第138話 冒険者たちの戦い
「よしっ、お前ら準備始めるぞー!」
漁場へと船が到着すると、漁師たちがせわしなく動き始めた。大型船だけあって、狙いは巨大魚らしい。船の中心からクレーンのようなものが伸びたかと思うと、そこから極太の釣り針に巨大な餌をつけて海に沈められる。もちろん釣り糸も極太だ。
「うーん。こうしてみると、俺たちが使ってる釣竿がなんかおかしく思えるな」
「素材だけは一級品だからね。メタルスパイダーの糸とか……」
シャツにはお世話になってるけど、防御力も半端なくあるのだ。そんな強固な糸を釣り糸に使えば、太くする必要もない。
「おっ」
「どうしたの?」
「獲物が近づいてきた」
「え……? あ、ホントだ」
俺よりは範囲が狭いが、莉緒も気配察知のスキルを持っている。巨大な気配がエサに向かって近づいているのを察知したのだ。
俺たちも何度も釣り上げたけど、あんまり警戒せずに食いつくんだよな。こいつら。簡単に釣れるとは思うんだが、船の装備をみるとかなりごついよなぁ。
「今回のは思ったより警戒してるなぁ」
「そうねぇ。いつもならすぐ食いついてくるのに。むしろ私たちを直接食べようとするわよね」
「あはは、そうだな。でもさすがに大型船に乗ってる人は襲えないんだろうなぁ」
海面のすぐ上に浮かんでると、足元から巨大魚が簡単に迫ってくるのだ。ぶっちゃけ餌なしでも釣れるんじゃなかろうか。
「お、食いついたっぽい」
しばらく経つと餌に食いつく気配がした。と同時に船がガクンと揺れる。
「おっと」
「あっ」
バランスを崩した莉緒を抱きとめると、ついでとばかりに莉緒成分を堪能する。
「もう」
「ははっ、そろそろ護衛の出番だから気を抜かないようにね」
莉緒に抱きしめ返されたところで、クリストフから釘を刺された。
警戒は怠っていないけど、そうは見えないよね。
「あの二人なら大丈夫じゃないの~? いちゃいちゃしつつも警戒は緩んでなさそうだったし」
「アリナーにはわかっても、他にわからない人はいるからね」
「えへへ、そんなに褒められても」
なんだか急に二人で見つめ合って独自の空間を作り出したぞ。あんたらこそちゃんと警戒してますって態度取らなくていいのか。
「まぁ、こっちはこっちでちゃんと仕事しようか」
「……そうね」
普通に会話をしているが、今もなお船は激しく揺れたままだ。周囲の漁師たちも怒声を上げて巨大魚を釣りあげようと必死になっている。
船の中央のクレーンからは、ぎゅるぎゅると勢いよく糸が引き延ばされている。餌に食いついた獲物が勢いよく海底へ向かっているのだ。
「無理やりひっぱったら船が転覆しそうね」
「そうだな……。思ったより巨大魚釣り上げるのは難しそうだな」
巨大魚がエサに食らいついてから二時間が経過したころ。
「まだまだ暴れてるけど、体力あるなぁ」
未だ揺れ続ける船に感心していると、また違った気配が近づいてきた。どうやらまっすぐこの船に向かってきてるようだ。
「何か複数の気配がこっちに向かってるな」
この二時間で俺の気配察知の範囲は同じ護衛の仕事を受けた他の六人にも説明してあるのだ。今となっては半径五キロメートルの半円のドーム内の探知が可能になっている。海中まで含めると距離は短くなるが、地上は莉緒に任せて海中のみに絞れば同じく五キロメートルをカバーできる。
「何体かわかるか?」
クリストフからかかった声に、五体と答えを返しておく。
「二、三メートルくらいの大きさだな。魚っぽくはないが、なんだろうな」
「このタイミングで来るとすれば、半魚人系の魔物かもしれないな」
「へぇ、そんなのがいるんだ」
「Dランクの魔物だが、この数なら大丈夫だろう」
「どっちからくる?」
すらりと鞘から剣を抜き放ち、カントが構えを取る。
「左舷のやや後方から来ます」
「よし、シュウはそのまま警戒を続けてくれ。従魔で一体、カントたちで四体、僕たちとリオさんは援護だ」
「わかった。ニル頼んだ」
「わふぅ!」
クリストフが素早く指示を出すと他のメンバーも武器を構える。クリストフは弓を構え、アリナーは杖だ。莉緒も全員にバフ効果の魔法を次々と掛けていく。素早い魔法展開に驚きの声が上がるが、誰も敵から意識を逸らしたりはしない。
「先制攻撃いきます」
ついでとばかりに莉緒は周囲にアイスニードルを浮かべて待機する。
「来るぞ」
莉緒は気づいているだろうが、他のメンバーに知らせる意味でも声を上げる。まぁ、莉緒の先制攻撃次第で出番がない可能性もあるが。
ザバッと音を立てて水面から次々と魔物が飛びあがり、船へと乗り込もうとしてくる。が、着地寸前の魔物の額へとアイスニードルが突き刺さり、背後へと貫通して彼方へと飛び去っていく。
「ふぁっ!?」
着地を決めた魔物が一歩も動かずその場に倒れ伏す姿に、突撃しようとしたカントたちから変な声が上がった。
やはり出番はなかったようである。
「えーっと、他に近づいてくる魔物の気配はあるかな」
所在なげに構えていた弓を下ろしたクリストフが、なんとか探してきた言葉を発するだけとなった。




