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死に戻り令嬢に転生しましたが、思ってたんと違う  作者: 九重


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チートでも生活能力はありませんでした

 晴れて師弟となったふたりだが、その生活は当初から波乱含み。

 主な理由はセシリアの生活能力の無さにあった。





「……信じられない。なんで、一晩でここまで散らかるんだ?」


 呆然と呟くのはエゼルウルフだ。


「え~? そんなに散らかっていないわよ。ちゃんと通路は確保してあるし」


「室内で飛び石みたいな足場を作っても、それを通路とは呼びません! 昨日僕が綺麗に片付けたのに――――」


 セシリア目線では、それほど散らかっているようには見えない。

 服や夜食の残りとか、あちらこちらに放置――――置いてあるけれど、いざとなればアイテムボックスに収納すれば問題ないはずだ。


『収納』


 そう思ったセシリアが、端から収納しようとすれば、


「服と食べ物を一緒にしまわないでください!」


 すぐに怒られた。


「アイテムボックスに入れれば、自動的に仕分けしてくれるから大丈夫なのに」


「普通のアイテムボックスにそんな機能はありません。そもそも食べかけを収納するとか、おかしいでしょう?」


「私のアイテムボックスは時間停止だから腐らないわよ」


「そういう問題じゃありません!」


 言えば言うほど怒られる。

 セシリアはぷぅっと頬を膨らませた。


「もうっ、なに子どもみたいな顔をしているんです。……これでSランク冒険者だなんて、詐欺もいいとこだ」


「冒険者に必要なのは、片付けの能力じゃないもん」


「人品に優れてこそSランク冒険者でしょう!」


「そんな聖人君子どこにもいないわよ」


 普段の生活はいつもこんな感じ。弟子に世話を焼かれてセシリアの一日は終わる。




 なんとも情けない師匠だが、冷遇されていたとはいえセシリアも貴族。生活能力が無いのも無理からぬものがある。周囲から隔離され監禁されていたラネル伯爵家での環境を思えば、多少ずぼらではあってもひとりで暮らせているだけ上出来だ。


(バーガルド伯爵家では、お飾り妻でも監禁まではされなかったのよね。……まあ、そのかわり、夫や家族はもちろん使用人に至るまで蔑ろにされていたけど)


 おかげで必要最低限の生活能力を得ることができた。

 もっとも、前世の記憶を取り戻した今では、その記憶に助けられている部分の方が大きいのかもしれないが。


(でも、前世の私も几帳面とは言いがたい性格だったから)


 不遇続きの中で生き抜いた彼女は、ある意味たいへん図太い神経を持っていた。

 もろもろ考えれば、セシリアの生活能力の無さは許容範囲内だと思う。




 むしろ異常なのは、望まれない第五王子とはいえ王族だったエゼルウルフの適応力の方だろう。


(この子も、最初はなにもできなかったのに)


 空腹で倒れそうなエゼルウルフを宿の食堂に担ぎこみ、フーフーとスープを冷まし、ひと匙ひと匙食べさせてやったのは、他ならぬセシリアだ。

 ヒールで回復させたとはいえ、これまでの低栄養で痩せ細り、その後もしばらくベッドの住人になっていた彼を、甲斐甲斐しく看病したのも、もちろんセシリア。


 感謝されて当然の行為だと思ったのだが、ベッドの上からセシリアの生活態度を見ていたエゼルウルフの考えは違ったらしい。

 数日後、むくりとベッドから起き上がったエゼルウルフは、開口一番こう言った。


「今後、家事は僕がします」


「あら? そんなに気を遣わなくてもいいのに。ようやく普通に食べられるようになったばかりなんだから、ゆっくりしていて」


「これ以上ゆっくりしていたら、僕は()()()()になります」


 労りの言葉をかけたセシリアに、エゼルウルフはきっぱり首を横に振る。


「え? たいへん! ヒールをかける?」


「ヒールよりも、掃除をしてください!」


 そう言った。


「……掃除? クリーンをかけてほしいの?」


「魔法じゃありません。……あなたという人は、食事をすれば食べっぱなし、服を脱げば脱ぎっぱなし…………いい加減この部屋を、片付けてください!」


 エゼルウルフは、怒鳴る。どうやら我慢の限界だったらしい。


「定期的にクリーンをかけているから、腐ったりしないわよ?」


「腐らなきゃいいってもんじゃない!」





 ――――この日からエゼルウルフは、セシリアのお世話係になった。

 整理整頓からはじまって、やがては自炊にまで手を伸ばす。


「私、腕のいい冒険者だからお金持ちなのよ。食べたい料理があれば買ってくればいいのに」


「外食は栄養が偏りますからね。……あなたは好きなモノばかり食べているでしょう?」


 ジロリと睨まれれば小さくなるしかないセシリアだ。


「…………エルったら、お母さんみたい」


()ですよ。不本意ながらね」


「不本意なのね――――」


 弟子にしてほしいと頼まれて受け入れてやったのはセシリアのはずなのに。

 もはや威厳の欠片もない師匠だった。


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