#102
ドタバタの夏休みを抜け。季節も秋が少しずつ深まってきた頃合い。
時折風花からちゃんと休むように強く言われるので、時々は立ち止まりながらも、前に進んで。
そして、鉄道事業も。ついに佳境のひとつにたどり着きつつあった。
「お久しぶりです、ガードナーさん」
ドワーフの暮らす街、ブラウを取り仕切っているガードナーに、浩一は声をかける。
隣では供をしてくれていたアイリスがいつものごとく表情に明るい花を咲かせながら同じく挨拶をする。
「おう、コーイチも、アイリスの嬢ちゃ……アイリス様も、元気そうで」
「もう、ガードナー様。わざわざそんな畏まらなくても大丈夫ですわ!」
そう言ってみせるアイリスだが、まあ、ガードナーの立場からしてみれば土台無理な話ではある。
「いやはや、コーイチもよくぞここまでやったもんだな。決して条件は簡単なものじゃあなかったろうに」
「いえ、俺ひとりの力でここまで来たわけじゃないですし。それに、ここからがある意味本番、ですから」
「ガッハッハッハッ! たしかにそれもそうだな。ようし、とりあえずついて来な。マーシャの嬢ちゃんはこっちだ」
今回、改めて浩一がブラウに訪れていたのは、マーシャから連絡を受けたから。
夏休み明け頃から実稼働を前提とした蒸気機関の設計と試作、そして改良を進めていたマーシャだったが。ついに、試作機が完成した、とのことだった。
案内されるままに工房に向かうと、たくさんの人に囲まれながら作業をしているマーシャの姿。
「あ、おにーさん! それからアイリちゃん!」
満面の笑みで大手を振ってくるマーシャ。顔中油と煤で汚れているのは、まあ、今は見なかったことにしておこう。
「調子はどうだ?」
「最ッ高! おにーさんがいろんなところに声をかけてくれてるおかげで、機械技師が集まってきてくれてて、いろいろと意見交換ができるから改良が進むし。それに、私たちの苦手な大物の製作についてはガードナーさんたちがやってくれるし!」
「それはよかった。とは言っても、俺は鉄道事業に興味を示してる領主様とかに話を通して協力を申し出てきた人を紹介してるだけだし、ガードナーさんたちだってアルバーマ男爵からの紹介だがな」
「つまりおにーさんのおかげってことでしょ?」
まあ、そうはなるのか。どちらかというと、人事をしてくれている相手方の領主のおかげだと浩一は思っているのだけれども。
「いろいろと知見が深まったおかげで、結構改良ができそうでね。特に魔導リンク機構」
曰く、浩一が地球から持ち込んだリンク機構などと、魔力の相互干渉性を組み合わせた機構とのことで、直接の接続をしなくとも動作の変換を可能にする機構なのだとか。
都合、強い力がかかる箇所についてはリンクが切れてしまいやすく、蒸気機関の根幹となる機構には転用できないが、それ以外の場所での利用はもちろん、蒸気機関に対しても動作を補助するためのサブの機構として機能してくれているとのこと。
それ以外にも、魔導コンロの仕組みを転用した保温機構など、様々な案を交わしながら実証を進めてくれているとのことだった。
こういった改良のおかげもあって、現在蒸気機関の出力がかなり向上と安定してきており。ついに、試作機として実験が可能なレベルまでになったのだという。
「それでね。今、ガードナーさんたちと協力しながら、蒸気機関車本体の設計を進めてるところなんだけど。私たちだけじゃなにが必要なのかとかがわかんないからさ」
「いや、むしろこちらの方に最近あまり顔を出せていなくてすまない」
本来ならば、浩一もこちらに噛まなければならない立場である。
だが、土地利用や協力体制のための渉外、線路敷設の指揮。ルイスでは処理できない事務仕事などもあり。相対して、風花が指揮を執っている測量と地図製作や、マーシャを軸に仕事を進行させることができる蒸気機関車開発についてはあまり顔を出せていなかった。
「ううん。おにーさんが大変なのはわかってるから大丈夫! というか、むしろ呼び出しちゃって大丈夫だった?」
「ああ、多少都合をつけてもらって、しばらくはブラウに滞在できることになってる。とはいっても、ずっといれるわけじゃないから、またある程度を頼んで任せることになりそうだけど」
「まっかせて! っていっても、まだなにをするかもわかってないんだけどね!」
勢いの良さ、思い切りの良さ。そして、好きなことへの真っ直ぐさはいつもどおりの様子である。
まあ、それがマーシャのいいところでもあるけれど。
「とりあえず、ここにいる間にやれることはやるつもりだから。マーシャも、それから皆さんも、協力をお願いします」
「もちろん! ……と、それはそれとして、ひとつ聞いておきたいんだけど」
ジッ、と。なぜか、マーシャが浩一を見つめ返す。
突然にどうしたのだろうと浩一が首を傾げていると。
「ブラウに滞在する都合をつけてくれた、って言ってたけど。おにーさんの本来のお休みを潰して来てたりしないよね?」
「あー……えっと、それは……」
「いや、おにーさんに聞くよりアイリちゃんに聞くほうが確実だね。で、そこのところはどう?」
「既にある程度お付き合いのある方々にご都合をつけていただいた側面もありますが、多少は潰していますわね。ですが安心してください。しっかり、その日数分はブラウ滞在中にもお休みしていただきますので」
ニコリと、よい笑みを浮かべながらにアイリスがそう言う。
浩一はというと、その微笑みからスゥーッと視線を動かしながら、小さく、乾いた笑いをもらしていた。
「私が言えたタチじゃないと思うけど、ちゃんと休まないといけないよ?」
「まさか、マーシャからそれを言われるときが来るとはな」
夏休みの一件以降、ちゃんと休みを取るようにはしていたつもりなのだけれども。どうやら、世間一般ではまだまだ働きすぎなのだという。
「まあ、おにーさんもアイリちゃんもブラウに来たことはあっても、なんだかんだでちゃんと見て回るのは初めてだろうし。休みがてらふたりで一緒にでかけてきたらいいんじゃない?」
「ああ、たしかにそれもいいかもな」
「うん。ふたりでね!」
なぜか、やけに人数を強調してくるマーシャ。
まあ、大方浩一がひとりで休んでいると「それは休みじゃない」と言われるから、なのだろうが。
とはいえ、少し遠出をするなどとなれば浩一の足役を買って出てくれているアイリスにどのみち供をしてもらわないと動けないのだけれども。……いちおう、フィーリアに頼むという手もなくはないが。
「というか、勝手に話を進めていたけど。アイリはそれで――」
都合、アイリスの休み……とは言っても、立場の兼ね合いで便宜上のものではあるが、タイミングは浩一と同一にはなっている。
基本的には部屋でゆっくりしたりすることが多いので比較的アイリスも自由に休んでいることが多いのだけれども。連れ立ってどこかに行くとなれば話は別になるだろう、と。
そう思って、確認のために振り返ったのだが。
「どうした、アイリ。大丈夫か?」
なぜか、顔を赤くして呆然としている。
浩一が声をかけると、ワンテンポ遅れてからハッと反応して。「ももも、問題ありませんわ! むしろご一緒させてくださいませ!」と。そう言ってくれる。
「それならそうしようか。楽しみにしてるよ」
「は、はい。こちらこそ!」
マーシャの言うとおり、ブラウは初めてだし、見て回っておきたいというのも事実だったから、好い返事を貰えてよかった。
「うーん、おにーさんは相変わらずだねえ。アレで察しないか」
「もう! マーシャちゃんのせいですわよ! うう、恥ずかしい……」




