表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/87

降臨

 ゴーレムの群れだけにではない。

 更にもう1つ【空間遮断】で、今度は神像を時空の彼方へ送ってやる。

 状況に何か変化は起きるだろうか?

 何も変化しない。

 【魔力検知】で変化は感じられない。


 復活したゴーレム達はまたも群れでこちらを制圧する構えだ。

 考えろ。


 オレ達も罠は使った、よな?

 罠を仕掛ける目的は何だ?

 オーガを罠に嵌めたのは、それが最もリスクを低くできる倒し方だと考えたからだ。

 罠に誘導して確実に嵌められる自信があったからだ。

 考えろ。


 ここは大トンネルの出口の拠点だが。

 ここにこれほど大規模の罠を仕掛ける理由は何だ。

 守りたい何かがあるのか?

 考え難い。

 何かがおかしい。

 使ってる手段もおかしい。

 なんでゴーレムのような魔法生物ばかりなのか。


 更に2つの神像を【空間遮断】で時空の彼方へ送ってやる。

 続けてもう一手追加だ。

 【雷雲生成】状況下で雷精ライオットが作ったプラズマ流に干渉して渦と為す。

 【渦流閉鎖】だ。

 その流れを【位相反転】で誘導させていく。【誘導】は【念動】がベースで質量がないに等しいプラズマ渦を動かすには不向きだ。

 空中を舞うガーゴイルの群れと地上のゴーレムの群れにプラズマ渦をぶつけてやる。

 群れの半数以上が消えてスッキリしてきた。

 5つ残っている塔もプラズマ渦をぶつけて全てなぎ倒す。


 エントとベヒモスが足止めしている神像を覗けば相当脅威は去っただろう。

 火力でも機動力でも圧倒できている。

 それなのに不安が拭えない。

 背後で大きな衝撃音が響いた。

 城壁が崩れてその残骸が何かの形を作り上げていく。


 新たな神像が生まれようとしていた。

 なんという罰ゲームだ、これは。


 だが考え方を変えよう。選択肢が増えている。

 逃げ道が出来たのだから。


(ラクエル、神像を抑えるのはもういい。全員集まれ、逃げるぞ!)

 一旦全員を集める。

 サーシャとカティアも良く見るとあちこちが酷く土で汚れているようだ。

 【代謝強化】と【自己ヒーリング】であまり目立ってないが共有している感覚では痛覚が悲鳴を上げていた筈だ。

 近接戦闘を続けていたのでは無理も無い。

 壁の方で生まれつつある神像はまだ完成していない。

 今のうちだ。

(奴らに構うな、逃げるぞ!)

 エントとベヒモスが実体化を解いてラクエルの操るオーブに戻っていった。

 顕現している精霊のうち、移動速度の速い精霊達は

 プラズマ渦を完成寸前の神像にぶつけて半ば消失させる。

 だが再び周囲の瓦礫を吸い取るように神像は完成しようとする。

 キリがない。

 そして違和感も尽きない。


 まだ切れる札は2つある。

 【相克の指輪】とあともう一つ。

 だが相手の正体を見切っていない段階で果たして使っていいのだろうか。


(ラクエル、風精に【シルフィ・アイ】だ。数は出せるだけ出せ!)

 彼女に負担させすぎだが、MPに余裕があるのは感じ取っていた。

 ここは頼りにさせて貰おう。

 宙を舞う雷精ライオットと火精フェニックスパピーに混じって風精シルフが空を舞い始めた。

 オレ達の周囲を旋回しながら、旋回半径を広げていく。

 まだ生き残っていたゴーレムが次々とサーシャ達に屠られていく。

 再構築する速度を超える戦果だというのに空しい。

 倒してみた所でいずれ復活すると分かっているだけに。


(サーシャ、先導しろ。行き先は壁が崩れている場所だ!)

 サーシャが駆ける。カティアが追従していく。

(サビーネはラクエルの乗せて全速で飛ばせ!)

(ご主人様は?)

(後詰めをやる。急げ)

 プラズマ渦を再度神像にぶつけて退路を確保する。

 追加で【思考分割】を念じてラクエルを通じて【シルフィ・アイ】全てが見ている状況を注視していく。


 どこかが。

 何かが。

 おかしい。

 見落とすな。


 オレの周囲で旋回してガーゴイルを屠っていたショートソード1対はサビーネとラクエルの直衛に回す。

 この罠の目的は何か?

 今までのオレ達とは違った動きに見えている筈だ。

 変わる事がない点はすぐに気がついた。オレを集中的に狙ってやがる。

 壁の方で新たな神像が動き出していた。

 サーシャ達には見向きもしない。


 【シルフィ・アイ】から送られる10を超える映像を俯瞰しながら周囲をも警戒する。

 脳に痛覚などない筈だが脳が痛むような気がしてきた。

 神像が砂と化して崩れていくが、地面に降り積もった瞬間、僅かに揺れが生じていた。

 揺れているのは何か。

 魔力によるものではない。

 幾つもの映像を次々と精査していく。

 地面に触れたと同時に砂粒同士が奇妙な癒着をしているようだ。

 溶けているようにも見える。

 熱は感じない。


 目の前にヘパイストスの神像の拳が迫っていた。

 考え事の邪魔するなよ。

 【位相転換】による不可視の盾に拳がぶつかりそのまま四散していった。

 【思考分割】されたオレの意識がその様子を凝視する。

 粉々になっていく。

 癒着していく様子は無い。

 溶けていくようにも見えない。

 同じく粉々となっている筈なのだが。


 【物体引寄】で砂の一部を掌の上に浮かべて観察してみた。

 比較する。

 何が違っている?

 地面に落ちた砂粒は次々と癒着して溶けるかのように繋がって行く。さっきと変わらず同じだ。

 掌の上の砂を見る。

 何も動こうとしない。砂のままで変化無しだ。


 女神アテナ神像が槍をオレに突いて来た。

 神像の肩へと【転移跳躍】する。

 掌の上の砂を女神の頭に少しだけ近づけてみる。

 何も魔力を感じないのに砂粒が頭へと引っ張られているようだ。


 してやられたか。

 こいつは土地そのものに対する呪祖だ。

 神聖魔法か暗黒魔法の範疇で詳細は知らない。

 分かることと言えばこんな事はプレイヤーに出来るものではない。

 【魔力検知】に引っ掛からずにこの規模だ。絶対無理。


 先行して駆けているサーシャの位置まで【転移跳躍】で跳ぶ。

 群がってくるゴーレムもガーゴイルも皆無だ。オレがさっきまでいた場所にに向けて殺到しているようだ。

 上空はまだ歪んでいるが、その歪みのある場所はオレ達から少しだけ離れたようだ。

 【転移跳躍】を効果拡大して念じる。飛ぶ先はフェリディで固定した。

 だが呪文の効果は現れない。

 まだ距離が要るのか。


 カティアと併走して全員に念話で指示を出す。

(あの場所から離れる事に集中しろ!ラクエル、精霊は全て戻してカーシーの【姿隠し】を準備しておけ!)

(あ、はい!)

(了解!)

(おうよ!)

(分かりました)

 さすがにラクエルはいつもの調子じゃない。


 さらに上空の歪みから距離を稼いだ。

 だがまだ【転移跳躍】は成功しない。

 遠くに森が見えてきていた。逃げ込めるか。

(森に突っ込め!【姿隠し】はどうだ?)

(もう少し!)


 だがまたも想定しない出来事が起きていた。

 緑色に輝く巨躯がオレ達の目の前に現れた。逃げ道がいきなり塞がれる。

 なんだってこのタイミングで。

 確かに生息していた場所は比較的近い。

 『翠玉竜』エメラルド・ドラゴン・オブ・ディープフォレスト。

 この世界でも最高レベルの魔物だ。

 オレ達は【転移跳躍】できないってのにこのドラゴンは間違いなく転移系の力を行使している。

 空間を揺らす波動が知覚出来ていた。


 間に合ってくれ。

(ダメ!【姿隠し】が構築できない!)

 ラクエルの念話が非情にも脳内に響く。

 間に合わなかったか。

 周囲はドラゴンが放つ力の影響を受けてしまっている。精霊力もまともに働いていないのだろう。

 前作でドラゴンと戦った時と同じだ。対抗するには仕掛けが要るがそんな手札など今は無い。


 それでも足掻くしかない。

 移動速度に賭ける。

(サーシャ、右側からすり抜けてくれ!)

 進行方向を変えたその瞬間、別の巨躯が目の前に立ち塞がった。

 バカな。

 またもドラゴンだ。

 全身漆黒のドラゴン。しかも緑のドラゴンと遜色がない迫力を周囲に発していた。

 オレ達の足が止まってしまった。

 いけない。

 速度が身上のオレ達だ、足を止めてはいけない。

 だが状況は絶望的な方向へとさらに加速する。

 【アイテムボックス】の中にある【相克の指輪】を取り出そうと動くが。

 その手が止まってしまう。

 骨が震えているかのようだ。あまりの圧力にまともに動けない。


 漆黒のドラゴンの隣に別のドラゴンが姿を見せた。霞のように煙って見えるが次第にその巨躯が露になっていく。

 強烈な冷気が一瞬だけ周囲を襲っていた。風花が周囲に散っているようにも見える。

 今度は白銀のドラゴンだ。

 漆黒のドラゴンと反対側にも別のドラゴンが姿を見せていた。

 蒼のドラゴンだ。緑のドラゴンよりも明らかに一回りデカい。

 いけない。

 逃げ道がなくなっていく。

 そして指輪を取りだそうとする手が動かない。


 空を飛ぶのはどうか。

 だがそんな思いも打ち砕かれる。

 上空に2つの大きな影が舞っていた。

 どちらもドラゴンだ。片方は黄金色に輝きを放ち、もう一方は青銅色で鈍くはあるが光を反射している。

 後方を見る。

 あの上空の歪みが既にオレ達に追いついていた。

 一瞬にして雲散霧消すると上空から何かデカい存在が現れた。


 3人のジャイアントが現れた。

 真ん中のジャイアントはやや年齢を重ねているように見える。

 体格は明らかに小さいが両脇の2人を上回る圧倒的な魔力が感じられた。

 病人のような灰色の皮膚を持つ巨人、フロスト・ジャイアントだ。


 新たに2人のジャイアントが現れる。フロスト・ジャイアントに匹敵する体格だが肌の色が違っていた。

 赤茶色の地肌に灰色の髪を持つ巨人、ファイア・ジャイアントだ。

 その魔力はフロスト・ジャイアントにも匹敵するだろう。


 完全に、包囲されていた。

 宙を飛ぶ武装を全て引寄せてサーシャ達の守りに回す。

 精一杯だがこれ位しかできない。

 【位相反転】を念じてカウンターの用意だけはしておく。

 初撃には効果があるだろうが二撃目を防御しきれるかどうか。


「これはまた予想外に暴れたようじゃな」

 不意に背後から話しかけられた。

 もう驚くことなどないと思っていたのに。

 長い髪はボサボサで顔を殆ど覆っている。薄暗い顔の奥に片目だけが不気味に光っていた。

 着ているのは平服のようでボロボロだ。体格は良く腕周りの筋肉は見事と言っていい。

 奇妙な老人だった。だがただ者ではあるまい。

 ドラゴンやジャイアントの前で平気な人間などいてたまるか。


 ドラゴンやジャイアントの様子に敵意は見えないようだが。

 それでも威圧感が洒落にならない。常にオーガの咆哮を受け続けて威圧されてる方が遥かにマシだ。

 実際、足を止めてしまったオレ達は誰一人としてまともに動けなくなっていた。

 動きたくとも動けないのだ。


「やはり、な。ワシでは見抜けぬ」

 老人がそう呟くと片手を上げた。誰に対する合図なのか。

 地面が微かに揺れた。

 また何か大きなものが地面から生えるかのように出現してくる。

 巨人だ。またもや巨人だ。

 しかも3人も。何者なのか、思い当たる存在が思い浮かばない。

 そして、ますます逃げ場が無くなっている。

 この巨人達の肌は小麦色で筋骨隆々そのものだ。右左の差はあるが、片目が白く濁っている。

「我らでも見えぬ」

「まるで霞の中にいるが如き者」

「予言もできぬ」

 彼らの声は天空から降ってくるような感覚だ。

 【知覚強化】の影響もあって頭の中に響く。

「ふむ」

 老人が暫し考え込む。


 老人は次にドラゴンへと視線を転じる。

「どうかな?お前さん達はどう見たかの?」

 ドラゴン相手にお前さん呼ばわりかよ。

『我もまた同様。以前に感じたものと些か違っているようにも感じるが』

 緑のドラゴンの目はオレを睥睨したままだ。

 どうでもいい事だがどうやって言葉を発しているのか謎だな。

『同じく』

『好ましくはある』

『それはどうかな?』

『だが彼らの武装はどうしたことだ?』

『然り。我らに通じる力を宿しているな』

 やばそうな雰囲気が漂い始めていた。


 老人がまたも視線を転じる。今度はフロスト・ジャイアントだ。

「ではそちらはどうかな?」

『分からぬな』

『ああ、見えぬ』

『だが気になるな』

『我らに通じる力を感じるぞ』

 更に危険な香りがする。


 危険だ。

 オレ達の鎧兜に注目が集まっているようだ。

 彼らドラゴンもジャイアントも高い知性を備えた種族だ。交渉の可能性はあったのかもしれない。

 だがオレ達は彼らの死体から作り上げた装備で身を固めているのだ。

 彼らとの交渉の余地を潰しているようなものだろ。


「そうか。ワシも気になっておった」

 老人がオレに寄ってにこやかに話しかけてくる。

 本当、何者なんだこの爺様。

「その手の曲刀じゃがな、見せて貰っていいかの?」

 わざわざオレに許可を求めてくる。益々訳が分からない。

 この状況下で日本刀を手放すのは抵抗がある。それなのに。

 自由に体が動かないはずなのに、オレは片手で日本刀を逆手に持って老人に手渡していた。

 何故か、そうしていた。

「ふむ。済まぬの」

 しげしげと眺め回す。

 刀身だけでなく柄元の拵えにも興味を示しているようだ。

「これも分からんのう」

 そう呟くと日本刀の柄を逆手に持ってオレに返す。

 オレの手が刀を受け取る。まるで自分の手じゃないみたいだ。

 何か毒気を抜かれた気分になってくる。


「ワシらが何者なのか、分かるかな?」

 この老人が何者なのか、ふと思いつくことができた。【思考分割】をしていたおかげかもしれない。

 同時に名前の知れない巨人達もだ。

「ドラゴンは見たら分かるよ。有名だしね」

 6匹も並んだドラゴンを見回す。彼らの個別名もいくつか思い出される。

 こんな時だってのに。

 さすがに個別に名前を呼ぶのは控えた。

「フロスト・ジャイアントもファイア・ジャイアントも分かるよ」

 巨人達は残らずオレに警戒の目を向けていた。

 身が竦むとはこのことだ。

「それにきっと貴方もね」

 【思考分割】されているオレの意識が支援AIのC-1とD-2に情報検索を命じている。

 裏技だがこの状況では使いたくもなる。

 導き出された答えは想像の通りだった。

「鍛冶神ヘパイストス。そして後ろの3人の巨人はサイクロプス、じゃないかな?」

 老人の目に別の色が浮かんだ。

「一発で当てられたか」

 面白がっていた。意外に朗らかな神様だな。

「罠に嵌まってくれておったらワシの勝ちだったんじゃがな」

「賭事でもしてた?」

「うむ。あの罠を破っていなかったらワシらもこうして出てこんじゃったろうな」

 へえ。

 でも賭事の相手って誰?

「神様なら予言ができるんじゃ?賭事とか意味ないんじゃないの?」

 またも目の色が変わる。

「これは油断ならんのかな?」

 一気にドラゴンをも上回る危険な雰囲気が生じていた。全身に震えが走る。


「およしなさい」

 また背後からだ。

 今度は若い女性が突如として出現していた。

 古代ギリシャを彷彿とする格好をしている。

 肩布も腰布もホーリーシンボルらしいがそれぞれ色も意匠も異なっている。

「賭けは私の総勝ちですよ?誓いは遵守なさって頂きます」

 発する声も物腰も柔らかい。

 典型的な金髪美女だがまるで現実感がない。

 サーシャ達の感情は困惑で満たされているのが分かる。

 次々と訳の分からない状況が続いているのだ。


「私はペルセフォネー。貴方達の身の安全は保証します」

 なぜかこのゲーム世界の主神が目の前にいた。

 いいのかよ。

 前作とは神様設定がまるで異なってるが、こんな所まで変えていいのか。

 実体化して地上を歩き回ってやがる。

「貴方に対して勝手に試練を課したのには理由があります。その理由を聞いた上で貴方にも協力をお願いしたいのです」

「協力?」

「どうしても我々に必要なことなのです」

 一体何事か。

 ドラゴンやジャイアントとも関係する事なんだろうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ