第151話 森の奥地に隠れ家を建てよう
港街レブロスの北東に広がる森は、隣国の商業国家へまでまたがるほど東西に広い森である。テレポートは移動距離によって消費MPが指数関数的に増えるので、森の入り口近い場所に飛んでからは歩いている。
「なぁ、そろそろいいんじゃねぇか?」
四人と一匹で歩いていると、後ろからイヴァンの制止する声が聞こえてきた。振り返るとフォニアが肩で息をしている。
「ああ、ごめん、ちょっとフォニアにはきつかったかな」
「ごめんね、フォニアちゃん」
「ううん……、だい、じょうぶ、だよ……」
両ひざに手をついて健気に見上げてくる姿に罪悪感が湧いてくる。まったくペースを考えずに歩いてきちゃったな。周囲に人の気配もしなくなってるし、このあたりに決めちゃってもいいかもしれない。
「ちょっと休憩しようか」
異空間ボックスから椅子やテーブルを取り出してお茶の用意をする。
「……もう何でもありだな」
遠い目をするイヴァンもそろそろ慣れてくればいいと思う。
「フォニアちゃんはこっちに座るといいよ」
莉緒が小さめの木箱を取り出してクッションを乗せると、その上にフォニアを座らせる。子ども用の椅子は持っていないので代用だな。子ども用にいろいろ揃えないとダメかもしれない。
「はいどうぞ」
カップにお茶を注ぐと魔法で氷を入れてフォニアに渡す。
「ありがとー」
小さな手で受け取ると、カップに口を付けてコクコクと喉を鳴らす。
「冷たくておいしい!」
「こっちも美味しいわよ」
莉緒は焼き菓子を取り出してフォニアへと手渡している。残りをテーブルへと置くと、椅子へと腰を落ち着ける。残念ながらフォニアだけ背が足りずに、テーブルからはギリギリ目が見えるといったところだ。
「あまーい」
両足をバタバタして大きな耳をせわしなく動かしながら、フォニアが美味しそうにお菓子を頬張っている。
「はー、生き返る」
イヴァンも一息ついたようで、イスに深く腰掛けてカップを傾けている。
「しかし……、森の中だってのに快適だな」
テーブルの焼き菓子へと手を伸ばしながらイヴァンがぼやいている。
周りを見れば獣道すらなくなっており、起伏も激しくなっている。樹上の葉も茂っていて昼前だというのに薄暗い。
「快適に過ごせる手段があるなら妥協はしない」
「ははっ……」
グッと親指を立ててやると苦笑いが返ってきた。フォニアも釣られたのか、いい笑顔で親指を立てている。
「さて、ちょっと周辺を見回ってくるよ」
休憩中に野営地によさそうな場所を見繕ってこよう。俺たちはまだまだ体力には余裕があるが、フォニアはそうではないのだ。
一言告げてお茶を飲み干すと、カップを仕舞って立ち上がった。
「行ってらっしゃい」
三人に見送られてその場を離れる。
「おー、いい景色。ここでいいかもなぁ」
数分ほど駆けていくと、見晴らしのいい場所へと出た。崖の上に出たようで、向こう側の景色が一望できるようになっている。といってもすぐ足元に木の天辺が見えるので、崖という気がしないが。左右を見回しても視界の先まで続いているようで、崖下へと降りる道はここからは見当たらない。
休憩場所へと戻ると、さっそくみんなで崖下へと降りることにした。イヴァンを抱えてゆっくりと空中降下したが、もはや何も突っ込まれなかった。
「ここなら崖上から見ても樹に隠れて見えないかも」
「そうだな。森の中だし、拠点さえあれば食糧調達もできそうだ」
おっと、そうか。食糧調達か。異空間ボックスに大量に入ってるからあんまり気にしてなかったが、普通は日々調達しないとだめだよな。
「食べられそうな木の実もちらほら見かけたし、大丈夫でしょ」
莉緒はちゃんと意識していたのか、道中でもチェックしていたっぽい。俺たちとしてもいくらか食料は提供するし、そこまで気にしなくてもいいけどな。
「じゃあちょっとだけ整地して、家を作るか」
久々の野営ハウスの作成だ。ちょっと気合を入れましょうかね。
「私はお昼ご飯の用意をするわね」
「俺も手伝うよ」
「ボクも!」
両腕をまくるイヴァンと、シュピっと片手を上げるフォニア。
「じゃあ二人とも莉緒を手伝ってくれ」
「えっ?」
予想外だったのかイヴァンが驚いているが、家は全部魔法で作りあげると答えると真顔になった。
「あはは!」
フォニアの笑い声を背中に聞きながら、崖のふもとへとやってくる。頭上は樹木で覆われているが、地面はある程度の広さがある。崖上までは五、六メートルくらいか? 二階建てにすればちょうど屋上と同じくらいの高さになるかもしれないな。
森の中の地面は樹木の根も張っていてうねっているので、高床式にしますか。土魔法で五十センチほどの高さに土台を作る。土間を広めにとるとリビングとの仕切りを区切っていく。崖から離れるとすぐ樹が生えているので、崖に沿う様に横長にした。風呂場や洗面もしっかり作ると壁を形成していく。
うん。ちょっとこれ楽しくなってきたぞ。
「なんじゃこりゃー!」
夢中になって作業をしていると、二階の屋上と崖上をつなげているときに叫び声が聞こえてきた。何かと思って下を覗き込むと、昼飯ができたと呼びに来たイヴァンであった。
隠れて作ってるものには妥協しませんとも。




