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50 上級悪魔との対峙

 生い茂る木々の合間を進むとひどく荒れた広場に出た。


 大きな爪跡が地面をえぐり、いくつもの大木が半ばから折れて倒れている。


 強力な魔物がつい最近暴れた様な有様だ。


 そう言えばシヴァが王都の南の方で地竜を倒したってナナリーが言ってたけど、もしかしてここだったのかな?


 乾燥した落ち葉と枯れ草を踏み締めて突き進む騎士団の一番後ろで、周囲を見回しながらそんな事を思った。


 広場の端のほうには偵察部隊が簡易的な野営地を作って見張りを立てている。


「一度この辺りで休憩にしましょうか。その後作戦の最終確認をしましょう」


 ナナリーの指示で部隊は立ち止まり、休憩するグループと見張りのグループに分かれた。


 偵察部隊の人たちもこちらに気付くと直ぐに近づいてきた。


 ナナリーが偵察部隊の人から情報を聞くと王都出発前から状況に変化は無いとの事。


 シヴァたちと討伐しに行ったときと同じで、魔物たちは移動する事無く待機しているだけ。


 もしかして魔物の群れを餌にして私たちを誘い込むのが目的なんじゃないかって疑わしくなる。


 考えても仕方ないのかもしれないけど、何が起きても大丈夫なように気をつけないと。


 私とナナリーはテントに招かれてテーブルに着いた。


 出されたお茶に手を伸ばす。冷たくなった手のひらからじんわりと熱が伝わってくる。


 温かいお茶を飲んで人心地がつくと、ふと雑念が浮かんできた。


 戦力を考えて私とシヴァを分けたんだろうけど、一緒の部隊がよかったなぁ。


 せっかくこの間は良い雰囲気だったのに何も無かったし。でもあの時は私が先に寝ちゃったから。


 もしもあの日、あのまま起きてたら……どうなってたんだろう?


「アリス様。何かありましたか?」

「え、別に何も無いけどどうかしたの?」

「いえ。急にお一人で難しい顔をされたかと思ったら次はにやけたりしていらっしゃるので」


 目の前に座るナナリーから視線を逸らしてお茶に口をつけて無言を貫く。


「公演会の夜に何があったのか今度聞かせて下さいね」


 それでも何を考えていたのか察したらしい。


 優しく微笑んでいつも私のことを見守っていてくれる。


 私に姉はいないけど、きっと姉がいたらこんな感じなのかな。




 順番に休憩を取り終え、出発前にナナリーが騎士たちに再度作戦の説明をして最終確認を行う。


 騎士たちが全員で魔物の群れを取り囲む土壁と結界を生成する魔法を担当し、私が逃げ場を失った魔物の群れの頭上から爆炎魔法をぶつける。


 これでオーガやグリフォンといった魔物はほとんど無力化できるはず。


 さすがにオーガキングとデビルグリフォンは倒せないだろうけど、それでも雑魚がいなくなれば後は騎士たちに任せられる。


 あまりみんなの仕事を奪うのもいけないし、私は最初の一撃だけ。


 十人ずつに分かれてそれぞれ相手をすれば大きな怪我も無く討伐できるんじゃないかな?


 ナナリーはこの部隊の中だと私の次に強いけど、ナナリーの仕事は戦うことじゃなくてみんなをまとめることだから直接戦闘には参加しない。


 広場を出発する前にナナリーがジャックの部隊と連絡を取っていたらしく、向こうの部隊も丁度同じぐらいのタイミングで魔物の群れと戦い始めるみたいだと教えてくれた。


 あっちにはシヴァたちがいるから、きっとこっちよりも早く終わるんじゃないかな。


 私たちは再び密林に足を踏み入れて魔物の群れを目指す。


 程なくして結界までたどり着いた。


 それぞれの隊が結界の四隅で魔法の準備を行う。


 ナナリーが耳元に通信用の小型魔道具を当てて隊長たちと連絡を取った。


「準備はいいかしら? ……そう。では私のカウントに合わせて魔法を発動して」


 ちらりと私に視線が送られる。


 私も背中に翼を顕現させて魔力を溜め、いつでもいいと頷き返す。


「三、二、一、作戦開始!」


 ナナリーの号令に従い騎士たちが一斉に魔力を解放した。同時、私は空へと舞い上がる。


 地響きを立てて魔物たちを囲う城壁が地面から飛び出す。壁の近くは陥没(かんぼつ)し、あちこちで木々が倒れていった。


 この城壁は魔物たちを守るための物じゃない。むしろ死へと(いざな)う地獄の牢獄。


 囚われた魔物たちは何が起きたのか分からずきょろきょろと回りを見渡すばかり。


 地上に向けて手をかざし、詠唱を開始する。


「天上から舞い降りし聖なる灯火(ともしび)よ。地に落ち煉獄(れんごく)の炎を呼び覚ませ。悪しき魂を浄化せよ――”ヘブンズフレイム”」


 力の限り圧縮した炎の塊が地上に落ちた。


 それは地面に触れて――紅蓮(ぐれん)の嵐となって魔物たちに襲い掛かる。


 本来なら広範囲に拡がる炎は騎士たちが張った城壁と結界に阻まれて牢獄の中で熱量を高めていく。


 牢獄の中を満たす聖火が囚人たちを容赦なく燃やし、焦がし、溶かし、骨の髄まで焼き尽くす。


 高い土壁を越えて炎が空へと還って行くと、地上には二体の魔物だけが残された。


「土壁を解除! 同時にアイスフィールドを発動!」


 炎の嵐が静まると地上から肌を突き刺すほどの冷気が強風と共に訪れた。


 私が地上に降りると液状化していた地面が凍りついていた。


「一番隊と二番隊はオーガキングを、三番隊と四番隊はデビルグリフォンを包囲!」


 迷い無くナナリーの指示に従う騎士たち。


 私はナナリーの下までゆっくりと戻り、後は見守るだけ。


「残りはあの二体だけですね」

「うん。ちょっと呆気(あっけ)ないかな」

「それぐらいで良いんですよ。わざわざ苦労する必要はありません」

「それはそうなんだけど」


 戦場に視線を向けると二体の魔物は最後の抵抗を続けている。


 それでも騎士たちに囲まれた魔物は何もできず、徐々に反撃の勢いを弱めていった。


 こっちはあともう少しで終わるけど、シヴァたちの方はもう終わったかな?


 あと少しで戦いが終わる。


 そんな時に突如として現れた濃密な魔力。


 ガバッと空を仰ぎ見る。


 広い大空に二つの歪んだ空間。


「アリス様?」


 魔力を感じ取れないナナリーはまだ気付いていない。


 最初に現れたのは馬の首から上が悪魔の上半身に置き換わった化け物。複雑に(ねじ)れた二つの角、赤褐色(せきかっしょく)の屈強な肉体、体長の倍以上はある大きな翼を羽ばたかせて私たちを見下ろしている。


 次に現れたのは一見すると人間。角もなければ翼も無い。ただし、蛇に変化した尻尾が体に巻きついているため人間じゃないことは明らか。そいつは早々に地面に降り立ち、背負っていた槍を取り出して手の中でくるくると回して遊んでいる。


「さてさて……おや? もう魔物たちがやられてるじゃないか!?」

「どうせ大して強くないんだしどうでもいいだろ」


 馬の化け物と蛇男がまるで私たちなんていつでも殺せるとばかりに余裕の態度で会話を始める。


「そりゃそうだが。ふむ、騎士と思わしき人間が一、二、三、……えーと何人だ?」

「二十二だアホ。数も数えられないのかお前は」

「いいじゃないか別に数が数えられなくても。俺たちに知性なんて必要ないんだし。俺たちに必要なのは力だろ?」

「お前ほどアホになる気は無いが……力があればいいってのには賛成だ」

「ところであっちの強そうな奴は俺が相手するぞ」

「は? あいつは俺が相手する。お前はあそこで群れてる奴らの相手してろよ」

「あん? あっちはお前が相手すればいいだろう」


 二人の悪魔が険悪な態度で睨み合う。


 そんな中、さらにもう一体の悪魔が転移してきた。こうもりを従える古風なヴァンパイア。黒いマントを広げると真っ赤な裏地が見えた。私たちを見てにやりと口元を開くと鋭い牙が顔を出した。


 転移してくる前から二人の様子を魔法で監視していたのか、ヴァンパイアは地面に足をつけると直ぐに仲裁を始めた。


「少し落ち着け。二人で相手すればいいだろう」

「あんたにそう言われたら従うしかないな」

「ちっ、仕方ねぇ」

「それで良い。私はあっちの騎士たちと遊ばせてもらうよ」


 悪魔たちが話している間にオーガキングとデビルグリフォンを倒し終えた騎士たちが遠巻きに武器を構える。


 ナナリー、そして騎士たちの間にかつて無い緊張が走る。


 この前魔物の群れを倒した後に現れた悪魔とは格が違う。


 おそらくは上級悪魔。


 私が勇者として戦うべき相手。


 腰から剣を抜いていつでも切りかかれるように構えを取る。


 初めて相対した強力な敵を前にして、自然と剣の柄を強く握り締めた。

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