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第33話 平和になった世界で

 ゲイルとの戦いの後、エルドーラの復興計画が始った。

 人は開発による環境破壊の弊害を知った。

 しかし、工業化による便利さを手放す事はできない。


 エルドーラの人々は、始まりの民の知恵を乞うようになった。


 バーンズとジェラルドもホープ社に復帰して、エルドーラの人々と始まりの民のパイプ役になっている。

 バーンズの娘ヴィエラは喘息を患っていて、今はエルドーラに住ませる事はできない。

 しかし、いずれは家族みんなでエルドーラで暮らしたい考えだ。


 ウィンドも復興に協力してくれている。

「ゲイルとの決着より、仲間が大事だ」と言う彼は、もう孤独な傭兵ではない。


 こうなってくると、エリアルも大忙し。

 一方あたしは、段々主導権を持つ機会が減ってきた。


 もうゲームの知識が必要な機会はないので、当然の事。

 寂しいと言えば寂しいけど、悲劇を回避したエリアルが、幸せに生きている様を見るのは楽しい。

 ワンチャン、ずっとお役御免でもあたしは構わない。


 そんなある日、あたし達は飛行船でパンライにやって来た。

 バーンズが家族に会う事が主な目的だ。


「やっぱりここは空気がいいな」


「そうね、でもエルドーラも以前よりはよくなってるでしょ」


「まあな」


 飛行船を降りたウィンドとエリアル。

 確かにエルドーラの空気はかなりよくなってきた。

 上層居住区の壊滅がきっかけなのは皮肉だけどね。


「みんなおかえりー!」


 ナタリーの声が聞えて来た。

 彼女はパンライに戻っていた。

 飛行船の到着が見えて、やって来たのだろう。

 相変わらず元気そうな声。


 ところが、その姿を見たあたし達は目を見張った。


「ナ、ナタリー、その恰好は?!」


 ナタリーの服装はいつものラフなスタイルではなかった。


 ブラウンのブレザーの下に白いYシャツ。

 胸元にはえんじ色のリボン。

 スカートは膝上の丈で、赤字に黒と白のラインの入った、チェック柄。


「びっくりした?

 聖コスモス学園の制服だよー」


「な、何、それ?」


 きょとんとする、エリアルとウィンド。


(聖コスモス学園!!)


 しかし、あたしはその名前を知っていた。

 港湾都市マーリタスの外れにある学び舎で、世界中のエリートが集まる名門学園。


 ただし、ゲーム、「ファンタジックコスモス」にはそんな施設は存在しない。

 聖コスモス学園は、ファンタジックコスモスのスピンオフ作品の舞台となる場所だ。


 そして、そのゲームこそ、恋愛シミュレーションゲーム、「(ファンタジック)! コスモス学園」なのだ!


「この前、エリアルとマーリタスに行った時に案内見つけてさ。

 応募したの」


 ナタリーが鼻血を出して、気を失ったあの時か。


「この制服めっちゃかわいくない?」


 クルリと回転すると、チェックのスカートがふわりとなびく。

 確かにかわいい。


(ナタリーはこういうの似合うよねー)


 と、あたしはエリアルに話しかけた。

 しかし、


「わたしも着てみたい……」


(え……?)


 意外なエリアルの一言が。


「今からわたしも入学できますか?」


(ええー--っ!

 エリアル、何言ってんのー?)


「いいと思う。一緒に行こ!

 エリアルも絶対制服似合うって!」


 ナタリーもおおはしゃぎで、案内を見せてきた。


「そう言う事ならおれも行く。

 二人の護衛だ」


 ウィンドも案内をのぞきこむ。

 彼に関しては、実は必然性がある。

 (ファンタジック)コスモス学園は主人公を数人の男女から選ぶ。

 ウィンドもその一人なのだ。


 それよりエリアルの入学は想定外。

 何しろ(ファンタジック)! コスモス学園はファンタジックコスモスの後日譚。

 エリアルはすでに亡くなっている。

 登場する訳がない。


(エリアル。

 あたしはファンタジックコスモス学園はプレーしてないし、あんまり詳しくないよ。

 何が起こるか分からないし、心配だなあ)


 あたしが展開を言い当てて、サポートする事はできない。

 でも、


(ぴより)


 それは改まった口調だった。


(世界は新しい道を歩み出した。

 わたしも新しい生き方を見つけたいの)


 そう言われちゃうと断れない。

 17歳まで、始まりの民の神子として、星を守るために頑張ってきたエリアル。

 今まで、自分の役割とか務めとかを優先して生きて来た。

 でも、彼女だって自分の生き方を選んでいいはずだ。


 日程や資格には問題なかったみたい。

 かくしてエリアルとナタリーとウィンドは、聖コスモス学園に入学する事になったのだった。

 お読みいただき、ありがとうございました!

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