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【受賞】元"悪女"は、地味な優等生令嬢になって王国の破滅を回避します!  作者: es
本編

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04-04. 清楚は作れる

 


 さて本日も特訓だ。

 放課後ソニアを我が家に呼ぶ。今日は殿下のハートを鷲掴みにする化粧法を伝授するのだ。

 ズラリと並べた化粧道具を前に、私はビン底眼鏡のレンズをキラリと光らせた。


「いいですかソニアさん。殿下の好み、それは──清楚です! 一に清楚、二に清楚!」

「せ、せいそかぁ……」


 清楚。そこに意外性はない。真面目一辺倒の王子らしい好みだ。

 しかしソニアは死んだ魚のような目になって、ガクッとうなだれた。


「あたしにできるかなぁ……」

「たしかに、()()ソニアさんは清楚とは言いがたいものがあります」

「ぐはぁ」


 ソニアが呻いた。

 しかし、いくらでもやりようはある。アンデッド化してる暇はない。


「大丈夫、清楚は作れます!」

「清楚はつくれる……?」

「ええ、だから頑張りましょうね!」

「……そうね、あたし頑張る!!」


 瀕死だったソニアの瞳に希望が灯った。よーしよしその調子!


 私は自信をもって言う。清楚は作れる。前回人生で実践した"悪女"の私が言うのだから、間違いない。


「まずは、髪色と化粧から変えていきましょう。あなたのファッションは嫌いではありませんし、そのスタイルに行き着いた事情もよぉく理解しています。

 ですが……自分を変える努力を放棄して、思い人を射止めるなど、土台無理な話」

「そ、それも、そうね……」


 ソニアがまた涙目になった。

 気持ちはわかる。彼女なりに、今の外見にこだわりがあるのも。


 派手な化粧、水色とピンクに染めた髪。着崩した制服の上に、ジャラジャラ付けたアクセサリー。これらは、ソニアの自己防衛と反発心が生んだ鎧だ。

 ある意味、私のクソデカ眼鏡やダサい髪型、ダボダボの制服と同じ性質のもの。

 レグルス王子のために簡単に脱ぎ捨てられるほど、単純な問題ではない。それを承知の上で、私はソニアに、このスタイルをやめろと迫っているのだ。



 ◇◇◇



 ────話は、ソニアが初めてうちに来た日に遡る。


 客間で今後の計画を固めた私達は、お茶を飲んで休憩していた。その時、ソニアがポツポツと自分のことを語り出した。


「…………ねえアデル。あ、アデルって呼んでいいかしら?」

「構いません、お好きなように呼んでください」

「うふふ、ありがとう、アデル。それでね…………馬車でも言ったけど、あたしはガーランド公爵の長女なの。母は正妻だったけど、父には昔から愛人がいてね。母が身罷った後、その愛人がたった1ヶ月で後妻におさまったのよ」


 ソニアはしんみりした口調で語る。


 貴族の間ではありふれた話だけど、だからといって、そんな状況に置かれた子どもが辛くない訳じゃない。辛いものは辛い。

 でも、私は「そうですか」と頷くだけにとどめた。下手な慰めは、かえってソニアを傷つけるような気がしたからだ。


「あたしの父はね、継母が生んだ跡継ぎの弟は可愛がってたけど、あたしのことは見向きもしなかったんだ」


 ソニアは寂しげに笑った。


「父の気を引きたくて、わざと父や継母を怒らせるような態度を取ったの。こんな派手な格好をしてみたりして」


 そうしてソニアは、家族の中でますます孤立を深めていった。


 やがて彼女が十二歳になると、魔法の素養がある事を理由に、厄介払いするかのように学院に入学させられた。


「こんなナリだし、素行も悪いから、学院に入っても友達なんて出来なかったわ。アデル、あなたが初めての友人よ」


 風が吹いてきそうなバッサバサのまつ毛を瞬かせて、ソニアは照れくさそうに笑った。


「……去年の秋だったかしら。友人もいないし、授業もつまらなくて、園庭の奥の噴水のそばでサボってた時にね……レグルス殿下が通りかかったの」


 手持ち無沙汰だったソニアは、暇潰しに魔法で遊んでいた。

 噴水の泉の水が、自由自在に形を変えていく。透明な蝶、花、鳥。それらを次々と作っては、パシャンと壊していく。

 ソニアは元々優秀な魔法の才能があった。その程度の魔法なら息をするように使いこなせる。


「そうやって何となく遊んでた時に、本当に偶然、レグルス殿下がいらっしゃってね。私の魔法を見て、『とても綺麗な魔法だ。君は才能があるのにサボるなんてもったいない』と優しく笑ってくださったの……」


 ──あぁ、いかにもあの人畜無害な王子が言いそうなセリフだ。私はつい天井を仰いだ。

 見ず知らずの派手な女学生を警戒しない、のほほんとした性格。良いと思ったものは素直に称賛する率直さ。相変わらずだ。

 けして悪い人間ではない。ないんだけど……そんなんだから悪女に引っ掛かっちゃうんですよ……と胸の内で呟く。

 真顔になった私に気づかず、ソニアは赤くなった頬を押さえた。


「それでね……気がついたら、あたし、殿下のことを本気で好きになっちゃってたの…………」


 そう言って照れたソニアは、一家に一台置いておきたいくらいにかわいかった。


 以降ソニアは心を入れかえて、授業だけは真面目に出るようになった。そしてレグルス王子のストーカ…………いや、追っかけを始めたんだとか。


 そんなチョロ……純真無垢なソニアに、私は最終確認のために口を開いた。


「……あなたは、ここに来るまでの馬車で、私がした質問を覚えてますか?」


 馬車の中で、私はソニアに幾つか質問した。

 最初は「なんでそんなことに答えなきゃなんないの!?」と反抗的だったソニアも、私の鬼気迫る勢いに押され、最後は涙目になって、借りてきた猫のように大人しく答えてくれた。


 え、脅してなんかナイヨ?


「私が『もし王子が道を間違えたらどうしますか?』とお聞きしたら、あなたは言いましたね。『殴ってでも正気に戻す』、と」

「うん。だって父を見てたらわかるわ。父が再婚した継母はお金が好きなだけで、父を愛してなんかいないの。

 でも父は、長年愛人として日陰に置いてた負い目があるから、継母の言いなりで、あの女の望むままにお金を使っちゃう。お陰でうちは順調に傾いてるわ」


 あんな結婚ならしない方がマシよ。そう言って、彼女は肩を竦めた。

 ええ……ひっじょーに胸が抉られる、耳が痛い話ですね……!


 それはともかく。


 二度目の人生を送る私にとって、ソニアの回答は、これ以上ないパーフェクトなものだった。

 ソニアならきっと賢明な王妃になれるだろう。あのチョロすぎるレグルス王子を愛し、導いて、私をギロチンルートから救う救世主に……!

 その確信が私の心を動かした。


 見る限り、ソニアの王子への愛は本物。100%混じりけなしの純愛だ。

 一方、レグルス王子は呆れるほどチョロい。しかし──ひとたび相手を好きになったら、とてつもなく一途だった。

 要するに、惚れさせたらこっちのもんである。


 二人が相思相愛のラブラブカップルになれば、滞りなく国が回るし、みんなハッピーで万々歳!

 うん。完璧だ!



 ◇◇◇



 ハイ回想終わり!


「というわけで、まずは髪色を元に戻して、化粧を落としましょう!」

「う、これが普通になってるから、今さら元の髪色なんて恥ずかしいわ」

「ここには我々しかいません。あなたの素顔も元の髪色もきっと素敵ですよ。大丈夫、自信持ってください!」

「……あーもう……わかったわよ!」

「ソニア様、髪はわたしが染めて差し上げますね。こちらへどうぞ」


 待機していたマリアが淡々とソニアを促す。ソニアは渋々という顔をしながら、それでも素直についていく。やっぱり根は素直ないい子なのだ。



 そして待つこと一時間。洗面所から戻ったソニアは──思った通り、というか、思った以上の美少女だった。


 私は心の中でガッツポーズした。

 ホラホラ、まつ毛バッサバサの派手な化粧を落としたら、むきたての卵のようにツルンとした天然美少女が出てきましたよ!


 さて、ここからが私の本領発揮だ。



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