表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

シスター・マグダレーナは今日も懺悔を聞く

作者: 2626

 私は教会の懺悔担当のシスター・マグダレーナです。

今日も迷える子羊達の懺悔を聴き、共に神に許しを請うのが務めです。

懺悔室で静かに祈りながら待っていると――おや、誰か入ってきたようです。




 「さあ、慈悲深き我らの主に貴方の罪を告白し、共に祈りましょう」

私が優しく声をかけると、その男性はすすり泣きを始めました。黙ってそうしておられましたが、ややあって、己の罪を打ち明けて下さったのです。

「私は恐ろしい罪を犯しました。大勢の人間をこの手にかけたのです」

「まあ……。よくぞ告白して下さいました。けれど、どうして……」

希にですが、このような人殺しの大罪を告白して下さる方もいます。

けれど、大勢の人間を手にかけたとは滅多に聞きません。

「私には家族がいたのです。病死した妻が遺してくれた、最後の、たった一人の……。犬の形はしていたけれど、正真正銘、無二の家族でした」

男性は顔に両手を当てて、そこで激しく泣きました。

「その家族が、マフィアのドンの息子共に殺されたのです……!」

「何と……」

「その後の事はほとんど覚えていません。気付けばアジトに乗り込んで、マフィアを壊滅させていたようでして……」

素晴らしい。私は感動してしまいました。

「たとえ法律が貴方を許さなくとも、神は貴方をお許し下さるでしょう」

えっ、と男性は驚いたような顔をして私の方を見つめます。

「宜しいのですか、シスター……?」

「ええ、貴方の家族愛は何にも勝るものですから。さあ、共に偉大なる主に祈りましょう……」




 その日も神に祈りを捧げていると、懺悔室にどなたか入ってくる気配がしました。

「さあ、慈悲深き我らの主に貴方の罪を告白し、共に祈りましょう」

「シスター、お許し下さい……!」

今度は若い女性のようです。

「私は本当に酷いことをしてしまったのです。兄に暴力を振るってしまったのです!」

そう言って彼女は泣き出してしまいました。

「まあ……。勇気を持って告白して下さったのですね。でも、どうして……?」

「私はミステリー小説が大好きなのです。犯人が誰なのか、トリックはどんなものなのか。ワクワクしながらいつも読んでいました。けれど……兄は……私の兄は、買ってきたばかりのミステリー小説の最初のページに、『犯人はゴードン、氷で出来た凶器を使ったトリック』と落書きをしたのです!」

「何と……」

「気付いたら兄に馬乗りになって、その本で何度も殴りつけていました。おおシスター、私は何と罪深い事を……!」

これは惨い。私は思わず涙をこぼしておりました。

「たとえ兄が貴方を許さなくとも、神は貴方をお許し下さるでしょう」

えっ!?彼女が目を丸くしてこちらを見つめます。

「宜しいのですか、シスター……?」

「ええ、貴方のミステリー小説への愛は何にも勝るものですから。さあ、共に天におわす主に祈りましょう……」




 その日も神に祈りを捧げていると、懺悔室に……おや?二人、揃って入ってきたようです。懺悔室に二人手を繋いで入ってくるなんて、滅多に無いことです。どうしたのでしょう。

私はとても不思議に思いましたが、ここは懺悔室、まずはこの言葉を投げかけます。

「さあ、全知全能たる我らの主に貴方がたの罪を告白し、共に祈りましょう」

「シスター……私は勇者様を殺してしまったのです」

片方の女性が話し出しました。その隣の女性は項垂れて、すすり泣いています。

何てこと。驚きつつも私は言葉を続けます。

「まあ……。一体どうして勇者様を殺したのですか?」

「私達は勇者様のパーティに所属する、女戦士と聖女でした。でも、もう……ただの人殺しになりました」

あら!そうだったわ。

やっと思い出しました。

すすり泣いている女性は、数年前に聖女として選ばれた元シスターのニコレッタではありませんか。

すると、隣にいるたくましい女性は国一番の女戦士のベルナでしょうか。

同じ頃に勇者様のパーティに選ばれて、いずれ復活するだろう魔王を倒すべく切磋琢磨していると聞いていました。

ベルナはニコレッタの手を強く握り、

「私達はお互いを愛し合っていたのです。こんなに素晴らしい人と出会えたのは奇跡だと思っていました。でも……昨日、勇者様が、嫌がるニコレッタを……無理矢理にしようとして……」

そこでニコレッタがベルナにすがりついて、泣きながら叫びました。

「違う、ベルナは何も悪くない!あんな男は勇者じゃない!貴方が人殺しだと言うのならば、私だって同じ人殺しだわ、だから――」

ベルナは黙ってニコレッタの頭を優しく撫でました。

「思わず止めようとしたら、咄嗟のことで私は力加減を間違えてしまったのです……。しかもその時、ドラゴンの大群に囲まれて……もう勇者様の体は、骨も残っていないでしょう。けれど、私の罪は残っています」

「何と……」

あまりにも悲しく辛い事だったので、私は深いため息をつくと同時に涙ぐんでおりました。

「たとえ世界が貴方がたを許さなくとも、神は貴方をお許し下さるでしょう」

ええっ!?

二人して同時に驚きます。

「よ、宜しいのですか、シスター!?こんな大罪を……!?」

「私達は罪人なのに……!?」

私はシスターらしく静かに、穏やかに言い含めました。

「ええ、お二人の愛は何にも勝るものですから。さあ、共に慈悲深き主に祈りましょう……」




 うふふふふ。

私ことシスター・マグダレーナだって、誰にも言えない罪を抱えているわ。

正体は復活した魔王ですって、この世界最悪最大の罪をね。


 でもこの懺悔室のお務めはやりがいがあって、とっても大好き。

もうしばらくはこうやって、人間達の懺悔を聴いていましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ