表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/165

75 聖教会到着

 宿場町からは一般の馬車に乗って聖教会にまでやってきた俺たち。


 聖教会アレクサハリンは海岸沿いに作られた町だとセレンから道中教えてもらった通り、馬車の中からでも遠くに見える水平線と、風に乗って運ばれてくる潮の香りが印象的だった。


 馬車を降りて検問に進むと、そこでは猫を被ったセレンが大活躍した。


 俺たちを担当した兵は、聖女候補と名高いセレンがいきなり外からやってきたことにずいぶんと驚いていた。


 それでも職務に忠実な彼は、セレン様が外出をしているという話は聞いていない、どのような理由で外出していたのか? 一緒にいる男たちは何者でしょうか? などといった質問を繰り出してきた。


 それに対して嘘と本当を交えた説明を涼しい顔でするセレン。


 当然そんな説明だけでは納得できない部分もあっただろう。


 しかしそこはセレンの立場と、あまりにも堂々とした態度、そして決め手は太陽の様に輝く素敵笑顔が炸裂。


 一介の警備兵に過ぎない彼はあえなく撃沈。


 セレンと一緒にいた俺たちも堂々と中へ入ることができた。


 そして検問を抜けた先、聖教会の中に入ると、王都と比べても見劣りしない栄えっぷりに思わず圧倒された。


 外壁を見たときから薄々感じていたけど、これはもはや町というより都市だな。


「こんなに堂々と入れるなんて……何かの罠かしら?」

「魔力を押さえてるからまだバレてないんだろ」


 王都では魔力を隠し忘れていたセレンも、いまは一般人並の魔力しか感じられない。


 俺たちは宿場町を出るときからずっと魔力を隠蔽していたから、相手には強力な敵がやってきたとは思われていないだろう。


 唯一魔力を自分で消せないライナーには、俺が持っていた魔石を渡しておいた。


 以前はマリーさんに治癒魔法を入れてもらっていたけど、今回は俺が魔力を隠蔽できる結界を封じ込めて。


 師匠ぐらいになると魔力を感じ取れなくても魔力を消せるんだけど、ライナーは剣の腕に比べるとそっち方面は下手だからな。


 魔力操作ができないから仕方ないといえばそれまでだけど。


「それよりあまりキョロキョロするなよ」


 訝しげに周囲を見回しているセレンを咎めた。


 いくら悪魔に気づかれなくても、これじゃあ一般の人たちに怪しまれる。


「そうは言ってもね……」

「オイラも入ってすぐに襲われると思ってたんスけど」

「ちょっと拍子抜けよね。それともあたしたちのことなんて眼中にないってことかしら?」

「ま、そういう事だろうな」


 宿場町で商人と冒険者たちから、問題なく聖教会の中に入れたって話を聞いたときからある程度予想はできていた。


 それにこっちは相手を意識してるけど、相手はセレンたちのことを最初から敵として認識していないんだろう。


 石畳で出来た大通りを道なりに進んで見つけた噴水広場。


 そこの端っこに移動して小さく円陣を組んだ。


「しかし、町の中は以前と変わりないようで安心しました」


 町に入ってからどこか表情を緩めていたベルが、安堵の吐息をこぼした。


 噴水の周りで駆けまわっている子どもたちや、隅の方に集まって噂話に花を咲かせている主婦。


 彼ら彼女らはここが悪魔に占領されているとは思っていないだろう。


「結界が消えたことで魔物たちが暴れてるんじゃないかって心配だったからね。ベルは寝る前いつも気にしてたし」

「別に心配していたのは私だけではないでしょう」

「うん私も一緒だよ。それに口には出してないけどセレン様もですよね?」

「ええそうね。でもこうして町の人たちの平和そうな姿を見てると、本当に悪魔に占領されてるのかって疑問に思っちゃうわ。あたしたちが悪い夢でも見てたんじゃないかって」


 実際にここで襲われたセレンたちからすれば、そう感じても仕方ないのかもしれない。


「それにしても……魔力を吸われてる感じがしないわね。予想が外れたのかしら?」

「いや、ほとんど気づかないぐらい微かな量を吸われてるぞ」

「そうなの?」


 地面を指さしてセレンに答える。


 感覚を研ぎ澄ませてやっと分かる程度の微弱な魔力の流れ。


 俺も最初は気のせいかと思ったけど、町に入ってからずっと吸われ続けている。


「ただまあこれぐらいなら、俺たちぐらい魔力量があれば体調が悪くなったり戦闘に影響はないはずだし、いまのところあまり気にしなくていいと思う」


 足下から地中に向かっていく魔力。


 それがどこに集まっているのか……


 まあ地下にある魔法陣と何かしら関連がありそうだよな。


「魔力を吸われてるってこともそうだけど、結界が消えてるってこと……みんな気づいてないのかな?」


 そう言ってアリスが空を見上げた。


 その先には薄っすらと空にかかる雲が見えるだけ。


 聖教会を守っていたという結界はどこにも見当たらない。


「ここの住人たちは操られていて、結界が消えてることを異常だと認識していない可能性があります」

「それなら外から来た人たちはどうなんスか?」


 サーベラスの予想にライナーが首を傾げている。


 俺たちみたいに初めて訪れる人なら違いに気づけなくても、何度も来てる人なら気づいてもおかしくない。


 だけどそれを問題だと捉えるかどうかは別だろう。


「仮に結界が消えてることに気づいたとしても、町の様子から問題無しと判断したんじゃないか?」


 俺がそう言うと、アリスは空に向けていた顔を戻して周囲を見回した。


「……うん、そうだね。元々結界は町を守るためにあるんだから、町が無事で誰も騒いでなかったら、外から来た人たちだって何か理由があって結界を解いてるって考えちゃうかも」


 普段と変わらない日常を過ごしている町の人たちを見て納得したようだ。


「それにしても……本当にみんな操られてるんでしょうか? 正直洗脳されている様には思えなくて、実はもう用済みで解放されてたりってことは――」

「それはないでしょ」


 シンディの甘い期待を真っ向から否定する声。


 マリーさんが不快そうな表情を浮かべて、自分を抱きしめる様にして続けた。


「なんだかざわつく気配が町中に広がってる感じがするし、何よりみんなにうっすらと纏わり付いてるいやーな魔力……わからない? それに一見すると平和そうに見えるのだって、記憶を弄られてるんじゃないかしら?」


 マリーさんが言ったように、町の人たちから異質な魔力を感じる。


 操られてるって前提で注意深く観察すればシンディでも気づけるはずだ。


 いまは自由に動けているみたいだけど、必要に迫られればまた相手の人形に早変わりするだろう。


 町の中央にある大聖堂、王都アルカーノで見た王城に匹敵するほど大きな建物に視線を向けた。


 あそこの最上階に元凶がいるはずだ。


「シヴァ」


 アリスに呼ばれて視線を戻した。


「ああ、町の状況も確認できたしそろそろ動き出すとしようか」




 セレンの道案内に従い、町の外れまでやってきた。


 人気(ひとけ)もなく閑散(かんさん)としたこの地に、古めかしい神殿の様なものが建っているのが見えた。


「あれが結界の魔力を溜めておくところでいいのか?」


 後ろに振り返って確認すると、セレンたち聖教会のメンバーが一様に頷いた。


 もう一度前に向き直り、建物の陰から神殿の方を覗き見る。


 神殿の扉の前には一人の騎士が立ち塞がっていた。


「ここから何か分かるか?」

「いくらあたしでも外側からじゃ無理よ。壁に阻まれて中の様子なんてまるで分からないんだから中に入らないと」

「それもそうだな。頼んだら入れてくれると思うか?」


 そう聞くと、セレンは肩を竦めて首を横に振った。


「町の人たちと違って濃い魔力がこびりついてるし、がっつり操られてる感じがするわね。警備は一人だし、洗脳を解除しちゃえばいいと思うけど?」

「下手にここで洗脳を解いて、それが原因で相手に気づかれるのもな……」

「悩んでても仕方ないでしょ? いま周りに誰もいないし、ライナー君お願いね」

「了解ッス!」


 マリーさんのお願いが耳に届いたときには騎士が地面に倒れていた。


 誰がやったかは言うまでもない。


 騎士が倒れた時点でシンディも動き出し、慎重に神殿の中へ入って行った。


「シヴァ様、ここで洗脳を解いても解かなくても、この先に進めばいずれ気づかれます。それならば早くて手軽な手段を選ぶのが正解ではないでしょうか?」


 それはそうなんだけど、もう少し慎重に動いた方が良くないか?


 そう考える俺の方が変なんだろうか。


「……まあもうやっちゃったんだし仕方ないか」

「みなさん、罠や待ち伏せはありません」


 戻ってきたシンディの報告を受けて俺たちも神殿の中に足を入れた。


 神殿の中は大人五人ぐらいが両手を広げて並べるぐらいの広さ。


 そんな空間に一つだけ存在するもの、部屋の中央にある祭壇。


「これは、すごいな……」


 特殊個体から取り出せる魔石は大きいものでも両手で抱えられるぐらいでしかない。


 だけど、祭壇には人間大ほどの大きな魔石が飾られていた。


 水晶の様に細長く天井に伸びて、反対側を見通せるほど透明。


「これと同じのがあと四つあるのか?」

「そうよ」


 俺もだけど、アリスとライナーもこれには感嘆の声を上げている。


「どうやって用意したんだろうな……」

「なんでも小さな魔石を集めて巨大な魔石に錬成し直したらしいわよ。ステラ様やフィオナ様と同格の天使が協力してくれたみたいね」


 魔石を錬成し直すなんて考えたこともなかったな。


 セレンの説明に少なからず衝撃を受けた。


「そんなことより問題があるわ。いいえ、問題がないことが問題ね」


 俺たちが魔石に驚いている間にセレンたちの調査が終わったらしい。


「問題がないなら良い事だと思うんスけど?」


 ライナーの問いにベルが答えた。


「結界が消えた原因は五芒星の魔石に細工をされたか、魔力が尽きたか、どちらかだと予想していました。しかし、調べたところそのどちらでもありません。そうなると原因はここではなく、おそらく――」

「なるほど、地下の魔法陣にあるってことッスね」

「はい、そう考えられます」

「まあここだけ無事で、他の四つに何かされてるってことも考えられるけど、あんまりピンとこないわよね。やるなら本命一択ってことかしら?」


 マリーさんもベルと同じ考えらしい、俺も同意見。


 元々地下に行って魔法陣の確認をする気でいたから予定通りでもある。


「それでどうやってここから魔法陣のある地下に行くの?」

「簡単な話よ。シンディお願い」


 アリスの疑問にシンディが行動で答えてくれた。


 祭壇の裏側、床に施された封印を解いて厚めの床板を外すと、そこには地下への階段が隠されていた。


「そっか、魔法で隠してたんだ。全然気づかなかったよ」

「そりゃあ簡単に気づかれたら隠し階段の意味がないじゃない」


 アリスが感心していると、セレンは悪戯に成功した子どもの様な笑みを浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ