第193話 鍛冶職人
「いやー、やっぱりシャバの空気は美味いぜ!」
坑道から外に出てくるなり、刑務所から出てきたようなセリフをのたまうイヴァン。暗くて狭いところから出てきたから、解放感があるのは否定しないけど。
「おなかすいたー」
「わふー」
フォニアとニルは腹が減ったみたいだな。
もう日も暮れており、かなり薄暗くなっている。渓谷街だけあって日が沈むのも早いのだ。
「よし、じゃあギルドで報告したら帰って飯にしようか」
「わーい!」
ばんざいして喜ぶフォニアにほっこりしつつ、鍛冶職人街を下ってギルドへと向かう。ついでに腕のいい鍛冶職人もギルドで聞いてみるか。頑固な職人でもアダマンタイトを大量に持ち込んだら話くらいは聞いてくれるだろ。
谷底の川を渡ってギルドへと到着する。ギルドの向こう側から美味しそうな匂いが漂ってきて、余計に腹が減ってきた。
日が暮れた時間帯となれば依頼報告の冒険者が押し寄せる時間帯だ。昨日来た時よりもかなり混んでいた。酒場が併設されていない分、酔っ払いがいないのが救いか。
「依頼達成の報告はこっちでやっとこうか」
「いや、俺も職員にちょっと聞きたいことがあるんだ」
「そうなんだ?」
「ああ。この街で腕のいい鍛冶職人がどこにいるか聞いておきたくて」
質問に答えると莉緒の目が心なしか輝いたように見える。新しい金属を手に入れたなら、それで武器を作ってみたくなるのはしょうがないことなのだ。ましてや街は鍛冶でそれなりに有名だという。であれば取る選択肢としては一つしかない。
「……おなかすいた」
「わふぅ……」
しかし俺たちの会話にしょんぼりするのが一人と一匹。
「あはは、それじゃフォニアちゃんはニルと先に宿に帰ってる? すぐそこだし、ライラさんに言えば何か出してくれるかも」
ギルドから宿は目と鼻の先だ。ギルドの近くは治安もいいし、ニルもついてるし問題ないだろう。
「うん!」
「わふぅ!」
空腹に勝てなかったフォニアとニルは、揃って尻尾を振りながら先に宿へと帰っていった。
俺たち三人は一番空いている買取カウンターへと並ぶ。三十分ほど並んでいると俺たちの番が回ってきた。と同時にフォニアから『おいしー!』と念話が届く。ご飯にありつけたようで何よりだ。
「これよろしく」
鉄鉱石の入った袋をカウンターに出すと、職員が無言で頷いて受け取り中身を確かめる。2kgで依頼一件分で、全部で65kgちょい袋に入っていたようだ。職員が不思議そうに袋の底を調べていたけど、何もないただの袋だぞ。
「ところで、腕のいい鍛冶職人を紹介して欲しいんですけど、大丈夫ですか?」
イヴァンの依頼達成数が増えたことが確認できた俺は、無口な職員へと鍛冶職人のことを尋ねてみる。
「腕のいい鍛冶職人?」
「はい。癖が強くてもいいので、腕のいい鍛冶職人をお願いしたいです」
「はぁ……」
なんとも歯切れの悪い受け応えだが、そこらへんはいつもの俺たちに対する反応というところか。あ、もしかするとイヴァンと同じEランクと思われてる可能性もあるか。
襟元から冒険者証を周りに見えないように出すと、職員へと見せる。
「――っ!?」
とたんに表情が変わり背筋がピンと伸びる反応を見て、イヴァンが肩をすくめている。
「は、はい! 腕のいい鍛冶職人ですね! それでしたら斬鋼のルイゲンツさんが一番だと思います」
「ざんこう?」
「はい。鋼を斬ることのできる刀を作ったことで二つ名がついた鍛冶職人です」
「へぇ」
「刀!」
莉緒が刀に食いついたけど、この世界でも刀って存在するんだ。自分で刀もどきな武器は作ったけど、実際に作る鍛冶職人がいるんであれば見てみたいな。
「刀をご存じでしたか。扱いが難しく使い手が非常に少ないのですが、非常に切れ味のいい武器として一部で有名ですね。わざわざ他国からルイゲンツさんを訪ねてくる人もいるくらいでして」
「それは期待できそうですね」
「ええ、それはそうなんですが……」
そこで職員が言葉を濁す。やっぱり癖のある鍛冶職人なんだろうか。
「刀の作成を依頼するのであれば、今から予約しても出来上がりは数年先になりそうなんですよね」
なるほど。それだけ腕がよければそうなるか。
「あー、依頼をしようとは考えてないんですよね。そのルイゲンツさんが作った作品を見せてもらえればいいので」
「あ、そうなんですか」
「はい。刀が好きなので……。趣味みたいなものですね」
笑顔で職員に言い切る莉緒。それはそれでいいのかとも思うけど、莉緒の本職は魔法なので嘘ではないんだよな。俺も刀は好きだけど、師匠の遺品に強力なガントレットがあったからそっちを使ってるだけで。
まぁガントレットを装着しつつも武器を握れないこともないけど。
「それならまぁ、ルイゲンツさんの工房へ行けば過去に作った武器はあるかもしれませんね」
その後職員からルイゲンツさんの工房の場所を聞くと、俺たち三人は宿に戻るためにギルドを出たんだが。
「よう、待ちくたびれたぜ」
一人の冒険者の男が俺たちの前に立ち塞がった。
誰だコイツ。
莉緒とイヴァンとも顔を見合わせるが、二人とも首を左右に振るだけで知らないらしい。
「あんたたち、あの妖精の宿に泊まってるらしいな」
確かに泊まってる宿の名前はそんな感じの名前だった気がする。街一番の高級宿だ。出入りするだけですぐに周囲に知れ渡っても不思議では……ないのかな。なんというプライバシーのなさだ。
「それが何か?」
「はは。まぁそんなに警戒しなさんな……。といっても難しいだろうが――」
そこで意味深に言葉を切ると、ニヤリと笑みを深めて立ち塞がる男が口を開いた。
「ところで、一緒にいたガキはちゃんと宿まで帰れたのかよ?」




