Locus 112
お久しぶりです!
ほぼ猫の日らしいですね
(っФωФ)╮ー二三⑤(☆))Д´) 。°(謹賀新年!?)
次のフロアへと続く通路に入り、足元に気を付けながら慎重に進んで行くと、この新しい通路の終点まで見通せるようになった。
どうやらこの通路には罠もなく、またモンスターも一切いないようだった。
しかし、隠された採取ポイントが3か所あった。
一つ目は、入口から12~3mの程の場所にあり、天井に伸びてる木の幹の三股に分かれた根本にできた洞の中に。
そこはまるで、洞の中に落下した落ち葉が腐葉土となり、その中に落ちた木の実が発芽したような場所だった。
二つ目は、入口から30m程のところにある木の根が複雑に絡み合ってできた樹洞で、天井の穴から入ったのか水が溜まっていた。
よく見れば、ここにも木の実が落ちたのか発芽し、奧から樹洞の入り口へといくつもの芽を伸ばしていた。
三つ目は、入り口から40mくらいのところにあり、成長する木の根に追いやられ固まったような瓦礫の塊に。
しかもここでも、どこから入ったのか瓦礫の内側から伸びるように芽が生えていた。
もしかしたら、看破系のスキルを持ってないプレイヤーへの配慮かと思ったが、周囲を見渡せば似たような景色が散見されたので、その可能性はなさそうだった。
むしろ、看破系スキルがなければ発見できない意地の悪い採取ポイントであるように見える。
まぁ、隠された採取ポイントだし、その通りなのだが……。
そう考えつつ、俺は速度を落とし、念話で全員に声をかける。
『全員聞いてくれ』
『どうした、リオン?』
『何かいましたか?』
『モンスターがいたのかい?』
『援護ならいつでも大丈夫なのです!』
『どうしたの~?』
『なーにー?』
『どうやらここの通路内では罠もなければ、モンスターもいないみたいだ』
『おっ! そうなのか?』
『それなら、もっと早く歩けそうですね』
『ですね、姉上』
『確かに……。リオンさんのこともありますし、時短できるところは時短が必須なのですよ!』
『そうなんだね』
『じゃ、はやくいこいこ!』
何もないところなら早く通過しようという意見が出始め、俺はそれに待ったをかける。
『いや、ただ何もないわけじゃなくて、隠された採取ポイントが3か所もあるんだよ』
『3か所!? 結構あるんだな……』
『ですが、罠もなくモンスターもいないのであれば、安全に採取できますね♪』
『なら、なおのこと早い方がいいだろうね。我が盟友は未だ試験中の身なのだから』
『なのです! それにここはさっきのところより暗くて、足元も凸凹してて不安定で、ちょっと落ち着かないのですよ……』
『だな。じゃ、異論がなければちょっと急ごうか』
『ああ!』
『ええ』
『そうしよう!』
『はいなのです!』
『はーい!』
『わかったー!』
そうして、緩めていた歩調を元のものより少し大きくし、やや足早に移動を開始して少しするとソレは起こった。
『あっ!』
『『『『つッ!?』』』』
『え?』
『なに!?』
俺はいつの間にか足元に転がっていた木の実の上に乗り、転倒しかけていた。
まずいッ!! と思うのもつかの間。
意識せずゆっくりと流れる天井を眺めながら、気を付けていたはずなのにっと後悔の念を心の中で独りごちる。
それと共に、俺は倒れた時の衝撃に備えるように両手で頭を守ろうと両腕を上げる途中で誰かに支えられた。
『っと! 大丈夫かい?』
『!? あぁ……。ありがとうディーノ。助かったよ』
後ろを見てみればアフロディーノがおり、俺の右の二の腕を掴み、背中に腕を回し、転倒するのを防いでくれていた。
更にその後ろには、ダグラスの驚いた顔と今にも駆け出しそうな姿勢、ミカエリスとセルピナの『あっ!』っという驚いた表情とシエルとネロの驚いてはいるものの状況がわかってないようなポカンとした姿が見えた。
俺は、ディーノにお礼をいい、安堵の息と共に、体制を立て直す。
『はぁー……。びっくりしたぁ』
『そりゃこっちの台詞だ』
『そうですよ。いきなりのことで動けませんでしたし』
『どういたしましてだ。我が盟友よ。これまでの恩に比べたら微々たるものだよ』
『リオンさんでも転ぶことがあるのですね。怪我とかはないのですか?』
『んとんと、リオンだいじょうぶ~?』
『え!? ころんだのー?』
『驚かせて悪いな。ごめん。でも本当に助かった、ありがとう。それと恩なんてそんな大したことしてないし、気にしないでくれ。あと、怪我……もないな』
俺は心配してくれた皆に謝り、再度助けてくれたアフロディーノに感謝を伝え、体の不調がないことも確認して報告した。
だが、そんな俺の言葉が気に入らなかったのか否定の声が伝わってくる。
『いーや! リオンは気にしなくてもオレが気にするっつーの!』
『流石に助けられっぱなしというわけにはいきませんよ。リオンさん』
『ああ! その通りだぞ、我が盟友よ! そんな恩知らずであると見くびられては困る!』
『ですです! 皆さんのいう通りなのです!』
『皆……』
俺が少し感動を覚えて言葉に詰まると、予想外の方向に話が飛んで行く。
『といってもまぁ、チャンスがあればになっちまうけどな。リオン、中々スキがないし……』
『ですね。もっと隙を見せてくれてもいいんですよ?』
『姉上……それはちょっと誤解を招く言い方ではありませんか?』
『恩を返すにはリオンさんが、優秀過ぎるのです……』
『いや、俺結構失敗とかするぞ? 生産とか戦闘とかでも。それに対応とかでも……』
『そうは見えないがな……』
『ええ。それならカバーの仕方が上手いのでしょうね。失敗に見えないくらいに』
『なるほど、挽回する力が強いのだなリオンは!』
『流石、しっ! ……じゃない。リオンさんなのです!』
『えぇーっと……』
そうやって俺が返答に困っていると、ダグラスが察してくれたのか少々強引に話を変えてくれる。
『……。んで、どうする? そのリオンがこけそうになるんだから、ここは安全をとってゆっくり行くか?』
『そうですねー……。それしかないように思えますね』
『確かに』
『それか面倒でも落ちてる木の実をどけるか、拾っちゃえば時間は掛かっても安全は確保できますが……余計遅くなりそうなのです』
『だな……』
そう返答しながらそれもありなのではないかと思い直す。
隠された採取ポイントがある以上、どうしても歩みは止まるのだし、その間にシエルにこの通路の真ん中辺りを転がっている木の実を拾うなり、両脇に避けてもらえれば歩きやすくなる。
問題は……木の実を拾っても入れる袋がないことなんだよな……。
んー……、シエルに俺以外のプレイヤーから渡されたアイテムがどう判断されるかわからないし、ここは慎重策としてまた布巾を袋のようにして使ってもらうことにしよう。
もしも入りきらなくなったら、俺の虚空庫に入れてもいいし、そのまま脇に避けておいてもらってもいいしな。
『いや、その案でいいんじゃないか?』
『ふぇ?』
『どういうことだ?』
『隠された採取ポイントがあるってさっき言ったよな? つまり、採取で足を止めてる間にシエルに木の実を拾うなり、移動の邪魔にならない程度に脇に避けてもらえばいいと思ってさ。まぁ、採取せずにこのまま進むってならそれでもいいけど……』
『いや、時短はした方がいいけど、採取しない手はないだろ……それも隠されたポイントならなおさらだ』
『なるほど。確かに合理的ですね』
『時間の有効活用というわけだな!』
『おぉ~なのです』
『きのみひろい? たのしそー! やるー!』
『あ、いいなぁ、シエルおねえちゃん。わたしもわたしも!』
中々大変だと思うが、シエルとネロはやる気に満ち溢れる意思を伝えてくる。
『シエルもネロもやる気みたいだしいいと思うんだけど。どうかな?』
『本人達がやる気なら、否やはないな。それでいくか!』
『ですね』
『だね』
『はいなのです!』
『きっのみ♪ きっのみ♪』
『いっぱいひろうぞー!』
『あ、シエル。拾いに行く前にこれを持って行ってくれ。こうやって持っていけば袋の代わりになるし、いっぱいになったら、俺のところに来るか、道の壁側に避けておいてくれるだけでもいいからな?』
そういって、俺は料理キットから布巾を取り出し、四隅を一つに握り締め、袋の形にして実演して、シエルに渡す。
『こう? っとと! ……こうか!』
シエルは渡した布巾を一度開いてから、また袋の形にしようとして失敗。
しかしすぐに、隅を三つしか握ってないことに気づき、四つ全てを握り締め、渡した時のように袋を作り出すことに成功する。
そして、完成した布巾の袋を高く掲げ、とても嬉しそうに笑顔を浮かべる。
『じゃ、いってくるね?』
『いってきまーす♪』
『ああ。いってらっしゃい』
そうしてシエルはネロを伴い、通路の木の実を拾いに行った。
シエルはネロも入れやすいようにか地面すれすれに布巾の袋を浮かせ、俺達がいる通路のすぐ前から念動力でいくつもの木の実を拾い上げ、袋の中に入れていく。
ネロは口に木の実を数個ずつ含み、袋に入れていってるようだった。
あの調子では、すぐに袋がいっぱいになりそうだな。
『じゃ、俺等も行くか』
『ええ』
『ああ』
『了解なのです!』
『だな』
そして、その間に俺達は隠された採取ポイントまで移動し、それぞれ採取と空いた時間に素早く鑑定をしていった。
素材アイテム 腐葉土:落ち葉が堆積して発酵した黒い土。土に混ぜることで通気性・保水性・保肥性を向上させる土壌改良材。土を柔らかくし、水はけと水持ちと植物の根張りを良くする。
素材・食材アイテム オークの団栗:オークの種子。植えることで成長し、成長環境によって3種類…カシ・ナラ・クヌギのオークへと変化する。適切な処理をすることで食べることも可能。
素材・食材アイテム 椎の団栗:椎の木の種子。植えることで椎の木が生える。炒ることで香ばしくなりうま味を増すが、生のままでも食べることが可能。
素材・消耗アイテム 虫の巣団栗:虫が巣くっている団栗。投げてしばらくすると動き出し、微かな音を立て相手の注意を引く……かもしれない。音に敏感な生物に対して簡単な囮になる。
素材・消耗アイテム 遺跡苔:遺跡内に生えている苔。遺跡内の空気清浄、消臭・抗菌、保水、断熱、金属吸着などの環境浄化作用を持つ。日光が当たり難いしっとりした場所ならどこでも増やせ、適切な処理を施すことで薬の材料になる。
特殊アイテム 迷宮鉱石塊:ダンジョンオレの塊。ダンジョン内で稀に見つかる、魔力を通すことで種類が変化する特性を持つ鉱石塊。どんな鉱石塊に変化するかは、産出場所と魔力を通した者の LUKの値による。
素材アイテム 妖血石(赤):妖精の魔力を長年浴び、変質した他生物の血液が固化したもの。精錬することでインゴット化することができる。他生物の血(赤)を浴びることで、耐久値を回復する特性を持つが、それ故、一部から呪われた赤石とも呼ばれている。
素材アイテム 蓄魔水晶:ストアクリスタルの結晶体。周囲の魔力を吸収し蓄積する特性を持つ水晶の結晶体。鑑賞品としての価値も高く、内包する魔力が最大に達すると虹色に光り輝くといわれている。
素材アイテム 赤鉄鉱:ヘマタイト鉱石。鏡のような金属光沢を持つ銀黒色の鉱石。粉末にすると赤くなることから、別名:赤血鉄ともいわれている。
ついでに、度々シエル達が嬉しそうに拾ってきた採取物で、まだわからないものも鑑定していく。
素材・食材アイテム 虫食いオークの団栗:虫に食われて穴が開いたオークの種子。植えても発芽する力が足りないが、虫食いされた場所を除去し、適切な処理をすることで食べることは可能。
素材・食材アイテム 虫食い椎の団栗:虫に食われて穴が開いた椎の種子。植えても発芽する力が足りないが、虫食いされた場所を除去し、適切な処理をすることで食べることは可能。
因みに、一つ目の隠された採取ポイントでは、腐葉土、オークの団栗、椎の団栗が出て、二つ目の隠された採取ポイントでは、虫の巣団栗、遺跡苔、迷宮鉱石塊が出、三つ目の隠された採取ポイントでは、妖血石(赤)、蓄魔水晶、赤鉄鉱がそれぞれ出た。
シエルとネロのおかげで比較的スムーズに進め、通路口の終点付近へとたどり着いた。
そこで俺はダグラス達に待つように告げて先行し、暗殺系アーツの【ハイディング】…姿を暗ます、【ハイドストーク】…足音を消す、【インビジブルハーミット】…認識を阻害するを使い、更に気配偵知で通路口の終点から先の気配を探っていく。
通路口の終点付近に気配はないが、その先にいくつかの動く気配があることを確認し、俺は通路口の終点からその先をのぞいて見た。
そこは縦に20m強、横に12~3m、高さ5~6m程の直方体の部屋だった。
通路口からはそれぞれ下りの階段が伸びており、2~3m下がった後、一見平坦に見える部屋の床が広がっていた。
部屋の中には、セラーズフロッグが4体とレッドキャップが3体、ブラッディバットが5体いたが、そんなことが気にならないくらいの赤がそこにはあった。
正確にいえば、天眼のスキルで罠…というか有害なものが赤く見えていたのだが、実に視界の8割を占める程の広大さだったのだ。
赤くなっていないところは、部屋を四分するように走っている幅2m程の床のみで、その十字の床は十の字の右端以外の通路口と繋がっていた。
十の字の右端には丁度複数の木が連なり、天井の穴へと伸びていた。
壁が木で隠れているようだったが、天眼のスキルに反応はないことから、何か隠されたものはないように思える。
因みに、ブラッディバットはその木の枝にぶら下がっていた。
これは……どうやって戦うべきか悩むな。
恐らくこの部屋の床の8割を占める赤い場所は罠だと思うが、その罠がなんであるかわからない。
大きさから推測するに、落とし穴か吊り天井、はたまた槍衾だろうか?
前のフロアに無作為転移の罠もあったけど、それが四つ……?
いや、流石にそれはない、……と思いたい。
これだけ広大な罠となれば、一度発動させてからの方が戦闘中に誤って踏み抜くこともなくて少し安心だが、どうやったら発動するかが問題だよな。
罠の真ん中に接触したら発動するのか、罠の範囲に一定以上の重さを感知して発動するのか、それともただ罠の範囲に入れば発動するのか……いや、モンスターが入ってても発動してないことから考えて、攻略者…プレイヤーかその契約者じゃないと発動しないとみるべきか。
どうするにしろ今は団体行動中だし、ひとまず報告するとしよう。
そうして俺は、今見たことをダグラス達はもちろん、シエルやネロにも伝わるように念話を使い、話していった。
『なるほど、デカ過ぎる罠か……ってことは、罠一つの範囲は……だいたい縦9の横6か?』
『ですね。ダグならいけるのではないですか?』
『確かに。いけると思います、姉上』
すると、対処に心当たりがあるのか、ダグラス、ミカエリス、アフロディーノから罠をどうにかする思念が伝わってくる。
『え?』
『どういうことだ?』
俺とセルピナはその根拠がわからず、疑問の声……思念を出す。
『いや、要は戦闘中に罠が発動することが気がかりなんだろ? なら、先に作動させて無効化しておけばいい話じゃないか。なんなら罠にモンスターを巻き込んだっていい』
『そうはいうけど、罠の作動の仕方とかわからないし、種類もわからないだろ?』
『それに、危険ではないのです?』
『それはそうですが、戦闘中に誤って作動させることに比べれば、多少マシだと思いますよ?』
『ええ。それに、罠の作動する方法など、特定範囲に接触か重さかくらいではないかな?』
『それは俺も考えた。でも、発動させてからはどうするんだ?』
『まぁ、今回の場合は跳ぼうと思ってる。リオンには見せたと思うが、この状況にぴったりのアーツがあるからな』
『もちろん、罠の種類によってはカバーや補助も必要だと思いますが、このメンバーならかなり万全にできると思いますよ?』
『ですね。麻痺や盲目、睡眠の状態異常も今であれば盟友の魔術で予防もできるし、姉上の魔法もあるので即死はしないのではないかな?』
なるほど、罠が単一の種類じゃない場合もあるのか。
大きさに気を取られ過ぎてたのか、その可能性を考えてなかった。
むしろ、罠を張るなら別の種類の方が効果的まである。
それに、あの連続で跳躍できるアーツがあれば、罠が作動して効果を発揮するまでに十字の通路へ退避することもできそうだ。
状態異常の罠であれば俺の魔術で、掛かっても効果を発揮しないようにできるし、それ以外の罠もミカさんだけじゃなく、俺、シエル、ネロもいるんだし、盾系魔法を使えばアーツを使う時間を稼いだり、ダメージを減らせたりもできるはずだ。
『つまり、死ななければ挽回可能ってことだな。まぁ、無作為転移の罠だったら運がなかったってことで、諦めもつく』
『それに、無作為転移の罠であっても即死ではありませんからね。後程合流もできるでしょう』
『後は、モンスターを倒す作戦を詰めればいいのではないかな?』
『なるほど、そういうことだったのですね。納得しましたのです』
『ああ。そう聞くとできそうな気がしてきたな』
『だろう? それじゃ作戦を練っていこうぜ』
そうして、俺達はこの部屋の攻略について相談し合っていった。
そして、作戦を練り終わると、全員で確認し合った後、行動を開始していく。
『いくのです!』
「(フラッシュアロー! スナイプショット!)」
パキャァン!
「「「「「「「「「「「「ツッ!?」」」」」」」」」」」」
セルピナは囁くような声量でアーツを使い、俺が作り出した矢型の槍を一瞬の溜めの後、部屋の中央付近の床へと射かける。
矢型の槍が着弾すると同時に、中程から弾けて砕け散り、大きな音を立て、青白い燐光となって消える。
バッ!
ギョロッ!
バサッ!
そして、その音に驚いたモンスター達の視線が青白い燐光へと集まる。
『ここです!』
「(フラッシュライト!)」
『リリース! フラッシュライト!』
「「「「「「「ツッ!?」」」」」」」
ボトボトボトボトボトッ!
モンスター達の視線が部屋の中央へと向くと、それを待っていたミカエリスとシエルによって多重の視認妨害魔法が放たれ、部屋の中心から眩い強烈な光が発せられる。
俺達は目が眩まないように手で覆い、手の影が一時的に濃くなり、目以外の場所は閃光により白く塗り潰され、そして元に戻る。
部屋の中を見てみれば、例外なく全てのモンスターに盲目のアイコンが付与され、ブラッディバットに至っては、閃光で驚いて落ちたのかぶら下がっていた木の根元に転がっていた。
よく見れば、気絶のバッドステータスアイコンもついている。
『いくぞ?』
「(ダブルマジック――テンポラリリペア!)」
『サンキュ! それじゃ、いくぞ!』
『ありがとう! ああ、作戦通りにな!』
俺は合図を念話で出してから、ダグラスとアフロディーノに対して魔術を使う。
すると、ダグラスとアフロディーノを覆うように、青白い球形の光が形成される。
形成された青白い光の球は、中心へ収縮するように渦を巻きながら急速に小さくなっていき、臍の辺りで銀色の飛沫を弾けさせて消える。
ダグラスとアフロディーノのHPバーを見てみれば、まだ状態変化になってないせいか、ただ青白い渦が付いたアイコンだけが付与されていた。
よかった、ちゃんと発動したみたいだ。
そう思ってるのも束の間、ダグラスはアイコンがついたことを確認後、パーティチャットで俺に礼を告げ、行動開始の号令と共にすぐ様、通路から助走をつけるように走り出す。
通路口から伸びる階段を無視するように飛び出し、向かって左下の罠の中心部付近へと着地する。
すると、赤い部分が縦に割れ始める。
どうやらここは落とし穴の罠のようだ。
「ホップ!」
「「!?」」
ダグラスは落とし穴に落ちないよう着地からすぐ様2m程の十字の床に跳躍する。
それと並行するように床の傾斜はどんどん急になり、ダグラスのアーツに押されてか勢いよく開き、罠の上にいたモンスターを落とし穴に落とす。
モンスターは何が起きたのか理解できてない様子で固まったまま床に叩き付けられ、そのまま光の粒子へと変わっていった。
因みに、モンスターはセラーズフロッグとレッドキャップが1体ずつだった。
「コンパクトスイング!」
「ギッ!」
更にダグラスは足早に移動し、安全な通路上にいたレッドキャップを小さく振った偃月刀で落とし穴へと弾き飛ばして光の粒子を追加する。
そして、そのまま幅跳びの要領で向かって左上の罠へと飛び込む。
すると今度は左側と奧の壁から無数の槍が突き出されてくる。
どうやら今度は、槍衾の罠のようだ。
「パワースラスト! バックフリップ! ステップ!」
「グェッ!?」
「ゲグッ!?」
ダグラスはその場で強引にアーツで床を突き、その反動で高さを確保する。
更に、全身のバネを使って後ろへの距離ではなく高さを重視するように、体全体を後方に回転させる後方宙返りを行い、セラーズフロッグごと刺し貫いてくる数多の槍を回避する。
壁から生えてきた槍は、上下に重なるように突き出され、セラーズフロッグ達を有無を言わさず光の粒子へと変えていった。
そしてダグラスは、格子状に連なる槍の柄に着地し、すぐ隣の通路へとアーツを使って移動する。
因みに、今回の罠で巻き込めたのはセラーズフロッグが2体だ。
ダグラスはアーツを使った移動の勢いを助走に使い、極短い走り幅跳びのようにして、向かって右奥の罠へと跳んでいく。
すると今度は天井付近から『ガコンッ!』っと何かが外れる音がし、複数の鎖が擦れるような『ジャララララララッ!!』という音色を響かせ、所々穴の開いている天井が落ちて来るところだった。
どうやら今度の罠は、吊り天井なのだろう。
「ジャンプ!」
「ギィッ? ゲェバァ!?」
「「「ツッ!! キギャッ!?」」」
ダグラスは四度目の跳躍アーツを使い、安全圏である十字の通路へと非難する。
それと同時に落ちてきた天井に圧し潰され、向かって右上の罠上に元々いたレッドキャップと木から落下して転がったブラッディバットが赤いシミとなり果て、次いで光の粒子になって消えていった。
因みに、吊り天井で仕留められたのは、レッドキャップ1体とブラッディバットが3体だ。
「アサルトスイング! ホップ!」
「キキャッ!」
「キキーッ!」
ダグラスは十字の通路に着地後、通路でのびていたブラッディバットにアーツで近づき、そのまま掬い上げるように偃月刀を振るい、向かって右下の罠へと殴り飛ばす。
更に再度、リキャストタイムが終了したと思しきアーツを使い、自らも罠の範囲内に跳び込んでいく。
ブシューーーーー!!!
「くっ!? これは……麻痺か!」
「グゲゲゲゲッ……!?」
「キャキャキャキャキャキャッ……!?」
「キキキ゚キ゚キ゚キ゚キ゚キ゚ッ……!?」
すると、今度は向かって右下の罠のある範囲を囲み込むようにして、黄色いガスが噴出する。
ダグラスのHPバーを見てみれば、先程にはなかった雷のような絵柄が、青白い渦が付いたアイコンの中心に見えている。
巻き込まれたモンスター達のHPバーを見れば、同様に雷のような絵柄が付いたアイコンとアイコンの右下に30という数字があり、その数字が時間経過と共に刻々と減少していっている。
ダグラスといえば、状況把握のために足を止めてしまったためか、連続して使用したアーツの技後硬直で動けずにいる。
『ディーノ!』
『ああ、任せたまえ!』
「カバームーブ! アサルトスラッシュ!」
「グガァ!?」
「ハードスラッシュ! パワースラッシュ! クレセントスラッシュ!」
「グゲ、ガァ、ゴォッ!!」
ダグラスは事前に決めていた通り、パーティチャットでアフロディーノに合図を送り、それに応えるようにアーツでダグラスのすぐ傍まで瞬時に移動する。
もちろん未だ麻痺ガスが噴出したままだが、俺の魔術で状態変化は一時的に無効化されているため動くのに支障はない。
更に少し離れているセラーズフロッグに移動と斬撃を同時に行えるアーツを使い、ダメージを与える。
そしてそのまま立ち止まり、光の粒子に変わるまでアーツを連続で叩き込んでいく。
そうして、断末魔を上げながらモンスターが光の粒子に変わるとアーツの技後硬直で動けなくなり、パーティチャットで声がかかる。
『盟友よ、後は手筈通りに』
『わかった。ネロ!』
『はーい! リリース! シャドーバイト!』
「キキッ!?」
「キキュッ!?」
俺は話し合った作戦通りネロに合図を送り、残ったモンスターに対して拘束の魔法を使わせる。
ネロのシャドーバイトは2つ出現し、顔のない鰐のような顎で麻痺で動けず転がっていたブラッディバットの体を咥えて持ち上げ、拘束を強化する。
そして、俺は試し撃ちも兼ねて、新たな魔術を捕らわれているブラッディバットの頭に向けて放つ。
「ダブルマジック――ボーテックス!」
ぐりん! パキキッ!
「キキ゚ッ!?」
「キ゚ー?」
俺の放った魔術は狙い違わず当たり、骨を捻じ切る音と共にブラッディバットの頭を横回転で一周させる。
ブラッディバットは驚きとよくわかってないような声を響かせ、光の粒子へと変わっていった。
予想はしてたけど、実際に見ると少し惨いな……。
いやでもこういう魔術だから仕方ない……よな。
指定した場所を捻るんだから必然的にこういう使い方になるよ……うん。
そうやって、部屋の全てのモンスターを倒し切ると、労うようにパーティチャットで声がかかる。
『全員、お疲れ様。はぁ~……疲れたけど、いい緊張感だったな!』
『ええ、お疲れさまでした。それに、見事な連携でしたね』
『お疲れ様。うまく作戦が嵌まったみたいでよかったよな!』
『お疲れ様なのです! ダグラスさんもかなり動ける方だったのですね! びっくりしたのです!』
『お疲れ様。そうだな。見てるこっちもひやひやしたよ。でも、無事でなによりだよ』
『おつかれさまー! ダグラスすごかったねー!』
『おつかれさま! うん、うん! とんだりはねたりして、リオンみたいだった!』
どうやらネロには、俺はああいう風に見えているらしい。
まぁ、街の混雑を嫌って屋根の上を移動してるから、あながち間違ってはいないか……。
『ははっ! ありがとな。それじゃ……リオン、念のためブラッディバットがぶら下がってた木の後ろの確認を頼めるか?』
『え? でもあそこに反応はなかったぞ?』
『だけど、前のフロアの木箱やタルがあった部屋みたく、猫の壁画が隠れていてもスキルに反応はなかったんだよな? なら、万が一があるとも限らないだろ?』
『あぁ! なるほど。そういえば、そうだったな。わかった。んー……じゃ、物理的に木を切り倒してみるよ。木箱やタルみたく動かせないしな』
『あぁっと、そうなる……のか。あー……すまん。そこまで考えてなかった』
『いいって、いいって。切り倒すくらいそんな手間でもないしさ』
そうして俺達は部屋の中心部で合流し、俺は十字の床の右端にある木が生えてる場所に行き、念のため【ライオットバーサーク】…STR・INT3倍、VIT・MID1/3倍を使い、木を全て伐採していった。
しかし案の定、切り倒し終えて壁が剥き出しになってもそこには何もなかった。
因みに、伐採した木は何かに使えると思い、一応回収しておいた。
素材アイテム 伐採されたオーク樫:根本から切り倒されただけのオーク樫。皮も枝葉もついたままで、水分も豊富。硬い木質であるため、適切な処理を施すことで様々な用途に使える。
『何もなかったな』
『そうか……まぁ、何もないってわかったことが収穫だな』
『そうですね』
『確かに』
『確認は大事なのです』
『だな。じゃ、次はどっちに行こうか?』
俺はそう念話で尋ねながら、右手を正面の通路口に、左手を左側の通路口へ向けた。
『正面か、左かだが……行先は先頭のリオンが決めてくれていいぞ?』
『ですね。私達はあなたに付いて行きます』
『僕も賛成だ。盟友リオン、僕達の行く末は君に託したい!』
『私も賛成なのです!』
『えっ……まぁ、皆がいいならいいけど。じゃぁ……正面から行こうか?』
『わかった』
『わかりました』
『了解だ』
『わかりましたなのです!』
『はーい!』
『わかったー!』
そうして、俺達は正面に見える通路口へと移動していった。
通路口からは、またモンスターも罠もなかったが、少々曲がりくねった蛇行道が続き、しばらく行くと、新しい部屋に辿り着いた。
その部屋は、所々瓦礫や何かの破片が散乱しており、縦5~6m、横10m強、奥行き15m程の直方体をしていた。
また、中には通路口とを繋ぐ幅3m程の廊下が部屋を縦断するように中央にあり、最奥にまで続いている。
最奥には王座のように上にいくにつれ、段が小さくなる敷石が3段あり、玉座の代わりに一見すると宝箱に見える石材が鎮座している。
廊下の両側には等間隔で猫の姿をかたどった石像があり、香箱座りや招き姿、ヘソ天やごめん寝等があるが、いくつか破砕されその全貌がわからなくなっているものもある。
物によっては、レッドキャップがやったのか、脳天に錆の浮いた斧や尻の穴にナイフが突き刺さっているものあるようだ。
酷いな……流石は妖精か?
そう思いつつ、気配偵知を使って中にモンスターがいないかの確認や天眼で最奥の宝箱を見てみる。
するとモンスターの気配もなく、最奥の宝箱も赤く光り、罠であることがわかる。
部屋中も天眼で眺めて見るが、特に反応を示すものは何もなかった。
隠された採取ポイントもなし。
猫の石像も……何も反応がないし、ギミックもなしか?
こりゃハズレ部屋かな……あっ!
そう考えいたが、以前ミカさんが教えてくれたことを思い出す。
そういえばミカさんが、無機物系モンスターが全く動かずに潜んでいても、事前に何かいると知ることができるっていってたっけ。
ギミックも罠もない……意味のない猫の石像なんて怪し過ぎるし、念には念を入れておくに越したことはないよな。
そうして、俺は念話でわかったことを報せていく。
『モンスターの気配はないな。採取ポイントも隠されたのもないし、ギミックもないな。宝箱みたいなのがあるけど、そっちも罠みたいだ』
『そうか、罠かぁ』
『ハズレ部屋、ということでしょうね』
『ないない尽くしか……』
『残念なのです』
『それとミカさん』
『はい、なんでしょう?』
『俺じゃわからないので、部屋の中を見てもらえますか? あぁ、もちろん万が一ということもありますし、部屋には入らずに、ですが』
『部屋に入らず、部屋の中を見る……あぁ、わかりました。そういうことですね? 了解しました』
ミカエリスは最初の俺の言葉の意味がわからない様子だったが、意味がわかると了承の意を示してくれる。
そして、部屋の入口まで来て、中をじっと見つめていく。
すると、何かを見つけたのか、一瞬『ハッ!』とした表情を浮かべ、見えたものを説明してくれる。
『あー……これは、いますね。たぶんこの流れ……ゴーレム系だと思います。それと、識別は使わないでくださいね? 潜んでいることがバレたと判断したら、襲って来るかもしれませんので』
『ゴーレム……だと?』
『姉上、確かですか?』
『ゴーレム? ……もしかして、あの猫の石像なのですか?』
『やっぱりか……』
『ええ、確かよ。ピナちゃん、正解よ。ゴーレムの流れも見たことあるし、間違いないわ』
『じゃぁ、本当にただのハズレ部屋だな。ただモンスターと戦うだけなら、別に今じゃなくていいだろ』
『ですね。時間に余裕がある時で十分でしょう』
『確かに。ゴーレム系はコンセプト次第で厄介極まれるので、ここは回避することにしましょう!』
『じゃ、戻って探索を続けようか』
『ああ』
『ええ』
『そうしようとも!』
『はいなのです!』
『はーい! もどるもどる~♪』
『わかったー! まわれみぎ!』
そうして俺達は元来た道を戻り、再び十字の床だけが安全地帯の部屋に戻って来た。
そして、戻って来た通路から見て右側、最初に入って来た通路口から見て左側の通路へと入っていった。
道中のモンスターを倒しながら先に進んでいくと、しばらく行った先で壁にぶつかり、左右に行ける二股の道があった。
右側の道には、5~6m行ったところで下りの階段があり、その先はどうなっているかはわからない。
左側の道には、10m程進むと突き当りがあり、更に右へ続く曲がり角がある。
『さて、どっちにいく? リオン』
『んー……そうだな。じゃ、右で!』
『勘……ですか?』
『その通り。勘です』
突き当りから右に行き、階段を数m降りていくと、小さな踊り場を経て、更に右に下る階段があった。
そして、その階段を進んで行くと、同じようにまた小さな踊り場があり、再び右に下る階段があった。
しかし、その先には階段は続かず、代わりにという訳ではないが、壁に何か文字が書かれていた。
『行き止まりか?』
『いえ、よく見てください。前のフロアでピナちゃんとシエルちゃんが閉じ込められてた部屋の扉と似たようなことが彫られてますよ?』
『え? 本当ですね。よく見てますね、姉上』
『こんな感じだったのですね。私が出る時は扉が埋まって見えなかったので、新鮮なのです!』
『ああ、ミカさんのいう通りだと思う。たぶん、ギミック扉の類じゃないか?』
『なるほどな。それじゃ、解いてみるとするか』
『ええ!』
『ああ!』
『はいなのです!』
『わかった』
そうして俺達は壁を注視して、彫れている文言を読んでいく。
扉には、こう彫られてあった。
[猫は獲物を捕る時、最初にどこを狙う? 該当する壁画のプレートを収めよ、さすれば扉は開かれん]
俺達が壁の文言を読み終える頃、ふいに壁に彫られている文言のすぐ下に『スーーー』っと綺麗な線が並ぶようにして二か所入り、次いで前のフロアで入手した壁画のプレートを収めるのに丁度良い二つの凹みが現れた。
『また、猫の問題か……ってか、前のフロアからプレート持って来といてよかったな。危うく二度手間になるところだった!』
『ですね。壁画といい、問題といい、この丘陵地帯には猫に纏わる何かがあって、それが影響しているのでしょうか?』
『なるほど。そういうことでしたか。合点がいきました』
『それだけじゃないのです! さっき見たハズレ部屋にも猫の石像がありましたし、フィールドにもカースドキャットというモンスターがいるのですよ!』
『へぇー……フィールドにもいるんだ?』
『それで、窪みが二つ出てきたってことは、答えのプレートは二つあるってことだよな』
『そうですね。そうだと思いますよ?』
『獲物を捕る時とあるし、普通に考えて猫が何かを取ってる壁画のプレートだろう』
『ですね。SSを確認してみればわかりやすいと思うのです! それと、リオンさんがプレートを持っているのですよね? プレートを出しておいてもらえませんでしょうか?』
『ああ、わかった』
俺はセルピナの願いに応え、虚空庫から前のフロアで収集した猫の壁画のプレートを次々と出していった。
そして俺達はSSを確認後軽く相談し、このギミック扉の答えに該当すると思われる壁画のプレートを壁の窪みへとセットしていく。
因みに、答えは頭だと思われる。
何かを捕って食べている壁画はその二つしかなかったが、鳥は猫の襲う後ろ姿しか描かれておらず、肝心の最初に襲う場所が見えなかった。
もう一つの魚の方は、頭に齧りついていたことから、それが答えだと思ったのだ。
本来、持ち運ぶ時や獲物の狩る時なんかは、硬い頭蓋骨で覆われた頭より、比較的柔らかく太い血管の通っている首が答えだと思う。
だが、今回の場合は該当するプレートを嵌め込めばいいので、壁画の描写の曖昧さに妥協した形になる。
特殊アイテム タイトルプレート③:鳥を捕って食べる猫の壁画のタイトルプレート。特定の場所に嵌め込めばナニカが起こる……かもしれない。
注意:このアイテムはダンジョン外に持ち出すと、自然消滅します。
特殊アイテム タイトルプレート⑤:魚を捕って食べる猫の壁画のタイトルプレート。特定の場所に嵌め込めばナニカが起こる……かもしれない。
注意:このアイテムはダンジョン外に持ち出すと、自然消滅します。
俺がタイトルプレートを壁に嵌め込んでいくと、壁が下へスライドし、『ズココココココ……』っと、まるで石材の上で小岩を引き摺ってるような音を響かせながら、床の中へと入っていく。
そして、壁が全て床に収納されると、『……ゴドンッ!』っと、硬く重い物が石畳の上に乱暴に置いたような音を出し、静止する。
するとそこには、人が4人も入れれば上等なくらいの極めて小さい部屋への入り口が姿を現した。
天井には崩落の後があったが、その大部分は木の根に塞がれ、小型の生物は入り込めないが、光はある程度入ってきており、部屋の中を薄く照らし出していた。
中には小さな祭壇に石材型の宝箱が安置されている。
安置されている石材を天眼で見てみれば、中には緑色を発する何かがあることが窺える。
『『「「「「おぉーーー!!」」」」』』
『……うん、宝箱だな。じゃ、開けるぞ』
『ああ、よろしく頼む!』
『お願いします!』
『やはり、こういうのが1番わくわくするな』
『何が出るか楽しみなのです!』
『たのしみー!』
『なにが、でるかな? なにが、でるかな?』
俺は、念話で断りを入れ、皆の期待のこもった思念を背に、LUK上昇の魔法を使ってから宝箱を開ける。
宝箱の中には、人の頭程の大きさの革袋が入っていた。
持ち上げてみるとずっしりと重く、内容物同士がぶつかり合ってジャラジャラという音を立てた。
革袋を開いてみると、そこには特徴的な一条の光の筋を称えた、7色のカボションカットの宝石があった。
素材アイテム 赤色猫目石:赤色のキャッツアイ宝石。変彩効果により一本の光の筋が見える現象を呈する赤色の宝石の一種。ドーム型のカボションカットに仕上げられ、美しい仕上がりを見せている。適切な処理を施し、装飾品に加工することで、活力を増強させ、決断力・行動力向上の効果を発揮する。
素材アイテム 褐色猫目石:褐色のキャッツアイ宝石。変彩効果により一本の光の筋が見える現象を呈する褐色の宝石の一種。ドーム型のカボションカットに仕上げられ、美しい仕上がりを見せている。適切な処理を施し、装飾品に加工することで、富を引き寄せ、実行力・行動力向上の効果を発揮する。
素材アイテム 緑色猫目石:緑色のキャッツアイ宝石。変彩効果により一本の光の筋が見える現象を呈する緑色の宝石の一種。ドーム型のカボションカットに仕上げられ、美しい仕上がりを見せている。適切な処理を施し、装飾品に加工することで、精神を安定させ、忍耐力・楽天性向上の効果を発揮する。
素材アイテム 青色猫目石:青色のキャッツアイ宝石。変彩効果により一本の光の筋が見える現象を呈する青色の宝石の一種。ドーム型のカボションカットに仕上げられ、美しい仕上がりを見せている。適切な処理を施し、装飾品に加工することで、精神を安定させ、治癒力・洞察力向上の効果を発揮する。
素材アイテム 紫色猫目石:紫色のキャッツアイ宝石。変彩効果により一本の光の筋が見える現象を呈する紫色の宝石の一種。ドーム型のカボションカットに仕上げられ、美しい仕上がりを見せている。適切な処理を施し、装飾品に加工することで、悪酔いから守り、直感力・創造性向上の効果を発揮する。
素材アイテム 金色猫目石:金色のキャッツアイ宝石。変彩効果により一本の光の筋が見える現象を呈する金色の宝石の一種。ドーム型のカボションカットに仕上げられ、美しい仕上がりを見せている。適切な処理を施し、装飾品に加工することで、魔や厄を退け、精神力・慈愛性向上の効果を発揮する。
素材アイテム 白色猫目石:白色のキャッツアイ宝石。変彩効果により一本の光の筋が見える現象を呈する白色の宝石の一種。ドーム型のカボションカットに仕上げられ、美しい仕上がりを見せている。適切な処理を施し、装飾品に加工することで、幸運を呼び込み、浄化力・純粋性向上の効果を発揮する。
『リオン、どうだ?』
『ああ、数が多いけど、中々におもしろそうなものが出たよ。確認してみてくれ』
俺はそう念話で伝え、革袋から七種の猫目石を出し、掌に乗せて差し出す。
『どれどれ……』
『綺麗ですねー……』
『鉱石……? いや、宝石かい?』
『これは、キャッツアイ……でしょうか?』
『おー! きれー!』
『ななしゅるいもあるんだねー!』
そしてダグラス達は各々の感想と共に、鑑定を行っていく。
「さて、それじゃ鑑定も全員済んだだろうから、分配をする……んだが、リオン」
「なんだ?」
「とりあえず何がどれだけあるか、数えてくれ。試験に影響する可能性があるから、手伝えないのは心苦しいが」
「ああ、そうだったな。了解だ」
そうして、俺はそのまま数えようとしたが、インベントリに入れれば散らばらず安全に数えられると思いつき、一旦全ての猫目石を空きがたくさんある虚空庫へ入れていった。
すると、白を除く6種…赤色、褐色、緑色、青色、紫色、金色がそれぞれ7個あり、白色は8個で、合計50個の猫目石があることがわかった。
そして、一人につき7種を1個ずつ分配した後、残り15個をジャンケンで勝った順に気になった種類の石を1つずつ、合計3個もらうことになった。
この時、一人が同じ種類の石をもらうと公平性に欠けることから、なるべく別種の石を1つずつ取っていくことになった。
また、前のフロアでミカエリスは宝箱の内容を2つ所持していたことから、最後に残った3個をもらうと主張した。
因みに、俺は2番目となり、緑・金・白の猫目石と猫目石が入っていた皮袋ももらった。
「じゃ、戻るか」
「ええ」
「ああ」
「はいなのです!」
「わかった」
『はーい』
『こうりゃくさいかい、だね!』
全員に石が行き渡ると、ダグラスが攻略を再開する言葉を発し、全員了承の意を示していった。
そして来た道を戻り、先程の分かれ道の左側…現在の方向からだと正面の通路の先へと向かって行く。
分かれ道まで戻り、更に直進すること10m程で突き当りがあり、右へ続く曲がり角を曲がる。
その先には、10数mくらいの緩い傾斜の廊下があり、その突き当りには左に折れる曲がり角があった。
油断無く気配偵知を使いながら行けば、進路上にモンスター達の気配がちらほらと感じられた。
俺はそのことを伝えながら先行し、時に急襲し、時に出鼻をくじいてから先制攻撃を仕掛け、モンスターを排除していった。
もちろん罠を見つけたら、エクリプスライトで照らし、念話で注意を促すことも忘れない。
そうやって順調に攻略していき、左に折れる曲がり角を曲がると、また二十数mの直進があり、その先には突き当りがあり、右に進める曲がり角もあった。
そして右に進める曲がり角から数mのところで、新たな部屋への入り口が目に映り込んだ。
その部屋は縦横高さが15~6m程で、このダンジョンで最も大きい立方体をしていた。
天井にはいくつかの崩落した箇所があり、このフロアの部屋にしては珍しく光量が十分にあり、明かりなしでも問題なく見渡せる程の明度が保たれている。
床には崩落した瓦礫があちこち無秩序に転がっており、場所によっては積み重なっているものもあり、簡単な障害になり得るものもある。
周囲に目を向けてみれば、天井の穴から入って成長したのか、周囲の壁に沿うように十数本の木がまばらに生えている。
木々は天井の穴からの光を浴びるように葉を茂らせ、部屋の中間半分程の上空を覆うように枝葉を伸ばしている。
そして、正面の最奥に人が優に入ることができる大きさの樹洞がある大木が生えていた。
大木の幹は樹洞があっても尚しっかりとしていて、葉が生えた枝は天井を支えるように広がっている。
幹の太さはおよそ7~8mと壁の一面の半分を占めており、その巨大さが目に見えてよくわかる。
目を凝らして樹洞の中を見てみれば、天眼の望遠能力でズームされ、カタコンベでも見たような、しかしマス目が多くなっている4×4のマス目とその下に1つのマス目がついた合計17マスのタイルを動かすギミックが、樹洞の先を遮るように存在していた。
ギミックの絵柄はタイルがぐちゃぐちゃに混ぜられており、元がどういう完成系かわからないようになっている。
辛うじてタイルの一つに、眠っていると思しき猫の顔がついていることから、またもや猫に関する絵柄であると推測できた。
部屋の中にはモンスターはおらず、また罠もなかったため、念話でそのことを伝え、更にミカエリスにも見てもらったが何もなかった。
俺達はそのまま部屋へと入り、件のギミックタイルの前まで足を運んだ。
「どうやらここは安全みたいだな」
「ですね。それにしては広い部屋ですが……」
「確かに。もしかしたら、このギミックを解くことにより何か……モンスターが出たりとかするのではないでしょうか?」
「ありえそうなのです!」
「今までの傾向から考えると、新しい通路への入り口とかの方がありそうだけど……でも戦闘もありそうだよな。ないならこんなに広い必要ないし。それでどうする?」
「そうだな……この後戦闘になるかはわからないが、たぶん歩いてきた感じ終盤に近いよな?」
「そうですね。もうすぐボス部屋とかではないでしょうか?」
「なるほど。なら、その前に少し休憩を挟んだ方がいいでしょうね」
「ですね。そろそろインベントリもいっぱいになってきましたし、その案に賛成なのです! それとリオンさんにまた矢……じゃなかった。矢型の槍を作ってもらいたいのです。そろそろなくなりそうなのです」
セルピナの矢筒に目を向けると、確かに残り後数本になっている矢型の槍があった。
「そうだな。わかった。今作るか?」
「えとえと……それなら休憩の後でお願いしますなのです!」
「そうか。わかった」
「よさそうだな。それじゃ適度に離れて、休憩するか」
「ええ」
「了解だ!」
「はいなのです!」
「ああ」
その後、俺達はある程度離れ、しかしお互いを視認できる範囲で休憩をとっていくことにした。
ミカエリスとセルピナはギミックタイルを挟んだ大木の両側にそれぞれ座り、ダグラスとアフロディーノは、ミカエリスやセルピナから5m程離れた壁に背をつけ、互いに向き合うように座り、俺はダグラスとアフロディーノ両者の間から5m程手前の場所に、入って来た入口を背にする形で瓦礫を椅子代わりにして座った。
シエルとネロには、入って来た通路口の見張りをお願いしておいた。
そうして、俺はまずはステータスの確認をしていこうとして、ステータス画面を開き、目を前に向けると、何か違和感を感じた。
……なんだ?
俺はすぐに気配偵知を使い……そしてソレを見つける。
ソレは、休憩し始めステータス画面を操作しているセルピナの真上2m位のところにあった。
何時の間にそんなものがあったのかわからないが、端的にいえばソレは浅黒い色をした長い腕だった。
その腕は、ゆっくりと音もなく伸びてきているにもかかわらず、未だ肘すら見えてこない光景に、俺は言いようのない不気味さを感じた。
爪は黒く尖り、まるで金属のような光沢があり、それに微かな光を反射している。
恐らくその光の反射が、違和感に気づけた正体だったのだろう。
セルピナは未だ……いや、俺以外はまだこのことに気がついていないようだった。
俺はすぐさまステータス画面を消し、抜剣しながら立ち上がり、念話で全員に思念を伝えた。
『敵だ! セルピナはディーノのところへ!』
『えぅッ!? て、敵!? どこに?』
『敵襲!?』
『ツッ! ミカさんは俺の方へ!』
『ちょ、ちょっと待ってくれ!』
『てきー!?』
『どこー!?』
俺の警告を皮切りに、全員から驚きの思念が発せられる。
ダグラスは、すぐにステータス画面を消し、偃月刀を構えながら、ミカエリスにパーティチャットで声をかける。
ミカエリスも少しわたわたしながらも、どうにかステータス画面を消し、ダグラスの方へ駆け始める。
アフロディーノはスキルの付け替えでもしていたのか、未だにステータス画面に指を這わせ、何かの操作をしている。
セルピナは俺の思念に驚き、ステータス画面を消さずに突然立ち上がり、茫然と辺りを見渡した。
そのせいで、敵の腕のすぐ側まで近づいてしまっている。
浅黒い腕はこれ幸いにとセルピナへと手を伸ばす。
まっずい!!
俺はその様子を見てすぐにアーツを使い、戦闘を仕掛ける。
「ドッジムーブ!」
「えっ!? えッ?」
セルピナとの彼我の距離が一瞬でゼロになり、目の前に浅黒い腕がこちらに手を向けているのを目にする。
「伏せろ!」
「ッはい!」
セルピナはまだ状況がわかってないような声を上げていたが、俺が一喝するように警告すると、すぐさましゃがんで浅黒い腕から逃れる。
それを横目にアーツを使って、浅黒い腕を切りつける。
「ステルスレイザー!」
「ギャァァァアアアッ!?」
ドサッ!
瞬間、コマ落ちしたかのように、右手に下げて握っていたエキスパートソードは左上に振り抜いた形で移動していた。
そして少し遅れて浅黒い右腕から、赤色のエフェクトが迸る。
その数瞬後、盛大な悲鳴と共に木の上部から伸ばされていた浅黒い腕が急速に引っ込み、次いで何か大きな物体が落ちてきた。
その物体は人型をしており、青い顔をした老婆であった。
耳はエルフのように長く尖り、口からは白い牙を生やしている。
頭髪は薄汚れた白色をしており、ボサボサと伸び放題で腰辺りまで伸びている。
服装は簡素ではあるが、丈夫そうな茶褐色の貫頭衣を着、腰の辺りを黒い紐のようなもので縛っている。
そして、今しがた俺がつけた傷口を止血するためか、左手で右腕を抑えていた。
俺は油断なく老婆の動向に目を向けながら、念話でセルピナに話しかける。
『セルピナ、ディーノのところへ、早く!』
『わ、わかりましたのです!』
すると、ようやく状況がわかったのか、セルピナはステータス画面を消し、アフロディーノの方へ走り出した。
それと同時に、それは起こった。
「ガァァァアアアアアッ!!」
ガサガサガサガサッ!
バサバサバキバキバキッ!
ドスドサドサッ!!!
老婆が雄叫びを上げると、周囲に生えていた木の葉や枝が盛大に擦れる音を響かせ、次の瞬間上からレッドキャップ達が降って来たのだった。
その間、老婆は懐から何かを手に取り、斬りつけた傷口に塗って、完全に止血を施す。
そして、俺に黒い爪を揃えて突き出し、それを合図にレッドキャップ達も呼応するかのように、ダグラス達に襲い掛かっていった。
俺は天眼の能力で攻撃予測線が赤い線として見え、突き出された爪を避けながら、識別を使って見た。
ブラックアニス:Lv38・属性:闇・耐性:影・闇・地・弱点:火・光
【モンスター辞典】
『ブラックアニス』
イングランドのレスターシャにあるディン丘陵地帯の洞窟に棲んでいる、邪悪な妖精。
青い顔をし、血走ったギョロリとした目の醜い老婆の姿をしている。
耳はエルフのように長く、また耳まで裂けた大きな口には、長く白い牙が生えている。
腕は遠くまで伸ばせ、黒い鉄の爪を持ち、棲んでいる洞窟は自分で掘るのだという。
一説には片目であるともいわれている。
木の上に隠れ、側を通る子供を捕まえて食べる、人喰い老婆。
洞窟の周りにはこれまで食べて来た哀れな犠牲者や動物の骨が転がっており、彼女の爪を磨ぐ音は遥か彼方まで響き、これが聞こえた時は子供を家に入れて扉を閉ざし、決して窓に近付けないようにしたという。




