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第8話 ぴより、エリアルの信頼を得る

 エリアルはノアさんを許した。

 そして、本物の仲間との合流は明日にして、その日はウィンドの家に泊る事になった。


 あたしはその場所を知っていた。

 ゲームでのウィンドの家と同じだった。


 エルドーラ下層居住区らしい汚れた、アパートの小さな部屋。

 水道はあるけど、お風呂はなしで、トイレは共用だ。


「おれは外で見張りをしてるからな」


 家の鍵を開けると、ウィンドは壁に寄りかかった。


「ソファしかないので、そこで寝てくれ。

 毛布はある」


 そのまま目を閉じた。


「あなたの家でしょう。

 外で待たせる訳にはいきません」


 さらわれそうになったのを助けてもらっておいて、外に出すなんてなんだか居心地が悪い。

 エリアルもそう思ったのだろう。

 しかし、


「そういう訳にはいかない」


 頑として首を縦に振らないウィンド。


「あなたを信頼しています。

 あなたも休んで下さい」


「これはあんたを護衛する都合でもある。

 従ってくれ」


 一切身動きする事なく、また目を閉じた。

 その後は、いくら話しかけても反応がない。

 仕方なく、エリアルは部屋の中に入ったのだった。


 物のない、殺風景な部屋。

 中央にくすんだ茶色のソファと毛布がある。

 これらも確か拾い物。

 ゲームでは、体力全快に回復できたけど、ここでゆったりとくつろげる気はしないなあ。

 でも、エリアルは何も言わず、そそくさとソファに横たわり、毛布をかぶった。


(ねえ、ぴより?)


 横になってすぐエリアルは、心の中で話しかけてきた。


(こうなってくると、あんたを信じるしかないようね)


 今日あたしは、ノアさんの裏切りを言い当てた。

 ゲームと同じ展開だったので、言い当てる事ができたのだ。


(セリフの一つ一つまで合ってたんじゃ、信じるしかない)


 あたしはこれから起こる事を、ゲームの物語として知っている。

 その事を信じてもらえたみたい。


(そういう約束だったからね)


 悪霊と言われたり、不信感を抱かれてたりしてたので、大きな前進だよね。


(しかし、あんたの言う通りになるって事は、わたしは殺されるって事ね)


 そうなのだ。

 信じてもらえたのは嬉しいけど、それでハッピーエンドじゃない。

 むしろ、バッドエンドを共有した形。

 エリアルは単身、儀式の祭壇に行き、祈りの最中に殺害される。


(そう。エリアルは、この星を滅ぼそうとする天空の民、ゲイルに殺されるの)


 本人に伝えるのは辛いし、あたしもトラウマを思い出してしまう。

 世界を救うために頑張っていた、健気な少女の理不尽な死は本当にキツい。


 今でも忘れない。

 凛としていて、可憐な、礼儀正しい、上品なあのエリアル……。


(全くクソ野郎ね。そのゲイルって奴は)


 ん-、下品だなあ、エリアル。


(あのさ、エリアル)


(何よ、ぴより?)


(あたしの知ってるエリアルってお嬢様って言うか、聖女って言うか、もっと礼儀正しい話し方だったんだけど)


 そもそも、さっきの会話では礼儀正しかったのに。


(それは間違ってない。

 わたしはそういうキャラ。)


 キャラ?!


(心の中で演技してもしょうがないでしょ)


(それはそうだけど)


 健気で、礼儀正しい、ヒロイン、と言うのは演技だった。

 内面は思ったよりラフな人物だったみたい。


(わたしはそのゲイルとか言うクソ野郎に殺される訳にはいかない。

 この星の危機も絶対に救う。いいわね、ぴより?)


 それでも、その物言いには、芯の強さと正義感みたいなものを感じる。

 やっぱりエリアルはエリアルなんだと思った。


(でも、未来を変える事ってできるのかな?)


(変わるでしょ)


 エリアルはあっさりと言った。


(なんで? ホントに!?)


 未来に何が起こるか知っているのに、変えようとしても思うように変えられない。

 タイムリープもののアニメや映画のお約束だ。


(あんたねえ)


 しかし、エリアルの口調は、そんな当たり前の事を聞くな、と言わんばかりだった。


(すでにウィンドに変だと思われてるでしょうよ)


(う……)


 そう言えば、様子がおかしかったって……。

 オーラがなくって、あと、頼りなかったって。


(とっくにぴよりは、わたしの印象を変えちゃってる)


 そっか。

 あたしは無意識の内に、すでにゲームと違う行動をしちゃってる。


(ぴよりの行動はこの世界に影響を与えている)


(じゃあ、あたしが頑張ればワンチャン、未来は変えられる?)


(断言はできないけど、そのワンチャンはあるんじゃない)


(そっか!)


 わたしだって、死にたくない。

 それにワンチャン、ウィンドとラブラブになりたい。


(なんかあたし、やる気出てきた!)


(そう。それじゃあ確認したいんだけど)


(うん! 何でも聞いて!)


 いよいよ本格的に作戦会議が始まる。

 ヒロイン殺害の悲劇を回避するための、心の中の作戦会議が。


(儀式の最中に襲われるって事は、儀式を執り行わなきゃいけないくらい、状況は悪化するって事?)


 そう、状況は悪化する。

 強力なモンスターが出現するようになる。

 ゲーム中盤で、遭遇するモンスターがパワーアップする。


 この世界のモンスターは、北極や南極で氷漬けになっている「原種細胞」から現れる。

 その正体は、何十万年も前に宇宙からこの星に飛来した、宇宙生物だ。

 ホープインダストリーによる、エルドーラの工業化は魔法エネルギーを熱として、大気に放出してしまう。

 それによって、北極と南極の氷が解け、原種細胞が活性化してしまった。


 環境汚染もさることながら、温暖化の影響がいよいよ、中盤で最悪の状態になってしまうのだ。


(ゲームの中のエリアルは、「もう時間がありません」って言ってた)


 どうしても儀式を行わなければならない必要に迫られ、エリアルは単身儀式の祭壇に向かう。

 そして、その儀式を阻止しようとするラスボスに殺害される。

 そういう展開が待っている。


 世界中の天候を正常に戻す、始まりの民の儀式。

 強力ではあるが、生態系を捻じ曲げる、最後の手段とされている。

 だからその前に何とかしたくて、エリアルは各地で演説をしているのだ。


(結局は温暖化を止められないって事ね)


 かつては始りの民の神子が説法を行えば、皆その言葉に従ったという。


 しかし、今回のホープインダストリーの工業化に関しては、話が違った。

 工業化のもたらす便利な暮らしを人々は変えたくないのだ。


(わたしの演説には誰も聞く耳を持たないって事ね……)


 悲しそうな落胆した言い方だった。

 そりゃあショックだと思う。

 正しい事を言っているのに、理解を得られず、状況は悪化していくなんて。


(で、でもね、あなたに共感して力を貸してくれる人だっているから、落ち込まないで)


 そう。仲間はちゃんといる。


(大丈夫。気にしてない。

 そんな事は織り込み済みで活動してる)


 エリアルの返事は意外とあっさりしていた。

 こんなやり切れない状況なのに。


(わたしが殺されるまでに、何日余裕があって、何ができるのかを知りたいだけ)


 うーん。エリアル、メンタル強いなあ。

 あたしの中の可憐なヒロインのイメージとはだいぶ違う。


(日数で言われると、はっきり言えないんだけどさ)


 ゲームの中では日数の経過の概念はない。

 宿屋や、この部屋のソファで一晩明かしても、日付は変わらない。

 と、言うか日付を確認する事すらできない。


(今はまだ、ゲームで言うと最初の方かな。

 時間的な余裕はかなりあると思う)


 ファンタジックコスモスは長編RPG。

 殺害されるのが中盤と言っても、そこまでのボリュームも相当だ。

 できる事は結構あるはずだ。


(ワンチャン、あたし達で未来を変えちゃおう)


(そうね。自分も、この星も守ってみせる)


 分かってる運命ならば、変えてしまえばいい。

 その方法を見つけ出せばいい。


 こうしてあたしとエリアルの、悲劇を回避するための戦いは始まったんだ。

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