04-05. ぼっちが三人集まると
つるつるしっとりした肌、エメラルドのような大きな瞳。すっと通った鼻筋に、かたちのきれいな唇。
ほんのり薔薇色に染まっている頬は、思わず触れたくなるような滑らかさ。髪はドギツイ水色とピンクから、絹のように艶やかな栗色へ。
これぞ美少女!な女の子の出現に、私は興奮を抑えきれない。
「すごい……想定以上です……!!」
「そ、そうかしら」
「ふふ……はい、素材としては最高級です。これは化粧のしがいがありますねえ……!」
「アデル、あなたちょっとこわいわ……」
気合いが入りすぎてる私に、ソニアが怯えた目を向ける。でも気にしたら負けだ。
久々の化粧にワクワクしながら、私はまず、化粧水を手に取った。
「ふふふ……ふふ……」
「だからこわいってば!」
あーあー聞こえない。
美を極めた元"悪女"の名にかけて、ソニアを最高の美姫にしてご覧にいれましょう!
──まずは、基礎化粧品で肌を整え、下地を丹念に乗せていく。もとの肌がきれいだから、それを生かして、厚くなりすぎないように、かつ均一に。
白粉は顔全体に軽くはたくだけに留め、自然な色味の頬紅や口紅で華やかさをプラスしていく。
つけまつ毛なんて一切必要のない、長くて密度のある天然まつ毛をきれいにカールさせたら、夢見がちな天使のような、ふわりと優しい目元の完成だ。
……このうるっとした瞳で見つめられたら、レグルス王子も確実にコロッといっちゃうだろう。
ソニアの髪はマリアに結ってもらった。私は自分で髪を結ったことがないので、上手い人間に任せた方が良いと判断したからだ。
マリアは、複雑な編み込みに、真珠をあしらったピンを手際よく留めていく。
ソニアの髪は、結う前に徹底的にお手入れした。おかげで、思わず頬擦りしたくなるほどの艶やかさ。生まれ変わった栗色の髪に、純白の真珠がよく映えている。
安直だけど、清楚と言えば真珠だ!
「いかがでしょうか」
「…………驚いたわ。まるで別人みたい」
ソニアは手鏡に映った自分を見て、小さく息をのんだ。さっきまでの、派手に化粧した不良っぽい少女の面影はどこを探しても無い。
今、目の前にいるソニアは、紛う事なく、清楚系美少女へと華麗なる変身を遂げていた。
「あなたの言った通りだわ。清楚って作れるのね……すごい……!」
「そうでしょう、そうでしょう。あなたは元がすっきりした顔立ちなので、どんな化粧も似合うと思いますよ」
悪女風もいけると思う。もちろんしないけど!
「これなら、あたしでも、レグルス殿下を射止められるかな……?」
「ええ、きっと出来ますよ!」
私はソニアの手を握って、力強く頷く。
「あなたも……その、ありがとう」
「ソニア様のお力になれて光栄です」
私たちを見守っていたマリアに、振り返ったソニアが礼を言う。デキる侍女は鉄壁の無表情を崩し、優しく微笑した。
それからソニアは、いろんな角度から手鏡に自分を映し、見違えるほど清楚になった自分を確認していた。気に入ってもらえたようで何よりだ。
それが一段落するのを見計らって、私は彼女にある質問をぶつけてみた。これは今後の計画にも関わる重要事項だ。
「──ソニア、一つお伺いしたいことが」
「なあに?」
「二学年上の、ジーク・ライヴァルトという騎士科の先輩をご存知ですか。彼の事、どう思いますか?」
「ああ、あの有名な"氷の貴公子"かしら。そうねえ、あたしは…………」
「…………なるほど」
──その返答を聞いて、私はよりいっそう自分の見る目の正しさを確信したのだった。
◇◇◇
屋上庭園の片隅。いつものように先に来て待っていると、ジーク先輩がふらっと姿を見せた。
相変わらず金粉を撒いたかのようなキラキラ感。でも、最近は「今日も絶好調だなぁ」くらいにしか思わなくなった。慣れってすごい。
それより今日は、今後の計画を進める上で、重要なターニングポイントになる。
そんな予感で、私は柄にもなく緊張していた。
「……やあ」
「こんにちは。今日はよろしくお願いします」
「うん。でも意外だな、君が僕に友人を紹介したいだなんて」
「それです、ジーク先輩。ほら、あなたも知ってますよね? 最近私が仲良くしている、あの女生徒です。すごくいい子ですし、絶対にジーク先輩に靡かないのでご安心ください」
ジーク先輩には「ソニアを紹介したい」と事前に手紙で許可を取った。
一応、秘密の会だから、私だけの都合で勝手に友人を招くわけにはいかない。
私が最も懸念していたのは、ソニアがジーク先輩に惚れてしまう事だった。そうなると色々拗れて計画が台無しになってしまう。
その点、ソニアは完全に合格だった。彼女にジーク先輩の印象を確認した所、
『あの人、顔はいいけど、中身はモテない普通の男だと思うわ。レグルス殿下の方が百万倍は素敵よ』
……と、拍子抜けするくらい、あっさり返された。
意外にも、ソニアは的確に先輩の本質を見抜いている。ますます彼女の株が上がった。
ソニアの見立てどおり、ジーク先輩は、兄弟と野山を駆け回り、その辺に生えてるキノコを味見するような子ども時代を過ごした。そうして育まれた中身と、キラキラした外見の不一致により、ぼっちになってしまった男なのだ。
ソニアはそんなジーク先輩にまったく興味がないらしい。何よりの朗報である。
様々な検討を重ねた結果、私は「ソニアがレグルス王子からジーク先輩に乗り換える心配はない」と判断し、二人を引き合わせることに決めた……わけだけど。
「あ、来ました! ソニア、こっちです!」
遅れてやってきたソニアに向かって、私はブンブン手を振った。私を見つけたソニアが笑顔を見せる。
が、ジーク先輩を発見した瞬間、彼女は盛大に顔を引きつらせた。
「……初めまして。ソニア・ガーランドと申します」
「どうも。僕はジーク・ライヴァルトだ。騎士科の四年生だよ」
うん? おかしいですね?
二人とも笑顔なのに、ものすごく気温が下がった気がする……二人の間に、激しくブリザードが吹き荒れてるような……気のせいかなー?




