第4話 ぴよりとエリアル、対話する
ロールプレイングゲーム、「ファンタジックコスモス」の世界に転生したあたし。
しかし、転生した相手は今後ラスボスに殺されてしまう、悲劇のヒロインだった。
(ちょっとぴより、状況を説明しなさいよ)
しかも、そのヒロイン、エリアルの魂も一緒にいる状態で。
(顔色悪いし、なんか変よ。
そもそもあんたは何? 悪霊の類?)
あ、悪霊?!
まあ死んだのは本当なんだけど、人聞きが悪いなあ。
でも、今はそれどころじゃない。
「そんな事より、こ、このままだとエリアル!
あなたはゲイルに殺されちゃうんだよ!」
(は? ゲイルって誰よ?)
そうか。
この時点ではエリアルとゲイルは接点がない。
知らないのは当然だ。
「ゲイルはホープインダストリーの実験で生まれた天空の民で、原種細胞を吸収して進化するの」
(天空の民…………)
「宇宙から来た、星を滅ぼす事が目的の、とにかくやっばい奴なんだって!」
(あんた)
その瞬間、空気が凍った。
(なんでそんな事、知ってるの?)
声のトーンが下がった。
(あんたは一体何者?)
冷たい言い方だった。
ヒートアップしていたのが、一気にクールダウンした感じ。
ここまでも友好的とは言い難かったが、今は警戒感MAXの声だ。
ホープインダストリーの、原種細胞実験。
そして、この星の情報を十分に収集した原種細胞から生まれた、知的生命体、天空の民。
この時点ではまだ、エリアルの知り得ない情報だ。
うかつに話し過ぎたのかも。
あたしは警戒されてしまった。
「え、えっとね……」
ここは誠意を見せるしかない。
ちゃんと説明すれば分かってもらえるはずだ。
「この世界は、あたしがプレーしてた、ゲームの世界と同じで。
あっ、ゲームってのは、物語を自分で体験できる、的な奴の事で。
で、ゲームの物語通りだと、エリアルは殺されちゃうんだって!」
(全然分かんないけど)
全然分かってもらえなかった。
自分のコミュ障と頭の悪さが恨めしい。
これでは信用を得るなど、夢のまた夢。
「うう……、上手く言えない」
何だか涙まで出てきちゃう。
(ふう……)
心の中で、エリアルのため息が聞こえた。
(ちゃんと聞いてあげるから、落ち着いてじっくり話しなさい)
それはさっきとは違う、優しい口調だった。
「信じてくれる?」
(まあ悪霊じゃないでしょ)
少しは打ち解けたのかな。
誠意だけは伝わったのかも!
(なんか天然っぽいし)
あ、そう。
(わたしが殺されるなんて、聞き捨てならない話、聞くしかない)
どうにかこうにか、あたしは、エリアルの魂に状況を説明する機会を得た。
まずはあたしが、元は日本の女子高生で、交通事故で死んだ事。
もちろん、エリアルは日本の事なんて知らない。
でも、違う世界で生きていた魂、みたいな感じで説明した。
ちなみにこの世界、車はある。
ゲーム中では交通事故なんて単語は出て来ないけど、ちゃんと意味が通じた。
車があれば、事故だってあるって事かな。
(とにかく、ぴよりの意思で、わたしに憑り付いた訳じゃないのね)
「うん。何でこうなったのかは分からない。悪気はないよ」
と、ここでノックの音が。
「エリアル、騒がしいけど、何かあったのか?」
長い説明が、ウィンドに怪しまれてしまった。
「何でもない。何でもないですう!」
やっぱりあこがれのウィンド様の声はドキドキしちゃう。
顔を真っ赤にして取り繕う。
ドア越しで顔を合わせていないのが救いだ。
「そうか。早く休め」
さすがにウィンドが部屋に入って来る事はなかった。
(ところであんた、考えを口に出さないといけない訳?)
「え……?」
どうなんだろう。
他人と会話してるので、口に出してしまっていたが、そう言えば心の中の事だし。
鏡を見ながら、ぎゅっと口を結ぶ。
そして、
(心の中でしゃべる。 心の中でしゃべる。
どう? ワンチャン、できてる?)
心の中でエリアルに話しかける。
(そうね。できてる)
「やったっ! いえーい!」
達成感でつい叫んでしまう。
「エリアル、ホントに大丈夫か?」
ついにウィンドが部屋に入って来る。
(しまった!)
「だ、大丈夫! おけまるー!」
ピースをして、明るく返事をするわたし。
「本当に早く休んだ方がいいぞ」
ウィンドは心配そうに言ってから、出て行った。
(やっぱあんたって、天然よね)
うう……、カッコ悪い。
とにかくあたしはエリアルに状況を説明する事ができた。
(信じるかどうか、一晩考えさせて)
突拍子もない話なのは確かだし、簡単に信じられないのは仕方ないよね。
(もっと詳しい話、する?)
(いえ、あんたは寝なさい)
(いいの?)
あたしとしては、早く納得してもらって、信頼を得たい。でも、
(よだれ、垂れてる)
「はっ!」
慌てて服の袖で涎をぬぐう。
鏡の前には半開きの目の、首の傾いた、絵にならない感じの、らしくないエリアルが。
そう言えば、眠いなあ。
今日はホントにいろんな事あったし。
(また明日、ゆっくり聞かせて)
あたしは言葉に甘えて眠りに就いたのだった。
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