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【受賞】元"悪女"は、地味な優等生令嬢になって王国の破滅を回避します!  作者: es
本編

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04-02. 協力関係

 


 ソニアを馬車に乗せ、カポカポ揺られること十数分。家に到着すると、


「お帰りなさいませ、お嬢様……?」


 出迎えてくれた侍女のマリアは、馬車から降りたソニアを見て目を見張った。

 まあ、驚くのも当然ね。私が友人を家に連れてきた事なんて今まで一度もなかったし、ソニアは私とは正反対のド派手な格好だもの。


 けれど当のソニアは、派手な外見とは裏腹に、「突然訪ねてごめんなさい」と恥ずかしそうに挨拶した。

 初々しい。そしてかーわいい!


「……そちらのお嬢様は、アデルお嬢様のお客様でしょうか」

「ええ、そうよ。もっと仲良くなりたくて、うちにお招きしたの。急で悪いけど、おもてなしの用意をお願いするわ」

「かしこまりました」


 すっといつもの無表情に戻ったマリアは、私たちを客間に案内し、お茶の用意をしてくれた。


「下がっていいわ、ありがとうマリア。ここには誰も近づけないようにしてね」

「承知いたしました」


 無表情な侍女が下がると、私はソニアに単刀直入に話を切り出した。



「──結論から言いましょう。私には、あなたに協力する用意があります!」

「は……? 何を言い出すの、突然」

「この出会いは運命です!」

「え……え?」

「というわけで、あなたの恋心は、不肖わたくしめが成就させてみせましょう!」

「えぇえええっ!!?」


 バサバサの付けまつ毛のついた瞳を大きく見開き、ソファの背もたれに張り付くように少女がのけぞった。


「待って、あたしたち初対面よ!?」


 ソニアが驚愕して叫ぶ。

 でも、そんなのは些細な問題だ。

 出会いからの時間は関係ない。重要なのは、利害が一致するかどうかだ。


「あなたの王子殿下への一途な恋に、私は大変感銘を受けました……」

「いやそんな棒読みで言われても……」

「そうですね、実際は違います」

「違うの!?」

「正確にいえば、あなたの恋が実れば、私にも非常に利がある、という事です」


 わけがわからない、という顔をしているソニアに、私は真剣に語って聞かせた。


「多くは言えませんが、私のお父様──ローエングリム公爵は、レグルス殿下を非常に心配しておりました。女性に免疫がなく、万が一変な女に引っかかったら将来が不安だ、と」


 ……まあ、その「変な女」とはかつての私の事ですがね。

 前回人生で得た実体験は、とりあえずお父様から聞いた話にしておく。「時間逆行した」と正直に話しても、頭のおかしい女だと思われるだけだ。


 特盛りのまつ毛をバシバシさせ、ソニアは呆気に取られて「はぁ」と呟く。私はかまわず畳みかける。


「私の夢は、王宮の財務官になって、安定した人生を送る事なんです。だから、次期国王やその妃となる方々に、きちんと国を運営していただかねば困るんです……!」

「なにそれ。あたしと何の関係が…………?」

「つまり……ソニアさん、あなたなら、必ずや殿下を正しい道へと導いてくださるのではないかと……そう思うんですっ!!」



 力説してガシッと彼女の手を握る。

 分厚い眼鏡をキラリと輝かせると、ソニアは勢いに飲まれたようにたじろいだ。


「つまり……あたしに、王太子妃の地位を射止めてほしい、という話?」

「平たく言えばそうなります」

「そんな……不敬だし、あたしなんかには無理よ。こんな見かけだし、殿下にふさわしくないわ」


 彼女はゆるく首を振った。


 たしかに彼女の外見は派手だ。

 でも泣きそうな顔で、一途に身を引こうとするソニアは、とてもかわいくていじらしい。

 それに、おそらく素は悪くない。それどころか美少女といってよい顔立ちだ。元"悪女"の勘がそう告げている。


「私が全力で協力します。必ずやあなたを、殿下好みの素敵な女性に変身させてみせますから!」

「…………」


 ソニアは沈黙している。

 そこで今さらながら、私は自分の決定的な間違いに気がついた。

 ──こんなダサい格好の優等生に、「殿下好みの女にしてあげます」とか言われても、説得力は……………皆無…………!!!



 だがこちらの焦りとは裏腹に──

 少女は力強く顔を上げ、私のクソデカ眼鏡を真っ直ぐに見つめた。


「わかったわ。あたし、がんばってみる。ダメならダメで、当たって砕けたらきっと心残りはないわ」


 わぁ、ソニアが乗せられやす…………いや、潔い性格で助かったぁー!!

 何という勇気……全身全霊でスタンディングオベーションを送りたい。


 あとは、前進あるのみ。王子の好みを熟知している私が味方についたのだ。大船に乗ったつもりで任せてほしい。

 そんな気持ちをこめて、私はソニアの手をぎゅっと握りしめた。


「頑張りましょう、ソニアさん……!」

「ええ……!」


 私たちは顔を見合わせて、微笑みあった。──それが、生涯の友情になるとも知らず。



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