第152話 なんということでしょう
何もなかったただの森の中に、家ができているではありませんか。
ではさっそく中をご覧に入れましょう。
というわけでお昼ご飯を食べた後は隠れ家のお披露目である。
崖を左手にして立つと、目の前に家の玄関が見える。三段ほどの階段を上がると扉を開けて中に入った。
「なんじゃこりゃ……」
広々とした土間には調子に乗ってシューズクロークまで作ったんだが、呆然と呟くイヴァンにはスルーされてしまった。靴を脱ぐ習慣がないし、無用の長物だったかもしれない。あぁ、そもそも替えの靴がなかったな。
「ふわー、すごい!」
リビングは左右が短く、奥行きのある長方形なつくりになっている。右側には大きな窓があるが、ちょうど中央には巨木が生えていて視界が遮られている。左側奥には二階へと続く階段がある。
ニルはさっそくリビングの隅で座り込むと、大きく欠伸をして寝転がった。
「奥にキッチンとかトイレ、風呂があるぞ」
「二階は?」
フォニアが目をキラキラさせて尋ねてくるが。
「行ってみるといい」
「うん!」
好奇心を刺激する答えをすれば、元気よく駆けていった。といっても寝室があるだけなんだけどね。あとは家の中からは見えないけど、巨大な貯水タンクも備えている。もちろんたっぷりと魔法で水を出しておきましたとも。
「ひろーい!」
二階からはしゃぐフォニアの声が聞こえてくる。
イヴァンはリビングの奥に回り込んで、ダイニングキッチンを眺めまわしている。
「なんじゃこりゃ……」
「食器や調理器具も置いてあるから自由に使ってくれ。昔使ってたお古だから、壊しても文句は言わないし」
「ここを捻ると水が出るよ」
「お風呂場にも似たような捻るやつがあるから風呂も入れるぞ」
「お、おう……。これって、魔道具か何かなのか……?」
恐る恐る尋ねる声に、思わず吹き出してしまう。
「いやいや、二階に設置してある貯水タンクとつながってるだけだ。捻ると栓が空いて、上から水が落ちてくるだけだな」
「そ、そうか。……にしても風呂って、そこまで贅沢なものは必要ないんだが」
何やらぶつぶつ言ってるが、作ってしまったものはしょうがない。わざわざ大量の水を沸かす必要のある風呂は、高級宿にでも泊まらない限りついていないのが普通だ。イヴァンが贅沢品というのもしょうがない。
ってここまで考えておいてなんだが、そういえば……。
「イヴァンって、火魔法使えたっけ?」
「いや……、火魔法は使えない。……魔法全般は苦手だな。フォニアなら火種くらいは出せるが……」
「なるほど」
すっかり忘れてた。そういえば魔法で炎を出し続けて料理する冒険者もいないんだったっけか。高級宿にあるお風呂のお湯も、魔道具で作ってるみたいだし。よくよく考えれば、俺たちが提供する食材も日持ちしないんじゃなかろうか。冷蔵庫なんてないし……。
「うーむむむ」
「どうしたの?」
顎に手を当てて悩んでいると、莉緒が顔を覗き込んできた。
「いや、魔道具って他の人には便利なものだったんだなって思って」
「へっ?」
たまにはこの隠れ家まで様子を見に来ようとは思っていたけど、頻度を上げる必要があるかもしれない。それほど手間ではないけど、ちょっと面倒なのは確かだ。火はともかく、食材を長持ちさせようとするならやっぱりアレは必要だよな。
「よし、冷蔵庫を作るか」
「「は?」」
俺の決意に、莉緒とイヴァンの声が重なった。
というわけで出来上がった冷蔵庫がこちらになります。
「ひんやりしてるー」
冷蔵庫の扉に頬をくっつけて笑顔を見せるフォニア。楽しそうで何よりです。
「んな簡単に作れるもんなのか」
魔法瓶の仕組みを使ってでっかい箱を作っちゃえばすぐでした。あとは冷蔵庫の中の一番上に、保冷剤代わりの密閉容器に入れた氷を置けばほら完成。冷凍庫は無理だが、一般家庭によくあるサイズの冷蔵庫になった。
「開けたらしっかり扉は閉めてくれよ。隙間があれば冷気が逃げるからな」
「お、おう」
「わかったー!」
中の氷も大きめに作ったし、数日は持つだろう。
「氷に塩を入れておけばもうちょっと温度下がるかもしれないわね」
「あー、そういえば昔それでアイス作ったことあったかも。今は冷蔵だけで十分だけど、あとで実験してみるか」
「そうね。うまくいけばまたラシアーユ商会に売れるかも?」
「確かに」
保冷剤代わりの氷を作る方法は考えないといけないが、ものを冷やす魔道具があれば解決しそうだ。
そういえば魔法瓶は保温性については謳ってたけど、保冷もいけるって言ってなかった気がするな。まぁすぐ気づくとは思うけど、気づかれていればそれまでってことで。
「……なんにしろ、狩った獲物の肉をここに入れて冷やしておけば日持ちするってことだな」
細かくツッコむことはもう諦めたのか、自分のやるべきことを確認してくるイヴァンに頷いておく。が――
「食材は置いていくから気にしなくていいぞ。というか他の冒険者が依頼でこの森に来ることもあるだろうし、あんまり出歩かない方がいいかもな」
崖上とつながる屋上への階段も、蓋をして樹の枝で隠してカムフラージュしてあるのだ。
「これだけ派手に隠れ家を作っておいて何言ってんだ」
「うっ」
ごもっとも。思わず窓まで作ったけど、塞いで目立たないようにしておこうか。
「ま、まぁ、崖下エリアなら大丈夫かもね……。ただ、どんな魔物が出るか知らないから、気を付けてくれよ」
冒険者ギルド二階の依頼ボードには、この森関連の依頼はほとんどなかったから大丈夫とは思っている。だいたいはDランク以下の依頼のはずだ。そこまで強い魔物も出ないだろう。
「とはいえ食材とか調味料は置いていくから、無理に狩りはしなくていいからな」
「わかったよ」
そうしてくれ。もしイヴァンに何かあればフォニアは一人で生きていけないだろうしな。
「それじゃ、ちょくちょく様子は見に来ると思うけど、海皇亀が片付いたら迎えに来るよ」
「ああ……。返せるものが何もないが、ありがたくここを使わせてもらうよ」
こうして二人を無事に保護した俺たちは、隠れ家の座標を記憶すると港街レブロスへと戻った。




