6.4巻の制作
『魔術師の杖』はネリアが持つ肉体も、物語が進むにつれ重要なアイテムとなってくる。だから肉体をしっかり描ける人がよかった。
陶器のように滑らかでありながら、柔らかい弾力も感じさせる肌。金属やレザー光沢、服に使われる布の質感まで、よろづ先生は素材感をきちんと出して下さる。
肌の色はただ塗っただけでは、見た感じ均一にはならない。実はひと手間もふた手間もかかけて、確かな技術で描かれている。
だから絵心のある人ほど、よろづ先生の絵には魅せられる。だれもが「こんなふう絵が描けたらなぁ」と思ってしまうような絵を描く方なのだ。
「おへそ!ネリアのおへそが見たいです!」
神絵師にそんな注文を出してしまう作者。
もちろんそれには理由があって、3巻部分をなろうで書き終えたときに書籍化の打診を頂いたから、『ネリアと人魚の王国』の連載は、1巻の書籍化作業と同時進行だった。(そのためちょくちょく休載した)
もうイラストレーターさんも決まっていたし、『絵になること』を考えながら、小説を書くことができたのだ。書いているときから、あれこれ想像をふくらませた。
「表紙になるとしたらやっぱ珊瑚礁の場面かなぁ」
「水着はパレオにして……海に入ると脚に巻きついて……人魚になっちゃうの!」
とはいえ新人作家にとって4巻は遠い。書いてもらえるまでに1年かかった。
でも早いほうだよね?私、がんばったよ。
書籍ではお見せできなかったが、よろづ先生はパレオ姿の水着バージョンからデザインして下さった。
ネリアの美脚がまぶしい!
4巻で初登場するカイは、よろづ先生に自由に描いて頂いた。もともと筋骨隆々とした格闘ゲームのキャラを、二次創作で描くのがお好きな方である。王都組とはちょっと違うタイプの、ワイルドイケメンになった。
極彩色の珊瑚礁をバックに、ネリアとカイの衣装には黒が使われて、それがビシッと画面を引き締めている。
鮮やかな色彩に見えるけれど、ひとつひとつの色味は落ち着いている。彩度と明度の調整まで意識された画面は、ずっと眺めていても飽きないし、目が疲れない。プロは気づかれないところにも気を配るものなのだ。
「ネリアはカメラ目線で、こちらを方を向いていて下さい。読者さんを誘うように手を伸ばしてほしいです」
コロナ禍でどこにも行けない。だから出かけたい気持ちを小説にこめた。赤ちゃんザメや、空と海以外何もない砂浜といった海のイメージは、実際に行ったことがある、サイパンやハワイ、沖縄やニューカレドニアの海などがモチーフになっている。
『読んだ人を異世界に連れていく』……それを絵でも表現してほしかった。
髪飾りは貝殻を使ったカイの手作り。マウナカイアのお土産品である。カイは黒真珠や金を使った、意外と豪華なアクセサリーをつけている。
彼が身につけるペンダントも、物語の重要な小道具だ。書籍化により、そういうのを最初からイメージして文章を書くことができた。使う小物についても、相談できる相手がいるというのは、とてもありがたかったし楽しかった。
最初はアリエルのイメージで書いたネリアの衣装は緑だったけれど、本にする際は海で映える赤に変更した。
「表紙の水着は赤でお願いします。『崖の上のポニョ』みたいな金魚のイメージです」
そんな依頼も、よろづ先生がイイ感じにデザインして下さる。
「挿絵の『海王妃のドレス』はクラゲのイメージです」
金魚とクラゲ。作者のイメージなんてそんなものである。
これまたよろづ先生が、とてもイイ感じにデザインして下さった。挿絵②で使われたけれど、肝心のネリアがドアップでドレスの全体は拝めない。現在はよろづ先生に許可を頂いて、ネリアのパレオ姿と海王妃のドレス姿は、渋谷〇〇書店で公開している。
4巻発売時は、よろづ先生からも記念イラストと読者さんへのメッセージを頂く。
「ネリアちゃんのイキイキとした表情を表現できるようにがんばりました!海の青さで熱い夏を少しでも涼しく感じていただければ幸いです。今後も『魔術師の杖』の世界観が膨らむようなイラストをお届けしたいと思いますので応援をよろしくお願いします!」
ネリアの表情がとてもいい。新米作家の私も緊張していたけれど、よろづ先生だって初めてのライトノベルの仕事にドキドキだったと思う。試行錯誤の連続で、毎回塗り方が変わっていった。
著者もイラストレーターさんもこの4巻で、「どうしたらいいんだろう」から「これでいいんだ」へと、いい具合に肩の力が抜けた気がする。
それからも仕事が忙しかったり、私用がたてこんで思うように書けなかったりするとよく、「もう無理かも」としょぼくれた。そのたびに気持ちを奮い立たせ、また原稿に向かう。
「いや待て、神絵師にイラストを描いてもらうのはなろう作家の夢やないか!」
よろづ先生という、素晴らしいイラストレーターさんに出会え、ネリアやレオポルド、ライアスたちに命が吹きこまれた。
こんなことは一生に一度あるかないか、もう二度とないかもしれない……だから悔いがないように、今も精一杯書いている。









