表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【受賞】元"悪女"は、地味な優等生令嬢になって王国の破滅を回避します!  作者: es
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/48

05-03. 勝利と友情記念

 


 試合は順調に進んでいく。

 私はいつしか真剣に観戦していた。

 見た感じ、どの試合も、実力はほぼ拮抗している。


 だが──ジーク先輩の強さは、圧倒的に群を抜いていた。異次元といってもいい。

 次の試合も、最初の試合同様に瞬殺だった。相手の武器をはね上げ、地面に転がして、心臓の上に剣を突きつけていた。


 レベルが違いすぎる。

 これほどの実力差があるのだ。一年の頃から優勝していたというのも、納得しかない。


 三試合目。

 開始のコールから、ほんの一瞬。

 先輩はおそろしい速度で間合いを詰め、相手の喉元に剣を当てていた。

 客席から、ひときわ大きな声援が上がる。ファンクラブの方々も、気合いの入ったダンスで大盛り上がりだ。


 でも──客席の熱狂とは裏腹に、私の心は冷えきっていた。


 ジーク先輩は私の潜在的な敵だ。

 とんでもない強さを見せつけられ、怯えずにはいられなかった。

 体から急速に熱を奪われていくような感覚。人外じみた強さを目の当たりにするほど、手の震えが止まらない。隣のソニアに気づかれないよう、ぎゅっと拳を握る。



 ──そして始まった、決勝戦。


「はじめ!」


 耳が痛くなるほどの声援を、まるで紙のようにすっと切り裂いて、


 キン、と涼やかな音が響いた。


 気がつけば、一本の剣が、場外の土の上に突き刺さっていた。

 先輩は、澄んだ湖のような瞳で愕然としている相手を見据え、静かに剣を下ろす。



 一試合目と同じ展開。目にも止まらぬ速さで、相手の剣を弾き飛ばしたのだ。

 それに気づいた時には、客席の興奮は最高潮に達していた。


「優勝、ジーク・ライヴァルト!!」


 無意識に詰めていた息を吐く。


 深く一礼した先輩は、ふと、誰かを探すように視線をさまよわせた。客席をさりげなく見回した彼と、何となく目が合った……気がする。

 でも、やっぱり気のせいかもしれない。先輩の立ってる場所はかなり距離がある。


 と、凪いだ水面のように落ち着いていたジーク先輩が、目を見開いて、動揺した素振りを見せた。

 どうしたどうした、と思っていると、先輩は審判に声をかけられ、あれよあれよと表彰台の方に連れて行かれた。

 ……何だったんだろう、今の。



 先輩の姿が小さくなっていく。

 それを眺めていた私の心境は、ほとんど絶望に近かった。"英雄"になるかもしれない男の、圧倒的な強さを目の当たりにして、バッキバキに心が折れかけていた。


 あんな人、敵に回してはいけない。絶対に。


 前回人生で気づくべきだった。あの異次元レベルの存在を、私はどうして知らなかったのだろう。


 ──それを嘆いても仕方ないが、とにかくジーク・ライヴァルトに関しては、今後も注意を払わなくてはいけない。


「先輩、こっちを見てたわね」


 隣のソニアが意味ありげに振り返った。

 目があった途端に、彼女は目を見開いて私を覗きこむ。


「アデル、あなた顔が真っ青じゃない! どこか具合が悪いの?」

「あ……いえ、先輩が余りに強かったから驚いちゃって……」

「そうなの? とにかく、すごく気分が悪そうだわ」


 ソニアが、心配そうに私の肩を抱く。


「……少し人酔いしてしまったかもしれません。こういうイベントにはほとんど参加しませんから……でも、大丈夫です」

「ダメよ、ここを出て休んだ方がいいわ。立てる?」


 ソニアによりかかって、ふらつきながらも何とか立ち上がる。


「すみません、ソニア」

「気にしないで。どこか涼しいところに移動しましょう。カフェテリアが近くにあったわ」


 そうして私たちは、表彰式の途中で闘技大会を後にした。



 ◇◇◇



 闘技大会が終わると、一気に学期末な雰囲気が漂う。今日、ソニアは用事があるとかで、久々に先輩と二人きりのお友だち会になった。


 先輩のファンクラブの話はとても怖かったけど、結局、お友だち会は続行することに決めた。

 リスクはあるが、まだ暫くは先輩の動向を押さえておく必要がある、と判断したからだ。


 今回は、ジーク先輩が私をギロチンにかけた張本人だと知った時より悩んだ。でも、接点を失くしてしまうデメリットと天秤にかけての結論である。

 それに先輩は四年生だ。学院内で会うのもあと数回だろう。



 そんな私の考えなど知る由もない先輩は、顔を合わせるなり、心配そうな顔をした。


「大会の時、顔色が真っ青だったけど、もう大丈夫なの?」

「えっ結構離れてたのに、よく気づきましたね」


 客席に埋もれがちな、ド地味な私をよく見つけたものだ。素で感心していたら、先輩が小さくはにかんだ。


「田舎育ちだからね。兄上たちと、遠くの牛の模様を当てる遊びとかやってたんだ」

「なるほど」


 牛かぁ。牧歌的だ。

 鬼神のような強さとのギャップがすごい。

 それにしても、田舎の方々は目がいいって本当だったのね。


「それで、体調はもういいの? 表彰式の時には姿が見えなかったから心配したよ」


 優勝直後、先輩が動揺して見えたのは、私を案じての事だったらしい。

 ……やっぱりいい人だ。過去の自分の仇なのに。


「あれは……会場の熱気に当てられちゃったみたいで。会場を出て涼んだら、すぐに良くなりました。せっかく先輩が優勝したのに、表彰式の途中で抜けてしまって申し訳ありませんでした」

「謝らなくていいよ、君の体調の方が大事だから」


 安堵した顔で、穏やかに先輩は微笑む。


 やだな。そんな顔しないでほしい。

 私は、前回人生で国を滅ぼした"悪女"だ。

 間接的に先輩の家族を殺したようなものだし、今だって、先輩が怖かったという事実を隠すために、しれっと嘘をついている。

 結局私は、何食わぬ顔で誤魔化して、自分の利益を取るような女なのだ。


 それなのに先輩は私を疑わない。

 さすがに良心がチクリと痛む。ごめんなさい、と心の中で謝っていると、先輩はこちらを窺うような表情で話題を変えた。


「ところで……」

「何でしょうか」


 聞いても、先輩は恥ずかしそうにモジモジしている。十六歳の少年のはずなのに、乙女な仕草も違和感がない。


「……四年連続優勝した記念というか、友人として、君に頼みがあるんだけど」

「うーん、聞くかどうかは、内容と交渉次第ですね」

「その対応、相変わらずだね。慣れたけど……」


 スン、と先輩が真顔になる。

 彼は呆れてぼやいていたが、すぐに気を取り直した。キリッと表情を引き締めて、ひと息に言い切る。


「学院の舞踏会で、僕とダンスを踊ってほしい」

「いいですよ。ただし目立たない場所でお願いします」

「やっぱりダメか……って、本当にいいの!?」

「はい」


 断られると予想していたのか、ジーク先輩はひどく驚いている。


 ふふ、見くびって貰っては困る。良心の呵責があろうがなかろうが、あくまで私はリアリストだ。

 ダンスを承諾したのは、理由があった。

 実は私の方にも、学院の一大イベントである舞踏会で、先輩に受けてもらいたい頼みがあるのだ。


「ダンスをお受けする代わりに、私も先輩にお願いしたい事があるんです。いつかのお礼として取っておいた権利を、舞踏会で使わせてください」



残り1/3まで来ましたが、推敲のため、ここで少しお休みをいただきたいと思います。

1月中には再開するつもりでおりますので、暫しお待ちください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
自分が悪女ルートを辿ってるわけでもないのに、どうして心が恐怖でバキバキに折れてるんだろう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ