第3話 あたしがエリアルで、エリアルはエリアルで
「エリアル……だ」
目の前にいたのは「ファンタジックコスモス」のヒロイン、エリアルの顔だった。
エリアルの事ばかり考えていたせいで、夢の中でエリアルになってしまったようだ。
「はあ、やっぱりエリアルはきれいだなあ」
思わずため息がもれてしまう。
高貴な整った顔立ちを、右を向いたり、左を向いたりして堪能する。
緑の瞳とか、緑の髪とか、奇抜だけどゲームだしね。
さて、リアルウィンド様にも会えたし、なかなか面白い夢だった。
そろそろ起きよう。寝坊しちゃうし。
……………
……………
困った。起き方が分からない。
リアル過ぎる夢も考え物だ。
昼間の臭いや煙たさはすごかったし、今も汗ばんで、暑苦しい。
そろそろ本当に目を覚ましたい。
学校に遅れちゃう。あれ……?
でも、あたしは登校中に車にはねられて……、
(ちょっとあんた!)
また頭の中から声がした気がした。
(あんたよ! 聞こえてるんでしょ?)
まただ。
「静かにして。今考え中なの~!」
(考え中じゃない!
人の身体を勝手に動かして、どういうつもり!?)
「人の身体って……、あなたは誰?」
そうだ。あたしはこの声に何度も話しかけられてる。
頭の中から聞こえる謎の声に。
(あたしはエリアル。そういうあんたこそ誰?)
「エリアル!? 神子のエリアル?」
(見ての通りでしょ。
鏡をよく見なさいよ。目の前にあるんだから)
あたしの心の中に、エリアルを名乗る声が。
そして、鏡にはゲームの中のエリアルそっくりの少女の姿が。
あれ、エリアルの心で、エリアルの見た目なら、それは間違いなくエリアルだ。
じゃあ、じゃあ、あたしは誰?。
これはまさか、考え方が逆なんじゃ……。
あたしの中にエリアルがいるのではない。
エリアルの中にあたしがいるのでは?
(で、あんたは誰って聞いてるんだけど)
「あたしは…………」
あたしは、その声に答えて、本名とニックネームを教えた。
答えながら、頭がどうにかなりそうで、めまいがしていた。
洗面台に両手でつかまると、薄緑色の長い髪が垂れてきた。
(ふうん、ぴよりって呼ばれてたのね。
で、ぴよりは何であたしに憑りついているの?)
「と、憑りついている訳じゃあ……」
と、言ってみたものの、他人の身体に魂だけ入っているこの状態。
憑りついていると言うのが、最も正確なのかも知れない。
やはり、現実の世界で、あたしは死んだのでは?
死んでゲームの世界に転生した。
しかも、転生した人物の魂と、同居してしまっている。
そんな事があり得るのか、と思う。
ゲームの世界に転生って……。
でも、この状況はそう考えるしかない。
さすがにもう夢とは思えない。
あたしはロールプレイング、「ファンタジックコスモス」の世界に転生してしまったのだ。
さらに、
「エ、エリアルは、始まりの民?」
(そうよ)
「このエルドーラで公害の危険について、演説してるけど、聞いてもらえなかった人?」
(まあそうね)
「そんでもって、命を狙われて逃げていたら、剣士ウィンドに助けられた人?」
(よく知ってるじゃない。
その時は、憑り付かれる前だったと思うけど)
そう、よく知っているのだ。
なぜならそれは、最近クリアしたゲームの中で起こった事だから。
エリアルのピンチに颯爽と現れる傭兵の剣士、ウィンド。
それは「ファンタジックコスモス」の冒頭のシーンだ。
つまりあたしは「ファンタジックコスモス」の、冒頭シーンの直後に転生した事になる。
ゲームのヒロインに生まれ変わるなんて、なんてロマンチック!
と、言いたいところだが、すぐにあたしはある事に気が付いた。
(ぴより?
何、怖い顔して、固まってんの?)
鏡の前の美少女は青ざめていた。
そして、それは間違いなく、あたしの精神状態を映し込んでいる。
実際、血の気の引く思いだった。
なぜなら、ゲームの物語通りの事が起こるとするならば、あたしはこの先、殺害される運命にある。
「ワ……、ワンチャン、あたしがエリアルって事は……」
あたしは、ゲーム中盤で殺されてしまう悲劇のヒロインに転生してしまった!
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