第28話 エルドーラ防衛戦
港町マーリタスでナタリーがくれたひよこバッジは、ドラゴンアッパーのヒットした相手を「ピヨらせる」スーパーアイテムだった。
これでラスボス「ゲイル・亡式」を撃破できる見込みが出てきた。
さあ、ラストダンジョンに突入だ!
と、言いたい所だけど、そうはいかない。
「大変だ!
エルドーラにモンスターの大群が迫っているらしい」
飛行船に戻ったあたしとナタリーを待っていたジェラルドは、すでに発進準備を済ませていた。
エルドーラ防衛イベントは「ファンタジックコスモス」でも発生するイベントだ。
温暖化の影響で、人里近くまで原種細胞の生息域が広がってしまった。
そのせいで、モンスターがエルドーラに迫っている。
パーティを二つに分けて、北部と南部から迫るモンスターを迎撃するイベントだ。
ゲイルのラスボス化の影響で物語が変わって、エルドーラもすでに壊滅している。
イベントが起こるか分からない思ってたんだけど、ちゃんと起こった。
この頃になると、ホープインダストリーもゲイルと敵対している。
この防衛戦もホープインダストリーと連携して戦う。
かつてエリアルを誘拐しようとしたノアさんとも、魔法ロボで共闘する事になる。
ゲームでは、市民兵、エルドーラ兵、プレイヤー部隊の三つの部隊を操作しながらモンスター軍団のエルドーラへの侵入を防ぐミニゲームになっていた。
モンスター部隊にも強弱の差があるので、弱い敵に弱い味方をぶつけ、強敵はウィンド達のいるプレイヤー部隊で相手をするのが、攻略の鍵だ。
「モンスターは北と南から迫ってる。
部隊を二つに分けて戦うぞ」
エルドーラに着陸すると、バーンズがすでに部隊の指揮をしていた。
そう。プレイヤー部隊も二つに分け、南北両面の敵を迎え撃つ。
戦況がリアルタイムで変化する中、6つの部隊を操作するミニゲームだった。
ゲームでは生き残った味方部隊の数によってご褒美アイテムがもらえた気がする。
「おれとナタリーとヘニャニャンが北に行く。
バーンズとジェラルドとエリアルは南に行ってくれ。」
これもゲームの通り。
エリアルは街の南側へ。
「おれとジェラルドの重火器で化け物を蹴散らす。
強力なギガンテスを優先して狙う。
神子様、後方支援は頼む」
「任せて下さい」
敵の部隊も三種類いて、強さがはっきり別れている。
ギガンテス、オーガ、ゴブリンの三種類なのだが、ファンタジックコスモスはSF的世界観の作品。
一般的なファンタジーRPGの同名モンスターとは別物。
これらの名前はコードネームに過ぎない。
ゴブリンも鋭い爪を持った人型モンスターで、そこそこ強敵だ。
オーガはさらに背は高い鬼だが、割と細身で、剣を操る。
ギガンテスは人間の数倍の大きさの巨人だ。
市民部隊はゴブリンとの交戦も危険が伴う。
ゲームで完全攻略を狙うなら、戦闘は一度もさせず、プレイヤー部隊で守らなければならない。
ここでもそのように立ち回りたい。
いざとなったらあたしも闘神流武術で敵と戦う。
やっぱり犠牲者は出したくない。
と、思っていたが、
「食らいやがれ!」
バーンズのレーザーランチャーは思いのほか強力で敵を近づかせずに撃破していた。
ギガンテスであっても当たれば無事ではすまない。
そして、オーガやゴブリンがレーザーをかいくぐって来ても、
「ここは一匹も通さねえ」
ジェラルドが二丁拳銃を抜く。
そしてその早撃ちが、全方位から襲って来る敵に逃さず命中する。
「出た! ヘッジホッグショット!」
まるでハリネズミのような弾道を描くジェラルドの大技。
ゲームでも、複数の敵を攻撃できる便利でかっこいい技だった。
おじさんコンビの大活躍で、エリアルはサポートに徹する事ができた。
しかしながら戦いの終盤、一足飛びにこちらを狙う敵が現れた。
ギガンテスにバーンズとジェラルドが掛かりっきりになった状況で、あたしを狙ってきたのだ。
それは刀を振りかぶったオーガだった。
ひとっ飛びにあたしに斬りかかって来る大きな姿。
それは恐怖の体験なんだけど、その瞬間のあたしは何故か落ち着いていた。
上から迫る脅威に対し、身体が勝手に動いた。
(エリアル、いくよ!)
絶好のチャンスとすら感じていた。
冷静にしっかり地面を踏みしめ、跳躍しながら空に向かって拳を繰り出す。
刃物を持った相手にもひるむ事はなかった。
なぜなら、竜王の闘気を纏い、竜王になって繰り出すあたしの拳、それは……
「ドラゴンアッパー!」
刀を折り、そのまま、オーガの顎をに命中。
相手を吹っ飛ばした。
まさに無敵対空だが、あたしが注目したのはその後だった。
強力なタフネスを誇るオーガには、これでとどめとはならない。
実際、オーガはすぐに立ち上がった。
ところがその後、すぐに目を回し始めた。
上半身もぐるぐると回っている。
打撃技のダメージの影響としては、不自然な挙動だった。
「間違いない! ピヨリ状態だよ!」
(それってあんたが言ってたひよこバッジの?)
「ナンバー1ファイト」のレアアイテムであるひよこバッジの効果。
ドラゴンアッパーを当てた相手を気絶させる。
それがこの世界でも効果がある事が確認できた。
「北側もはうまく押し返したぞ」
「エリアルもみんなも大丈夫?」
「へニャン!」
北側三名の元気な姿。
首尾よくモンスター軍団を撃破できたみたい。
二日目はこちらから攻勢をかける形になるはず。
「どうやらモンスターの集結している拠点のようなものがあるらしい。
それを叩かないとこの戦いは終わらないだろうな」
「そうだな。エルドーラの人々も安心できやしねえ」
「じゃあ明日はこっちからしかけましょう」
ほらね。
(どうにかなりそうね)
「うん……」
(どうしたの? 元気ないじゃない?)
(そ、そんな事ないよ。
喉が渇いちゃった)
街に戻る前に水の入ったボトルを手に取ったら、地面に落としてしまった。
「うっかりしちゃった」
ボトルを拾い上げて、栓を開けようと思ったら、また落としてしまう。
「おっと、しまった!」
またボトルを拾った。
と、思ったら今度は拾った瞬間に、ボトルがあさっての方向に飛んで行ってしまった。
(ちょっと! ぴより、絶対おかしいって!)
(そ、そうかな? いつもの事だよ)
(そんな訳ないでしょ。絶対に普通じゃない。
……これから起こる事のせい?)
エリアルに何かおかしいと思われてしまった。
(そうかな)
(予定通りに物語は進んでいるんでしょ?)
(まあ、そうだね)
ゲイルがラスボス形態になって、エルドーラ壊滅が早まった事は予定外だが、モンスター襲撃はゲームと同じ。
そして、それが二日間に渡るのもゲームの通りだ。
(だったら何が問題なの?
何が起こるって言うの?)
(順調に推移してるのが問題って言うか、ね)
うまい答え方が分からなくて、こんな返事になってしまう。
(気にくわない言い方ね。
一体何だって……)
そこでエリアルの言葉が止まった。
そして、
(星の危機が迫っている……)
つぶやく声が聞こえる。
このモンスター襲撃一日目の夜、ゲームでも急にエリアル視点に切り替わり、同じセリフを聞く事になる。
やっぱりこうなった。
必ず全てがゲームと同じになるとは限らない。
だからこのイベントもワンチャン違いがあるかも、と淡い期待をしていた。
けど、それは甘かったみたい。
(今、儀式を行わないと取返しの付かないことになる)
エリアルが星の危機を察知した。
みんながエルドーラ防衛で、手の離せないこのタイミングで。
ゲームの通りだ。
ファンタジックコスモスの物語の折り返し地点。
中盤の殺害イベントに繋がるエリアル失踪。
運命の時がついにやって来てしまった。
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