#112
「私のも、ちゃんと、発明……」
「ああ、間違いないさ。そもそも、発明にだっていろいろな方向性があるしな」
そもそもの根本を生み出す、ゼロからイチの発明ばかりがどうにも注目をされやすくはあるが。すでにあるイチとイチを組み合わせて新たなものを作り出したり、あるいは今あるイチを改良したり見方や方向性を変えたり。
そういったものだって、まごうことなき発明。過去の日本でだって、ラジオとカセットテープレコーダーを組み合わせただけのラジカセが当時どれほど売れたか。
「そして、マーシャ。お前の発明は、どちらかというと後者だ」
すでにあるものを、よりよく改造する。あるいは、すでにあるものを別の視点から見て、別の利用価値を生み出す。
わかりやすいものでいうと、現在開発中の蒸気機関や彼女の作った魔法銃だろう。
蒸気機関は浩一が持ち込んだ技術を再現しつつも、魔力の相互作用による高効率化機構が組み込まれている。これに関してはマーシャだけのアイデアではないらしいが、間違いなくよりよく改造する、ということである。
魔法銃は浩一が頼んだ銃火器というオーダーに対して、火薬の準備ができない、という状況下で。それならば、魔法の組み合わせで銃火器の動作を再現してしまおう、というもの。
魔法というものの、そのものの動作に着目するのではなく。他のものの代用として動作するように利用する。光源としての魔法、火力源としての魔法、移動のための飛行魔法というように、そのものの動作を利用することが多い魔法からしてみれば、ある意味革新的な使い方と言えるだろう。
「そして、それらを支えているのは。マーシャ、お前自身の知ることへの圧倒的な貪欲さだ」
マーシャの知識欲は、間違いなく浩一たちの中でも随一。頭ひとつどころか二、三個抜けていると言ってもいい。
新たなものを浩一がオーダーしようとすると、むしろなにを作ってほしいのかとマーシャの側からやってくる。浩一のオーダーが、マーシャの想像もしていないようなものであることがほとんどだからだ。
そして、その上でマーシャは考える。それが、どのようにして動いているのか。どのような理屈で機能しているのか。よく考察し、そして、試す。
先程挙げた、マーシャの作った蒸気機関や魔法銃。たしかに、浩一のオーダーを作った、ある意味では再現ではあるのだけれども。彼女はそこに、追加の機構であるとか、代用の機構を組み込んでいる。
それらは、彼女が仕組みに対して、しっかりと知ろうとしているから、できること。
いや、もっと立ち返るなら。浩一がマーシャと初めてであったときに見せてもらった発明品たち。あれらも、そもそもの構造に対しての観察と考察。そして、試作があったからこそのものだった。
だからこそ、マーシャに。いや、マーシャだからこそ。
頼むことができると。そう、確信したのだから。
「ただ。最初にも言ったとおり、悪かった。一次の発明者と違って、マーシャたちのような発明者はどうしても、褒められる機会が少なくなりやすい」
発明としての印象は、どうしてもゼロからイチを生み出す人だという印象が強い。なにせ、彼らは今までになかったものを世に解き放つだけがあり、目立つ。そして、その印象が強いからこそ、また、人々の注目が一次の発明に注がれる。
一方のマーシャたちのようなイチを別のものに変えていく人は、例外もありはするものの、すでにあるものをベースにしていることからどうしても一般観衆からしてみるとインパクトに欠けることが多い。場合によっては、それこそ彼女が自称していたように模倣だと揶揄されることもある。
いずれも発明ではあるにせよ、これらふたつの方向性がそれぞれ相互に作用することで。どうしても、一般的な認知としての違いが出てきてしまう。
「まあ、たしかに最近の自信の揺らぎに、ちょびっと。いや、それなりに。……あはは、うん。直結していた要素ではある、かな」
そして、そんなところに浩一が色んな人を連れてきて、彼が色々と頼んで。マーシャの差配ではあるものの、周りの人が活躍している様子を見て。
そうして、自分自身に対する疑問を、持ってしまった。
「そうなりやすい、ということを理解していたにも関わらず、無遠慮にいろいろと頼んでしまった。仕事だという側面を持っているから逃げや言い訳が利かず、追い込む形になってしまった。そして、気づくのが、対応が遅れてしまった。……本当に、悪かった」
「ううん。大丈夫。おにーさんのせいじゃないよ」
浩一の謝罪に。しかし、マーシャは首を横に振る。
「そもそも、好きで物作りをするために、ここにいるんだしね。その結果の評価の如何は私の責任。誰かのせいにするなんて、そんな格好のつかないことはやりたくないしね」
「……マーシャ」
「だって、私は物作りが好きだもん。それに、嘘はつきたくないからね。……まあ、とはいっても。その、なんていうか。最近はこう、自分自身を見失いかけちゃってたんだけど」
苦い顔を浮かべながらにマーシャはそう小さく笑った。
「でも――」
彼女はそう言いながらに、顔を前に持ち上げる。その表情は、先程までの迷いがあった表情とは一変して。真っ直ぐ、前を見据えていて。
「おにーさんが、教えてくれたから。自分の在り方、私の強み。大丈夫、もう、迷わない」
マーシャはそう言うと、握りこぶしをグッと前に突き出してくる。
「任せて、おにーさん。私は、私なりのやり方で、やりたいことをやり遂げるから。おにーさんも、欲しいもの、なんだって持ってきてくれていいんだよ。全部、作ったげるから」
その表情は、いつものマーシャらしくて。しかし、いつもより、いくらか、自信を携えていて。
彼女の意図を汲み取りながら、浩一も、グータッチで返す。
「ああ、頼りにしてるよ、マーシャ。今までも、これからも」
「まあ、お互い、無理は禁物程度にね」
「……だなぁ」
浩一も、マーシャも。なんだかんだと怒られてるからなあ。
主にアイリスや風花から。
「そういえば、おにーさんから言ってもらった言葉のおかげで、前に頼まれてたやつ、いい感じに作れるかもしれない」
ひとしきり浩一のやるべきことも終わって。休憩がてら、マーシャと雑談をしていると。ふと、マーシャの方からそんな話題が飛んでくる。
「マジか」
「うん。まだ構想段階だから絶対とは言えないけど」
でも、おにーさん曰くこっちが私の本領だからね、と。自信を含んだ笑みを浮かべながらにマーシャがそう言う。
「理論や構造への理解と、知ってる手段での代用。……うん、これならもうちょっと早くに気づけてたかもしれないね」
たはは、と。マーシャがいかに最近の自分が迷走していたのか、ということを自覚しながらに苦笑いをする。
まあ、それでも今はちゃんと真っ直ぐ走れているのだから問題ないだろう。また、迷ったときには。今のマーシャならば、今度はちゃんと、周りを頼ることもできるだろうし。
「ああ、そういえばおにーさん。頼まれてたやつなんだけどね。ちゃんと、アイリちゃんから言質は取ってるから、期待しててね!」
「……うん?」
マーシャの口ぶりに、浩一が首を傾げる。
マーシャが作るものに期待をする、というのならば文脈的にも理解はできるのだけれども。なぜかアイリスが唐突に登場し、あろうことか彼女に対して期待していてね、と。
「どういうことだ? というか、なんでアイリス?」
「ふふふ、それはねえ。そのときになってのお楽しみってことで!」
いたずらっぽい笑みを浮かべながらに、マーシャは楽しげにそう言って。
「それじゃ、さっそく試作してみてくるから!」
「ああ、無理はしないようにな」
「うん! 今の私は止められないよ!」
聞いてなさそうだな、と。そんなことを思いながら、楽しげに駆けていくマーシャを見送った。




