9.6巻の制作
よろづ先生は、1巻のお祝いイラストのような、ぼかしを使った塗りも好きだとおっしゃる。一方、こんなふうにもおっしゃっていた。
「私の絵柄にはアニメっぽい、ハッキリした色使いが合う気がします」
早い段階から「コミカライズしてほしい」「アニメで見たい」と、『魔術師の杖』の読者さんから要望が寄せられたのは、よろづ先生のイラストが持つ力だろう。
見る人に「マンガやアニメになって、この絵が動いたら」と想像させてしまうイラストなのだ。
『魔術師の杖』6巻では、ネリアは魔道具ギルドの実習に、助手として参加する。そして〝レブラの秘術〟を覚えた彼女は、それを用いて魔道具の記憶をのぞく。
それがきっかけでネリアはライガで、レオポルドと『知らずの湖』へ。
後半は打って変わって、竜騎士団と魔術師団の激しい対抗戦だ。
目立つような作品ではなかったけれど、『魔術師の杖』は新刊を出すたびに、新規読者さんを獲得し、6巻は堂々と表紙アンケートを行えた。
発売を楽しみにしてくれる読者さんがいるというのは実にいい!
連載時に倒れて泣いてた私に教えてやりたい。
「印象に残ったシーンは?」というお題のアンケートで選ばれたのは、『知らずの湖』となった。ネリアは今回も飛んだ。
ところがこの時、とんでもないハプニングが起きた。
実は5巻と6巻は制作時期がかぶっていて、担当者がうっかり間違えて、5巻の表紙を6巻の内容で発注してしまう。
「5巻の表紙です」と届いたラフには、『知らずの湖』上空をライガで飛ぶふたりが描かれており……ひっくり返りそうになった。
「ぶ、舞踏会の場面って決めたじゃないですか!!」
5巻の表紙はそのとき当然手つかずだ。寿命が縮まった。よろづ先生には大変申し訳なかったけれど、めちゃめちゃ押せ押せで、5巻の表紙は仕上げて頂いた。
そんなこんなで、本ができる何ヵ月も前に、6巻表紙のラフ自体はできあがっていた。魔道具のライガは表紙と挿絵両方に登場する。
完成まで時間の余裕があったおかげか、よろづ先生は3Dソフトをいじり始めた。
「3Dライガ作製しました」
「ライガを⁉」
「1回作っとくと後が楽なんで。5巻の記念イラストで使ったバラと同じです。構図はネリア1人が飛ぶ1巻、ネリアがライアスとドラゴンに乗る3巻と対比となるよう考えてます」
そこで私は、初めて色調をリクエストした。
「湖上を月光を浴びて飛ぶ2人です。紫を基調としたグラデーションでお願いします」
あいまいな中間色のグラデーション。ひょっとしたら苦手意識をお持ちだったかもしれない。下手すれば全体がぼやけた印象になる。
できあがった表紙には、いつも以上に繊細なタッチで、穏やかな2人の表情が描かれた。少しだけ……たがいの心が近づく優しい夜なのだ。
湖には実は過去のエピソードがあり、それは7巻で明かされる。店頭でもパッと目に飛び込んでくる表紙ではないけれど、じっくり見たくなる……そういう場面に仕上がった。
1巻で描かれたライガとは、こうして見るとかなり違う。
この3Dライガはそのまま、よろづ先生からコミカライズの作画担当、ひつじロボ先生に渡された。
ひつじロボ先生も大変喜ばれ、「ライガはキャラデザを担当されている、よろづ先生から頂いた3Dにめちゃくちゃ助けて頂いております!今後もちょくちょく出番あります!」とのことなので、楽しみにしている。
今となってはケガの功名、間違えた担当者さまさまかもしれないが、きちんと打ち合わせをしてそれである。それ以降フィードバックは齟齬がないよう、同じ内容を編集部とよろづ先生両方に送ることにしている。
もうあんな思いはしたくない。転ばぬ先の杖というやつだ。
今だから書ける裏話









