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唯ちゃん、
と呼ぶその声がずっと頭から離れない
「さ、さ、…
……先輩。また明日」
私は、名前を呼べなかった。
唯ちゃん、唯ちゃん。ずっと先輩の声がする。にやにやが止まらない。
自室で、ぬいぐるみを抱えながら悶える唯
「さ、くら、先輩。
さくら、さん。
さくら…」
耳が熱い。ドキドキする。心臓の音がうるさい。
名前を呼んでもらえると、どんどん欲がでてくる。
髪を触りたい。手も組めたらいいのに。
足の蝶にも…触れたい。
唯はそっと、ぬいぐるみにキスをした。
先輩は、こんな私だと思っていないんだろうな
そうしたいと思うだけで実行する勇気は私には、ない。
そっと私だけの気持ちにしたらいいんだ。
先輩に嫌われずに、ずっと側にいられたらいい。
あの笑顔は、名前を呼ぶあの声は、私のものだ。




