第26話 ラスボス、ゲイルの過去を知る
「そうだ! 研究所に行こう!」
無敵対空ドラゴンアッパーを習得したあたし。
他にも何かできる事はないか、考えた結果だった。
(上層居住区が崩壊したって事は研究所に行けるはず!)
(研究所?)
(ゲイルの生まれた地下研究所だよ)
エルドーラ崩壊のイベントが早まったため、本来はゲーム終盤でいけるようになる、エルドラ上層の廃墟に行けるようになった。
そして、そこにはホープインダストリーの地下研究所がある。
(ワンチャン、ゲイルの思わぬ弱点が分かるかも)
ここでは、ゲイルのデータも閲覧できる。
ゲームをプレーしてた当時は、エリアルの死がショック過ぎてちゃんと見てなかったんだよね。
アイテムだけゲットしてさっさと先に進んでいた。
今度はしっかり念入りにチェックしないと。
あたし達は地面に落下したエルドーラ上層居住区へ。
向かうのは白を基調にした清潔なビル群、が崩壊した廃墟の街。
かつては栄華を誇った上層居住区だが、今とは無惨な姿を晒している。
たどり着いた研究所も倒壊していて、柱は転がっていて、崩れた壁の石の欠片がそこら中に散らばっていた。
「崩れて生き埋めにでもなったら、しゃれにならないぜ」
ウィンドやバーンズ達ががれきの除去をしてくれた。
わたしやナタリーも、岩をも砕く岩砕拳で協力。
ほどなく地下へのルートが確保された。
そして、いよいよ資料室へ。
もう打ち捨てられた廃墟だから記録も閲覧し放題。
地下には紙の資料が残されていた。
アナログとデジタルの混在した世界観は、ゲームの通りだ。
ゲイルに関する資料も予定通り見つかった。
ゲームのプレー中はまるっきり頭に入って来なかったが、今度はきちんと見なければ。
ラスボス攻略のヒントを見つけなければ。
天空の民、ゲイルの秘密を、ついに知る時が来た。
24年前、エルドーラの地下で起こった魔物の大発生。
その調査によって、見つかった原種細胞。
それを当時は一研究員だった、ホープインダストリーCEOが研究したのが全ての始まりだった。
その研究により、魔力エネルギーの工業利用は始まった。
しかしある時、研究中の原種細胞が人間の子を生み出した。
それがゲイルだった。
ゲイルの身体を研究する事で、原種細胞の魔力エネルギーの取り出しの仕組みの解析は、飛躍的に向上した。
研究者達は効率的な夢のエネルギーの発見に歓喜した。
彼らはこの時、公害や星の温度の上昇には無頓着だった。
しかし、実際はさらに大きな星の危機が迫っていた。
天空の民の出現は、原種細胞がこの星の解析を終え、この星との別れの時が近い事を意味しているのだ。
しかし、ゲイルは生まれながらに、星を滅ぼす本能を持っていた訳ではなかった。
エルドーラの原種細胞は、人間には感知できない超音波で、ゲイルに居場所を知らせていた。
ゲイルはそれが、自分の母親からの声である事を本能で察した。
どこかに捕らわれている母親を助けたいと思った。
母親の自分を呼ぶ声に惹かれ、ゲイルは一心に原種細胞を探した。
自分を捕らえようとする研究員達を殺しながらエルドーラ原種を目指した。
肉の塊にしか見えないそれが、エルドーラ原種が、ゲイルはすぐに自分の母親だと分かった。
エルドーラ原種は、活性化し過ぎないように低温状態で保存されていたが、ゲイルはその装置を破壊して母親を自由にした。
母親に近寄るゲイル。
しかし、原種細胞から伸びたのは我が子を抱こうとする愛の手ではなく、鋭い牙の生えた口だった。
しエルドーラ原種は体力回復のため、手を差し伸べるゲイルの片腕を嚙みちぎった。
(えっ……?)
わたしは衝撃を受けた。
お母さんを救出したら、そのお母さんに食べられそうになった?
しかし、ゲイルはとっさに職員から奪っておいた麻酔銃で母親を麻痺させ、難を逃れた。
エルドーラ原種の原種核を抜き取って取り込むと、食いちぎられた腕は再生した。
核を抜き取られた後もエルドーラ原種は襲いかかって来た。
捕食行為は生き残るための本能だが、ゲイルも生存本能で交戦した。
勝利して、生き残ったのはゲイルだった。
ゲイルはこの時、自分が星のエネルギーを奪い取り、星を滅ぼして宇宙を旅する「天空の民」である事を理解した。
そして、研究所の職員を多数殺害して、脱走した。
ゲイルはしばらく当てのない旅をしていたが、剣術の達人、神竜斎に拾われ弟子入りし、剣術を修めた。
この時期にゲイルは、ウィンドとも出会っている。
神竜斎の家族やウィンドと温かい時間を過ごした。
しかし神竜斎は、ゲイルの赤い髪と瞳がずっと気になっていた。
彼は天空の民の伝承を知っていたのだ。
神竜斎はゲイルが本能的に原種細胞のありかを突き止め、その原種核を抜き取る様を目撃してしまう。
ゲイルが天空の民である事を確信した神竜斎は、ゲイルを殺そうとした。
師匠の豹変は、ゲイルにとってショックだった。
しかし、すでにゲイルは師匠の強さを越えていた。
勝利したのはゲイルだった。
ゲイルは神竜斎を殺し、黙ってその場から去った。
その一連の出来事を、ホープインダストリーはひそかに小型魔法ロボで監視していた。
その後、ゲイルは傭兵剣士として頭角を現す。
ホープインダストリーCEOは、ゲイルの過去を不問にする代わりに、用心棒になる事を求めた。
それはゲイルを管理化に置くためであったし、手懐けるためでもあった。
ゲイルはそれを承諾し、高額の報酬を求めてみせた。
しかし、心の内では、報酬などに興味はなく、すでに天空の民の本能に従う事を決めていた。
この星のエネルギーを奪い、滅ぼして、新たな星を目指す事を。
それがゲイルの過去だった。
わたしは記録の凄惨な内容に絶句してしまった。
ちゃんと見たゲイルの過去は悲惨過ぎた。
弱点を探していた事なんて、どこかに吹き飛んでいた。
(ゲイルもかわいそうだよね)
もしも世界中の誰にも、心を許す事ができなかったら。
どこにも自分の居場所はないと知ってしまったら。
あたしだって、世界を滅ぼしたくくらい、なるかも知れない。
(もしかしてゲイルに同情してる?)
(母親に食べられそうになるなんて、酷過ぎるよ)
(そう?)
しかし、エリアルの反応は淡々としていた。
(かわいそうだと思わない?)
感極まって、涙すら浮かべるあたしだけど、
(別に)
エリアルの見解は違うようだった。
(女王蟻だって、巣を作る前に、自分の産んだ卵を食べるって言うし。
特殊と言うほど、珍しくはないわ)
いやいや、蟻と一緒にするなって。
特殊過ぎるよー。
(ゲイルを救ってあげる事はできないかなあ?)
(この星を守る事が、始まりの民の神子であるわたしのつとめ。
ゲイルが世界を滅ぼそうとしているなら、必ず倒す)
エリアルの考えは揺るぎなかった。
もちろん、星を守るつとめの重要さも、エリアルの責任感も分かる。
(それはあたしも同じ思いだけど、ゲイルも可愛そうって思わない?)
(思わない)
きっぱりとエリアルは言い切った。
(あいつの過去なんかどうでもいい。
問答無用で後ろから刺して来る奴なんでしょ?)
それは確かにそうなんだけど。
(でも、ゲイルは母親を助けたいと思った。
その気持ちは本当でしょ?)
ゲイルの中にも優しい心がある。
このまま、ただ倒せばいいなんて思えない。
あたしはゲイルの事も助けたい。
(それは、世界と自分の命がかかってる状況で気にする事じゃあない)
エリアルの口調は厳しかった。
(わたしは星を守る事を第一に考えてるし、自分も死にたくない。
あいつに勝てるかどうかさえ、分からないのに)
(それはその通りだけど……。
このままじゃ後味悪いって言うか……)
(侵略者、天空の民は。この星と人々のため、必ず倒さなければならない)
断固とした言い方だった。
やっぱりエリアルの意見は変わらない、
(とは言え、ぴより。
あんたにはクレイフとジーナを救ってもらった借りがある)
と、思ったら、
(その借りの分は、あんたの意思を尊重する)
予想外の寛大さだけど、義理堅いところはらしくもある。
(ただし、身の危険を感じたら、ためらわずに倒す約束はしてもらうわ)
(分かった。
説得はするけど、それが届かなかったら、ちゃんとやっつける)
あたしは約束した。
そう。エリアルが殺されては元も子もない。
まずはあたし達の生存が第一。
でも可能ならゲイルとの和解も成し遂げたい。
新たな決意を胸に、あたし達は研究所を後にした。
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