第196話 鍛冶職人ルイゲンツ
あれから数日が経ち、金属類も十分に集まった。河原からはミスリル銀や魔鋼といった金属も抽出できたし、ごく少量ではあるがオリハルコンやヒヒイロカネといったものまで見つかったので嬉しい限りである。
「今日はかじしょくにんって人のところに行くんだよね?」
「そうだよ」
フォニアの言う通り、鍛冶職人にアダマンタイト製の武器でも見せてもらえないかと思っている。ついでに見つけた金属でよく知らないやつの使い道なんかも聞けたらいいなぁと。
「でも忙しい人なんだろ?」
「みたいだけど、とりあえず行ってみないとわからないしな」
「刀よ刀! 刀を作ってる人なんて今まで会ったことないし、是非とも話を聞きたいわ!」
莉緒が鼻息を荒くしているが、忙しい人に割り込むための材料集めもひと段落付いたところなのだ。そこそこ集まったアダマンタイトと希少金属、その他もろもろを武器に、朝早くから鍛冶職人街へと向かった。
「ここかな?」
川を渡って職人街へと入り、川上へと向かって行った先にルイゲンツさんの工房はあった。職人街のはずれといっていい場所ではあるが、煙突からは煙が吐き出されていて、鍛冶工房なのは間違いなさそうだ。
開きっぱなしの入り口をくぐると中に入る。小さいカウンターがひとつだけで、これといって何もない空間だった。カウンターの向こう側には、座りながら船をこいでいる女の子がいた。
「……あ、いらっしゃい!」
寝てませんよと意味が籠っていそうな元気のいい声で、小さい女の子が出迎えてくれる。フォニアより背は高いが、俺よりはだいぶ低い。しっかりとした体つきではあるし、背が低いことを除けば子どもには見えない。
「刀の作成依頼以外だったらアタイが承るよ!」
作成依頼は受け付けないと先制攻撃を食らった気がしないでもないが、俺たちの目的とは違うので気にしないことにする。というかやっぱり寝ぼけてないかこの子。
「ルイゲンツさんの作品を一目見たいなと思って来ました」
「親方の作品……?」
莉緒が要件を告げると、女の子が首を傾げている。
親方ってことはこの子は弟子なのか。その割にはカウンターで船をこいでるとか弟子っぽく見えなかったけど。
女の子が後ろを振り返っているけど、カウンターに隠れて向こう側に何があるかは見えない。棚にはちらほらと金属の塊が鎮座しているけど、握りこぶしより小さくて鍛冶に使えるようには見えない。
「えーっと、見るだけでいいんですか?」
「はい。見るだけでかまいません」
「はぁ……」
なんとも歯切れが悪いが、工房なのに作品が置いてないんだろうか。気難しい職人なら、気に入らなかった作品は全部失敗作で、他人様に見せられるもんじゃねぇとか言いそうだけど。
顎に手を添えて考え込む女の子を見ていると、カウンターの奥から一人の男が姿を見せる。がっしりとした体格の髭もじゃ男だ。見た目からしてドワーフといった風貌をしている。
「……っ!? 親方!」
女の子が驚いて振り返っているが、音もなく現れたのでそりゃびっくりするかもしれない。
「……」
「あ、その、この人たちが親方の作品が見たいって」
「……」
「はい。作成依頼じゃないみたいです」
女の子の声だけが聞こえてくるが、これは親方と会話してるんだろうか。髭もじゃで口元が動いているかどうかも見えない。俺より背が低く、ずんぐりした体型である。鑑定もしてみたけど間違いなくドワーフだった。
しばらく二人の会話? を見守っていると、女の子がふとこちらを振り返る。
「あ、お待たせしました」
居住まいを正すと改めてこちらへ向き直る。そして親方は用は済んだとばかりに奥へと引っ込んでいった。結局親方と会話してないんだけどなんだこれ。
「えーと、親方が作った完成品はいくつかあるけど、それは他のお客さんの注文品なので見せられないそうです」
「あ、そうなんですか……」
なんとも残念ではあるが、まだ売れてない作品とかはないのかな。オーダーメイドしか受けてないんならなさそうだけど、依頼予約がいっぱいってギルド職員も言ってたしなぁ……。
「でも、失敗作でよければ奥にあるので、いくらでも見物していけって」
「えっ? いいんですか?」
莉緒が驚いているけどマジか。気難しい職人を想像してたけど、なんかいい人そうだぞ。
「はい。ただし、絶対に売る気はないのでそのつもりでと。工房からの持ち出しもしないでくださいね」
「それはもちろんです! ありがとうございます!」
ちょっとこれは俺も楽しみになってきたかも。
「では案内するので付いてきてください」
奥へと歩き出した女の子の後をついていく。工房の隅で遊んでいたニルとフォニアも大人しくついてきた。
「ちょっと思ってたのと違ったな」
「そうだけど、いい方向に予想を裏切られた感じよね」
「あそこまで無口だとは思わなかったけどな」
三人で親方のルイゲンツさんの第一印象を言い合っていると、倉庫のような場所へ案内された。多少室温も上がっていて、炉が近いのかもしれない。
「この中の物なら好きに手に取ってみてもらってもいいですよ」
六畳ほどの部屋に棚や壺が設置され、様々な武器防具が無造作に放置されている場所だった。




