第5話 信頼を得るには?
エリアルとの対話の最中だったけど、疲労と眠気がマックスだったので、眠る事にしたあたし。
でも、ボロい旅館の空調はイマイチで、暑くて寝苦しかった。
枕も違うし、よく眠れない。
早起きしてしまったあたしは、洗面所へ向かった。
洗面台の鏡で、自分の姿をまじまじと見つめる。
鼻筋の通った、高貴な顔立ち。
小さな宝石が無数に散りばめられたティアラ。
神秘的なエメラルド色の瞳。
薄い緑色の髪はサラサラで、腰まで伸びている。
ビリジアン色の袖の羽織物。
その下には白いローブ。
すらりと背が高く、スレンダーで、まるでモデルのよう。
これでわたしと同じ17歳だなんて。
寝ぐせを直さずに登校して、よく友達に指摘されていた、あたしとは大違い。
美麗CGを誇るファンタジックコスモスだけど、このリアル感には敵わない。
感動のあまり、広げた両手を前にかざし、魔法発動のポーズ。
ゲームではエリアルは回復魔法をメインで使わせてたなあ。
「ダッダッダ♪ ダダダダダダダ♪ ダッダッーダー♪」
思わずゲームのBGMを口ずさんでしまう。
(何、やってんの。あんた?)
「わわっ!」
(起きてたんだ)
(今、起きた)
もしかしたら目が覚めるタイミングが一緒なのかな。
(何、変なうなり声上げてんの?)
(ゲームそのままのエリアルがかっこよくって、つい)
慌てて手をおろすわたし。
(ゲーム、ね)
一応、ゲームの概念は説明したけど、理解しにくいと思う。
(じゃあ、朝食の前に話の続きをしましょう)
(おけまるー)
(わたし達の世界が物語だなんて、なかなか信じられないわね)
その気持ちは分かる。
あたし自身が、ゲームと同じ世界が現実にある事が、いまだに信じられない。
(あんたはこことは別の世界で死んだ魂。
生まれ変わって、わたしの中にいる。
で、これから起こる事を、そのゲームとかいうもので、物語として知っている。
だったわね?)
ゆうべ、頑張って説明した内容だ。
しかし、大事なのはこの後。
(で、近い内にわたしが死ぬんだって?)
そう、問題はそれだ。
ゲームの通りに物語が進むと、エリアルはゲーム中盤で唐突に殺される。
それは理不尽で悲劇的な、トラウマイベントだ。
しかし、もはやかわいそうなんて言ってる場合じゃない。
そのエリアルの中にあたしはいるのだから。
ワンチャン、この運命を変えたい。
何もしないで黙って死ぬなんて、絶対に嫌だ。
(わたしだって、大事な活動をしているの。
この星の運命のかかった事だわ)
それは知っている。
魔力エネルギーの工業利用による廃熱が、急速な温暖化を招いている。
さらに温暖化はモンスターの活動範囲にも影響を与え、人里がモンスターに襲われたりしている。
それなのに、ホープインダストリーのエネルギー利用には、今のところ何のガイドラインも存在しない。
公害がヤバいレベルなのは、すでに身をもって体験している。
(不確かな情報に従って、わたし達の活動を止めたりはできない)
簡単に信じられないのは分かるんだけどね。
でも、同じ身体なんだし、なんとか信頼されたい。
うーん、どうしよう?
と、思っていたらノックの音が聞こえてきた。
「エリアル、迎えが来たぞ」
ウィンドだった。
相変わらずのイケメンで、目の保養になる。
(思ったより早かったわね)
始まりの民の人が迎えに現れたのだった。
宿を引き払うあたし達。
外に出てみると、やっぱり空気が悪くて臭かった。
これでも、早朝は工場が稼働してないだけマシなのだ。
「エリアル様、ご無事で何よりです」
エリアルと同じ、薄緑色の髪にエメラルド色の瞳。
この街に住む始まりの民のノアさんだ。
縦にも横にも大きい、がっちりした大柄のおじさんだ。
わたし達はノアさんと共に外へ。
他の仲間達と合流するのだ。
「じゃあおれは帰るからな」
ウィンドとはここでお別れ。
この近くにウィンドの住んでいるアパートがある。
ゲームだと、データを保存できるセーブポイントのある、拠点となる場所だ。
ちなみにゲームなら、宿屋にもセーブポイントがあったはずだが、泊まっていた宿にそんなものはなかった。
この世界では、死んだらやり直し、なんて訳にはいかないみたい。
「さあ、こちらです」
ノアさんと共に、狭い路地に。
壁はすすで汚れ放題で、壁際には木箱や、機械部品が散乱している。
そんなエルドラ下層居住区らしい雰囲気の、スラム感満点の路地を案内されるわたし達。
(じゃあさ、あたしの言った通りになったら信じてくれる?)
歩きながら、あたしはエリアルに一つの提案をしてみた。
(これから起こる事が分かるって言うの?)
(うん、分かるよ)
(あんたが未来を知っていると確信できたら、それはもう信じるしかない)
これが信じてもらうには一番手っ取り早いよね。
この薄汚れた、細い路地もゲームのまま。
間違いない。
あたしは今、ファンタジックコスモスの物語を追体験している。
これから起こる事を、あたしはすでに知っている。
その情報を教えればいい。
(ノアさんは裏切るよ)
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