目を見開いている。
だから違うって言ったでしょう、と言おうと思ったんだけどなんだか様子がおかしい。短剣を持つ手をぷるぷると震わせて、親方がまた何かを告げる。聞こえないけど。
「そ……、そちらの短剣を見せていただいても?」
俺たちが作った土製と鉄製の短剣を恐る恐る指さすパウラさん。まぁ師匠のと比べると出来は良くないけど、見せる分には抵抗はない。
「どうぞ。こっちの二本は俺が作ったものですが」
師匠の短剣を受け取ると、代わりに自分で作った方の短剣を手渡す。相変わらず恭しく受け取る親方だが、鍛冶職人としての武器への接し方ということなんだろうか。
短剣を鞘から抜いて「ほぅ」と感嘆のため息をついている。
パウラさんも師匠の短剣を触りたそうにしていたので渡してあげた。
武器防具が無造作に置かれた狭い部屋に六人と一匹がいると窮屈さを感じる。名工ルシエルじゃないと告げても雰囲気の変わらない二人が、短剣を観察するだけで時間が過ぎていく。
やがて満足したのか、二人に短剣を返してもらったのでいったんテーブルの上へと置いておく。すると、親方が真剣な目を向けておもむろに口……の周りの髭を動かした。
「…………!」
だから聞こえねぇって!?




