第137話 鑑定結果を聞いてみよう
「暇だなー」
ぼけーっと海を眺めているが、ここまで退屈だとは思わなかった。沖に出てからしばらく経つが、護衛の出番が来るようなことがすぐに起こるはずもない。
「釣りでもする?」
ニルをもふもふ撫でながら、莉緒が異空間ボックスから釣竿を取り出してみせる。
「釣りかー」
相変わらずリールのついていない釣竿である。移動中の船から魚釣りをするにはなかなかに不便ではなかろうか。
「あ、じゃあ、あっちの人たちに、この前あった鑑定について話を聞いてみるとか?」
なんとなく釣りは乗り気でないと気づいた莉緒が、釣竿を仕舞いつつもう一案出してきてくれた。
「おお、そういえばいい機会かもしれないな」
「この二日間会わなかったしね」
そこそこ広い街なので、あれ以来ばったり会うこともなかったのだ。多少人がいるものの動く船上はそこそこ騒音もあるので、他人に聞かれることもないだろう。
莉緒と二人で四人組のいる船尾へと向かうと、後ろからニルもついてくる。
自分たちへとまっすぐ歩いてくる俺たちに気付いた鑑定使いの男――カントが警戒をあらわにすると、他の三人もつられてこちらに顔を向ける。
「な、何か用か?」
若干腰が引けてるように見えるが、他の三人はそうでもなさそうだ。むしろ不満そうな雰囲気である。
「いえ、あの時聞けなかったことをちょっと聞いておこうかと思いまして」
「……聞きたいこと?」
「カントさんの鑑定で、俺たちのどこまで見られたのかなと」
「あぁ……、そういえば……」
以前のやり取りに覚えがあったのか、斜め上方向に視線をやっている。
「だからむやみに鑑定しまくるなって前から言ってんだよ……」
ぼやくように言葉をこぼしたのは、四人の中で一番大人しい雰囲気のギムだ。以前も三人を宥める雰囲気だったことは記憶にある。
「そうですね。俺たちが気づいたように、鑑定されたことに気付く魔物もいるかもしれませんね」
遭遇したことはないけど、魔物にいないと断定することはできない。実際に俺たちは気づけるんだから。
「そうだな……。これからは気を付けることにするさ。……で、オレが鑑定できる内容だったな」
「ええ」
「鑑定で見えるのは、名前と種族名、職業と本人の状態だ。あとはステータスだな」
ほうほう。やっぱり俺が見えるものと同じなのかな。
「HP、MP、筋力、体力、俊敏、器用、精神力、魔力、運の九つの数値が見れるみたいだぜ」
カントの説明を引き継いで、赤毛のベーリルが得意そうに説明してくれる。
やっぱり見えるのは同じか。鑑定スキルなんだし、やっぱり数値も同じように見えるんだろうか。
「その数字も教えて欲しいんだけど」
「えっ?」
目を見開いて俺を凝視するカントは、そのまま自分のパーティメンバーを見回すと。
「ここで言っていいのか?」
「おうおう、相手がいいって言ってんだ。おれたちにも教えてくれよ」
「そうだぜ。敵わねぇから手を出すなだけ言われても納得できねぇしよ」
「はは……」
三者三様の反応を示すが、どうやら仲間内にも広めずにいてくれていたらしい。そんなに悪い人たちでもなさそうな気がするな。
「いいですよ。俺も気になるんで」
「ああ、わかった。……お前ら、びっくりしすぎて大声出すんじゃねぇぞ」
ゴクリと喉を鳴らしてカントが開いた口から出てきた数値は、俺が自分で鑑定した数値とほぼ同じ値だった。というのも2、3ほど誤差がある。
「えっ?」
「はっ?」
「おうふ」
三人はそれぞれ、一言だけ発した後に動きを止めている。
莉緒は数値を聞いて満足したのか、一人でうんうんと頷いている。
「お、俺らの十倍以上じゃねぇか……」
ようやく復帰した一人がポツリと呟くと、二人も続いて正気に戻る。
「いやいや、お前の鑑定結果間違ってんじゃねぇのか」
「なんでCランク冒険者なんだ……」
なるほど、十倍以上なんだ。
俺も人のことは言えずだれかれ構わず鑑定しまくっていたけど、この鑑定事件があってからはちょっとだけ控えている。少なくともギルド内でむやみに鑑定はしないようにしていて、今回のメンバーである他の六人も鑑定はしていなかった。
「へぇ、そんなに違うんだ?」
「あ、ああ……。俺で筋力1100ってところだ。前に帝都でちらっと見たSランク冒険者で、1つのステータスがようやく五桁いくかどうかってところだったんだが……」
ほほぅ。Sランクにもなると五桁……。うん? 五桁しかないけど、いやまぁ師匠も数字は当てにするなって言ってたし、気を引き締めよう。
「リオさんに至ってはMPが六桁とか……、バケモンじゃねぇか」
何しろ魔力成長率百倍だからなぁ。
「お二人さん、一体何者なんですかい」
尋ねられた言葉に思わず莉緒と顔を見合わせる。
「何者って聞かれても、田舎から出てきたただの冒険者だけど」
どこかの王国で召喚された異世界人ですと答える気はないし、これくらいの回答が無難じゃなかろうか。
とか思っていると、莉緒が俺の腕を取って体をくっつけてきた。
「そうそう。夫婦で旅するただの冒険者よ」
「くっ!」
「くそぅ!」
「なんだって!」
「うがーー!」
莉緒の言葉に怨嗟の声が四つ上がったけどスルーしておいた。これでうまく誤魔化せたかもしれないし。
「ああ、そういえば」
もう一つ秘密にしておいてもらったほうがいい情報があったな。
「ニルの種族名も口外しないようにお願いしておくよ」
「えっ? ――っ!?」
この様子だとギルドでは俺と莉緒しか鑑定してなかったようだ。ニルを見てカントが一人だけ顔を真っ青にしていた。
余計なこと言っちゃったかな。




