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突破

 それにしても独占していた狩場がなくなるのは寂しいものだ。

 ロックスキンクはなかなか戦い甲斐のある相手だったのだ。かなり稼げたと思う。

 魔法陣をかなり潰しているので今までどおりにはもう戻らないだろう。

 ドワーフ族にしてみたら僥倖なんだろうけどさ。悪いことばかりじゃない。


 新たな狩り場となると冒険者が来ていない所しかない。当たり前なんだが。

 帝国側と対峙しているあの橋を渡らなければならない。

 ラクエルの【姿隠し】があれば潜入はできるんだろうが。一度見た帝国側の橋の袂にはオークで埋め尽くされていた。

 通り抜けるのは困難と考えた方がいい。うまく散らせる手段があればいいんだが。

 橋の途中で出現するスライムの上位種、ブルーゼラチンも厄介だ。


 ・・・あれ?

 うまく行くかも知れない。


 いい手段を思いついた。

 いけるかも知れない。前作でやらなかったのが不思議なほど簡単なことだ。

 いや、そこそこ難易度は高いだろうが、正直に戦闘で力押ししないのもオレの流儀に合っている。

 はっきり言って卑怯だ。

 つまり素敵ってことだ。


 いつの間にかニヤけた顔をしていたようだ。

 サビーネが心配そうにオレの顔を窺っていた。そんなに見つめないでよ恥ずかしい。

「大丈夫ですか?」

「いや、なんでもない。ちょっといい事を思いついてな」

 良からぬ事を妄想してた訳じゃないですよ?

 後ろ暗いことなんて何も無いです。

「そうなんですか?」

 サーシャも寄ってきた。針仕事はどうした、新しく布も今日買っただろ。

「実はお願いがあるのですが」

 何を改まっているのか。許して遣わす、存念を申せ。

「ん?どうした?」

 そこまで高圧的なご主人様じゃないのであった。

「今日の戦闘ではあまり貢献できなかったと思います。カティアさんと同様に訓練をしたいのですが」

 やはりサビーネは真面目か。

 ちゃんと役に立ってるんだがなあ。

「訓練か。格闘術でもやるのか?」

「剣術はどうでしょうか」

「しかし全員装備が一緒じゃないからな」

 今度は考え込んでしまった。どうしようか。

 【接触同調】で経験則の共有をやるのがいいか。

 全員に負担をかけるのが痛し痒しなんだが。

 迷っていても仕方が無い。試してみて上手くいかないのなら止めたらいいだけだ。


 普段から【感覚同調】をやっているのだが【接触同調】ではやれる事の範囲が広がってくる。

 個々が持つ情報を相互に同調することができる。高度に使いこなせるようになれば深層心理まで覗く事が可能だ。

 前作でよく使ったのは戦闘の追体験、それにイメージによる仮想戦闘訓練だ。

 情報の受け手次第ではあるが、魔法スキルの向上も比較的容易になる。

 オレがテレマルクに付与魔術を教えたのも、呪符魔術を教わったのも最初はこの方法を用いている。

 精霊魔法のように習得できる種族が限られている場合、教わっても追体験ができる程度に留まる。

 神聖魔法や暗黒魔法も同様に信仰が必要となるので追体験ができるだけだ。

 追体験するだけでもそれなりに価値はある。仲間が次にどう動くのか、容易に察知することができるようになるのだ。

 より高度な連携がとれる可能性があるのであればやる価値は十分にある。


 今までやってこなかったのにも理由がある。MPがすぐに足りなくなりそうだからだ。

 黄のオーブどころか黄晶石、黄水晶、黄結晶でMPをいつでも補充する用意がないと効果を継続できる自信が無い。

 今日の稼ぎで相当余裕も出来たからな。

「よし。では車座になって座ってくれ」

 最初は簡単な所から始めよう。今日はオレの戦闘体験は密度の濃いものになった。

 その追体験をさせてみよう。


 全員で床に座り込んだ。

 オレは胡坐をかく。

 サーシャとサビーネは跪座、つま先を立てた正座だ。労働奴隷が床に座る際はこうするのだとか。

 カティアはオレと同じく胡坐をかいている。さすがに男前だ。

 ラクエルは立て膝座りだ。

 全員で手を繋いで【接触同調】を念じる。普段やっている【感覚同調】の延長だから違和感は無い。

 ガーディアンとの戦闘で何があったのか思い返す。

 (これは?)

 最初に疑問を口にしてくるのはやはりサビーネだ。想定内ではあった。

 彼女から伝わってくるのは困惑。

 (お互いがどう戦っていたのか、腰を据えてじっくりと見学していてくれ)

 (まるでご主人様になったような感じがするねー?)

 ラクエルから伝わってくるのは驚愕。

 (へえ、面白そうだな)

 カティアは単純に面白がっていた。

 サーシャは無言のままのめり込んでいるのが分かる。

 まあ最初だからな。

 受け手の方も精神集中しないと経験にならないんだが。


 様々な魔物との戦闘の様子を見せていく。

 ついでにカティアとの格闘術訓練の様子も見せてみる。全員を相手に組み手するより手っ取り早い。

 これが一番好評だったのは何故だ。

 結局、MPはギリギリまで削ってしまった。

 黄のオーブに魔晶石を差込んで融合させていくと黄晶石が出来上がった。

 手の中で握り締めて精神集中するとMPが満たされていく感覚が全身を覆う。

 全快には程遠いが一眠りしたら全快できそうだ。

 明日以降も少しずつ同調率を上げて行ってみるか。自己精神知覚の訓練はもう少し慣れたらやってみていいかもしれない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 翌朝は気分爽快、とはいかなかった。

 雨が降っていた。残念な天気だが大トンネルの中は関係ないだろう。

 雨よけのフード付コートを着込んで外に出る。

 屋内で雨を避けながら朝飯が食える食堂はどこも満杯だった。

 仕方ないので屋台で食事は買い込む。屋台のある一角は普段以上にいい匂いが充満していた。

 まさか。

 やたら安い値段で肉料理が買えてしまった。昨日の猪肉か。

 適当に雨宿りして食事は済ませる。味付けは違うが間違いなく猪肉だ。

 美味である。やっぱり調理する人間の腕が違うと旨さが違う。

 暫くラクラバルの町は肉祭りだな。

 飽きるほど安い肉が食えそうだ。

 

 ラクラバルの町の外に出るとパイアボアの死体があった場所を確認してみる。

 驚いたことに既に骨だけになっていた。牙は当然ない。

 冒険者ギルドの者らしき見張りも3人いる。骨まで貴重な資源なのだ。

 リサイクル半端ねえな。


 普段どおり冒険を進めてみよう。

 今日はタイミングさえ合えば大トンネル最前線の先に進んでみたい。

 魔法陣に使ってあった魔結晶を全員のリストバンドに付けておく。

「じゃあ行くか」

 サーシャ、カティア、サビーネが【半獣化】していく。

 オレも【知覚強化】【知覚拡大】【身体強化】【代謝強化】【自己ヒーリング】【魔力検知】【念話】【重力制御】そして【野駆け】を念じる。

 そして全員で手を繋いで【感覚同調】、これは強めにして念じておく。

 昨日の【接触同調】の成果はすぐには出ないだろうが、戦力の底上げになる可能性はあるかもしれない。


 【転移跳躍】で跳んだ先は見つけてあった魔法陣では最後まで残ってしまったものだ。

 石版は4つ、魔水晶で組んだ魔法陣なのが【魔力検知】で分かる。

 出てくる魔物はゴブリンとロックワームばかりだ。大したガーディアンは出ないかも知れない。

 MPを結構使った後だからタフな相手だと嬉しいのだが。


 出現したガーディアンは巨大な蜘蛛だ。

 アラクネスパイダーだろう。前作でも苦しんだ覚えがある。

 器用なクモで彼らが作り上げる罠は石と粘着性の糸で組んだ独特のもので植物による偽装までしてのける。

 繁殖時に特殊な糸を用いて繭を作るのだが、これは高く売れる筈だ。一種芸術品のような美しさがある。

 だが。

 ガーディアンとしていきなり召喚されたこの場所に当然ながら罠はない。

 魔物としての脅威は半減以下だろう。魔法陣を組んだ奴は誰なのか知らないが失敗じゃね?


 (こいつはオレだけで片付ける)

 そう宣言しておくと両手にショートソード2本を抜いて【収束】を念じる。

 MP吸収でフル回復は望めないかも知れないが、なるべく戦闘を長引かせてみよう。

 細かく左右にステップを踏んで的を絞らせないように近付いていく。まあサーシャの真似だ。

 人間の胴体ほどはある足を1本ずつ斬り飛ばしてく。動きを止めてMPをギリギリ回収したい。

 目の前にもうクモが迫っていた。いつもよりオレの突進速度が速い気がする。

 一番手前の脚に右手の剣を叩きつける。【粒子加速】は追加してない筈だが一撃で両断してしまった。

 明らかに威力が上がっている。

 昨日の戦闘でサーシャ達も種族レベルは上がったんだろうか。相乗効果としか思えない。

 更に体を回転させて左手の剣を逆手で脚に叩き込む。これも一撃で両断だ。

 MPも少し満たされている気がする。

 アラクネスパイダーもオレを正面に捉えようと動くがオレの速さについてこれない。一方的な展開になった。

 クモの牙もオレに全く届かない。目の前寸前に牙の先端が迫ってきていても恐怖は無かった。

 当たらないのだと理解していた。

 過信ではない。

 自然体で余力を残して回避していた。やけにスムーズに体が動く。

 昨日の【接触同調】の成果はあったようだ。サーシャ達の能力底上げの恩恵なのは間違いない。

 間違いなく苦戦するかと思っていたアラクネスパイダーを一撃も掠らせないで仕留めてしまっていた。


「なんか凄いよな。サーシャみたいに速かったし」

 カティアはそう感じたのか。

「でも一撃の凄さはカティアさんみたいでした」

 サーシャはそう返す。いや、得物の差があるからそれはなかろう。

「どっちにしろおかしいです。以前に剣の師匠からはアラクネスパイダーに遭遇したらまず逃げろって教わったんですけど」

 サビーネは常に疑問を提示してくれる。ある意味ありがたい。

「ま、勝てたんだしいいんじゃないかなー?」

 魔水晶を拾いながらラクエルはあっけらかんに言い放つ。相変わらずかっるいな、お前って。

 でもそれが救いになることもあるのだ。気分が楽になる。

 

 【遠視】で大トンネル最前線の様子を確認しながら坑道の中を魔物狩りにいそしんだ。

 狙いはロックスキンク。古い坑道では最もいい稼ぎになる相手だ。

 サーシャが匂いを探し当てると追尾し、エサを漁っているロックスキンクを狩る。効率はなかなかのものだ。

 3匹を狩り終えた所で待望の状況が最前線で起きようとしているのが見えた。

 ブルーゼラチンが橋の中央に放置されたオークの死体を漁っている。

 サビーネがいつの間にかオレの顔を覗き込んでいた。変な笑い顔になってた事だろう。

「全員止まってくれ。一旦跳ぶぞ」

 サーシャ達が集合すると即座に【転移跳躍】でリドの支道の入り口まで跳んだ。


「ラクエルは【姿隠し】を頼む。今から地下の橋を渡るぞ」

 早速サビーネが疑問を口にした。

「橋の袂はオークで埋め尽くされていたと思いますが。すり抜けるのは【姿隠し】があっても困難では?」

 うむ。予想通りの疑問だよな。

「すり抜けるつもりはない。全て排除してから通る」

「大軍相手に大丈夫ですか?」

 まあ普通はそうだが。

「戦うことにならないと思うぞ」

 自信満々で答えておいた。サビーネの目にはまだ疑念が残っているようだがまあ見ておけ。

 卑怯な手段が素敵なんだって所を見せてあげよう。


 橋の袂の守備部隊は橋の真ん中でブルーゼラチンが死体を漁るのを警戒している。

 松明の明かりがあるだけでスライム避けになるとはいえ、襲われたら唯では済まない相手だ。

 緊張しているのが直に伝わってくるように感じられる。

 壁の上へと登る階段を慎重に進んで橋の様子を見る。ブルーゼラチンは食事を終えかけていた。

 ちょっと急ごう。

 壁を飛び越えて橋の中央に進んでいく。守備部隊がオレ達に気がつく気配は無い。

 守備部隊にはエルフも2人ほどいるがラクエルの【姿隠し】を見破るほどの術者はいなかったようだ。

 ブルーゼラチンに向けて無造作に近寄っていく。

「みんな手を出さなくていい。オレの後ろに続け。ラクエル、こいつはいずれ焼くからそのつもりで」

 そう言い残すと昨日から考えておいた手順を実行に移す。

 水筒を手に持ち中身の水を地面にすべてこぼしていく。

 水の上に手をかざしてある魔法を構築していった。使えることは昨日のうちに試してある。

 錬金魔法の【リフォーム】だ。

 この魔法は対象となる物体の特性を改質する。

 応用魔法の【アーマーダンパー】や【ハードスキン】の方がよく知られているのは当然ながら使用頻度の差だ。

 減衰率を変えてダメージの威力を減らしたり、硬度を変えて与えられるダメージを防ぐ。これらは戦闘でよく使われた。

 というか錬金魔法には戦闘でよく使う呪文となると非常に少なくなる。防御強化と武器強化呪文がよく使われていた。

 はっきり言って地味だ。

 今回【リフォーム】で改質するのは水の粘度と表面張力、それに浸透圧になる。オレの足元ではまるで小さなスライムが生まれたかのようだ。

 精神魔法の【誘導】を使ってブルーゼラチンへと近づけていく。


 そして接触した。


 改質した水の固まりは【誘導】を使ってそのまま橋の袂へと進めていく。浸透圧と表面張力に引っ張られてブルーゼラチンの水分も引っ張っていく。

 僅かな水の量にも関わらず、ブルーゼラチンの巨体が少しずつ帝国側の橋の袂に近くなっていく。

 更に一押し。

 精神魔法の【重力偏移】を念じる。水を介在して働いている重力ベクトルを偏らせていく。

 浸透圧と表面張力も加わって移動速度が加速する。

 ブルーゼラチンにしてみれば体の一部が急速に引っ張られていくのに対して、本体は追随しようとするだけだ。

 イエロープディングに比べるとブルーゼラチンの体は粘性が低い。水の塊が一気に押し寄せるように橋の袂の堰にまで到達した。

 ブルーゼラチンが階段状の段差を駆け上っていく。見張りだったオーク2匹が巻き込まれた。

 さすがにMPを使いすぎているのは自覚できていた。魔法そのものはさほど高度ではないのだが、距離を置いて非接触だから消費MPが激しい。

 黄のオーブに魔晶石を融合させて黄晶石にするとMPを回復させていく。

 更に勢いを加速させるようにブルーゼラチンを誘導する。その巨体は堰を全て乗り越えていた。


 オーク達の叫び声が合唱となって聞こえていた。曲名を付けるとしたら”恐慌”というのが相応しい。

 オレ達も階段状になっている堰を登っていった。ブルーゼラチンは密集していたオークに雪崩のように襲い掛かる形になっている。

 計画通り。

 大トンネルの入り口にいた無事なオーク達はブルーゼラチンに為す術はない。

 松明で燃やして撃退できなくはないだろうが、燃やしたら毒ガスでやられるだけだ。

 ブルーゼラチンを更にトンネルの奥のほうへと誘導する。食事中だった間抜けなオーガがブルーゼラチンに巻き込まれた。

 思いも寄らぬ獲物にありついたブルーゼラチンがオーガの全身にまとわりつくように動きを速めた。

 そろそろ次の段階に進もう。


 スクリーン状の結界を形成すると属性魔法の【ブリーズ】を念じる。トンネルの入り口に風属性の蓋をした。

「ラクエル、焼き始めてくれ」

「はいはーい」

 火精サラマンダーがブルーゼラチンを焼き始めた。1匹に見えたがすぐに4匹に分かれて巨体のブルーゼラチンの各所を焼いていく。

 傍目にもイヤな予感を感じさせる白い煙を噴き上げてブルーゼラチンは盛大に燃え始めた。

 そのガスは毒だ。

 イエロープディングは焼くと強酸性の毒を生じるが、ブルーゼラチンの場合は神経毒だ。

 その効果は呼吸器系の筋肉を急速に麻痺させて窒息死に至る。オークもオーガもヘルハウンドも例外になりえない。

 ざっと見て数十名いるオークだがあっと言う間に身もだえ始めた。地に伏して痙攣し口から唾液を垂れ流している。

 どうやら失禁しているのもいるようだ。

 ヘルハウンドはオークよりも少し長く生きていられたようだが、すぐにオークと同じ運命を辿ることになった。

 口から長い舌が飛び出して力なく横たわるとそのまま動かなくなる。

 オーガはよく耐えていた。ブルーゼラチンのついでに体を焼かれたオーガは大トンネルの奥へと逃げ込もうとしたがそれも無駄に終わった。

 体を盛大に痙攣させて息絶えたようだ。他にもオーガが3匹いたがさほど時間を置かずに地に伏した。

 ブルーゼラチンが燃え尽くされた跡は酸鼻な光景となってる。橋の袂に集結していた帝国側の戦力は死屍累々の有様となっていた。

 思惑以上の戦果だ。きっと今のオレの表情は悪人の笑みになっているだろう。


 とはいえ大トンネル入り口の蓋を解呪してしまえばオレ達も危険だ。

 大きめの球形の結界を形成すると【ブリーズ】を念じる。オレ達の周囲に空気の層を作り出すと大トンネルの蓋の方は解呪した。

「オレから離れるなよ」

 階段状の堰をゆっくりと降りていく。

 死体からは魔石が浮かんでいた。見逃す手はない。

 【物体引寄】で魔石を手元に集めていく。数えるのも馬鹿らしくなる程多い。

 あっという間に魔晶石になった。

 オーガ4匹からは魔水晶を回収していく。こいつらの【隷属の首輪】にある魔晶石も苦無で枠から外して回収する。

 ヘルハウンドも同様にする。なかなかの荒稼ぎだ。

 そして彼らを操っていたオークシャーマンから例の首飾りも奪っていく。全部で7つあった。

 最後にブルーゼラチンの残した魔水晶を拾ってその場を後にする。橋の袂の守備部隊もいずれこの状況を見ることになるだろう。

 毒が消えた後、ここを奪還するのは簡単に済む話だ。それ位は彼らに任せておくことにしよう。


 死体の列を通り過ぎて後ろを振り返り戦果を確かめる。

 オークは80匹近く、オーガが4匹、ヘルハウンドが3匹、オークシャーマンが7匹、そしてダークエルフが3匹だ。

 剣を抜くことも無く攻略したのか。

 自然と顔がニヤけてしまう。

 暫くすると別のオーク数匹とすれ違った。鼻をつまんで苦しそうにしている。

 結構トンネルの奥にまで影響が出ているようだ。

 途中で遭遇するオークを観察しながらトンネルを歩いて進んでいく。

 毒の影響はないと確信できた所で空気の球体も解呪する。


 思わす大きく息を吸う。

 【知覚強化】した嗅覚でも問題はなさそうだ。

「では急いで先に進むぞ。サーシャが先導でいつもの隊列だ」

「あ、はい」

「はいはーい」

「おうよ」

「分かりました」

 最初は呆気にとられた様子だったが、いつの間にか普段どおりに戻っていたようだ。

 【ライト】を念じて大トンネルを照らすと、いつも通りに先へと進んでいく。

 駆けていく足は普段よりも軽やかだった。

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