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第25話 その名は無敵対空、ドラゴンアッパー

 ゲイルがラスボス形態になってしまった。


 ラストバトルは、今の倍くらいのレベルで挑むようになっている。

 中盤で戦える強さを何とか手に入れた程度のあたしでは、ラスボスには到底太刀打ちできない。


 ヘニャニャンのねコークスクリューにしたって、あくまで中盤レベル。

 ラスボス戦では勝負にならない。


 あたし達はパンライに集まっていた。

 エルドーラの復興支援のための、物資や人員を運搬するためだった。


「ゲイルの奴がまさかエルドーラを壊滅させるとは」


 ウィンドが吐き捨てる。


 これはゲームでも同じセリフだ。

 ただし、ラストバトル直前のセリフ。

 やっぱり展開が早まってる。


「神子様の回復魔法も当てにしていいか?」


 このジェラルドのセリフに至ってはゲームでは聞けない。

 何しろゲームでは、エルドーラ崩壊の時点でエリアルはすでに殺害されている。


 エルドーラの人々の治療に当たるため、数日間はエリアルに主導権を譲る事にした。


 その後、救急治療はメドが付いたので、あたし達はまたパンライへ。

 物資の支援は続くが、エリアルは一休みだ。


「せいっ! やあっ!」


 いても立ってもいられず、道場で鍛練に励むあたし。

 しかし、ちょっとやそっと鍛練したくらいで、ゲーム中盤のエリアルが、ラスボスであるゲイル亡式に敵うとは思えない。


 発動率1%のねコークスクリューで、運命の歯車が大きく歪んでしまった。


「ふぅ~っ!」


 拳の動きが止まる。

 やっぱり集中できない。

 ゲイル亡式に打ち勝つ、いい方法はないのだろうか。


 何気なく道場を見回す。

 道場の壁には技の名前が書かれた板が並べられている。

 ずらりと並ぶ必殺技の数々を眺める。

 と、言ってもゲームでナタリーの習得する技は、ほぼ覚えた。

 あとは終盤の、特別なイベントで解禁される最強技だけ。

 もう、覚えられる技なんてない。


 あれ?

 でも板の数がゲームでナタリーが使える技の数より多い気がする。

 よく見てなかったけど、実は闘神流には他にももっと技がある?


 あたしは板を一つ一つ見て回り、技の内容を確認してみた。

 まだ凄い技があるかも知れない。


「快眠てきめん:竜王体操」


 一つ目はよく眠れる体操だった。

 睡眠の質は確かに重要だけど、今求めているものじゃない。


 他の板も見てみる。


「快食てきめん:竜王体操第2」


「快便てきめん:竜王体操第3」


 竜王体操シリーズの続きだった。


 どちらも大切な事だが、ゲイル亡式を倒す決め手になるとは思えない。

 そもそも強力な技なら、ゲームに登場しているはずだよね。

 そんなにうまい話が転がってる訳ないかあ。


 と、思っていたが、次に見た板に書かれていたのは、竜王体操シリーズではなかった。


「無敵対空:ドラゴンアッパー」


 これは……、何だろう?

 ファンタジックコスモスには出て来ない技なんだけど。


「はかどってる、エリアル?」


 ここで、ナタリーがお茶の入ったお盆を持って現れた。

 ちょうどいいタイミングなので聞いてみた。


「ナタリー、このドラゴンアッパーって?」


「ああ、それ?

 空中の相手には、無類の強さを誇る必殺技なんだ。

 でもあたしは、隙が多いから使わないかなあ」


 ナタリーはすでに習得していた。

 存在するけど使わない、そんな技があったなんて。


 ゲームに出て来ない技……。

 ゲームそのままの世界で、またあたしの知らない事実が現れた。

 でも、なんでこんなものが。

 RPGっぽくない、どっちかと言うと格闘ゲームっぽい技。


 …………待って。


 ドラゴンアッパーってどこかで聞いた事がある……。

 ナタリーが、「ドラゴンアッパー!」と何度も叫ぶ声をどこかで……。

 この格闘ゲームみたいな技をあたしは知っている?


 そうだ! 格闘ゲーム!

 同じメーカーの格闘ゲーム「ナンバー1ファイト」に、人気キャラのウィンドとナタリーがゲスト出演した時だ。

 ドラゴンアッパーはナンバー1ファイトの技だ。

 ファンタジックコスモスには登場しない技だが、闘神流の技としては存在はしていたのだ。


 ジャンプしながらアッパーを繰り出すこの技は、RPG的ではないし、隙も大きい。

 しかし、エリアルの祈りを邪魔しようとするゲイルは、地下祭壇目掛けて降ってくるのだ。


 無敵対空……。

 もしかして、空中から敵が来ることが分かっているあたしにとっては、好都合な、うってつけの技なんじゃ!


「師匠! あたしにドラゴンアッパーを教えて下さい!」


 さっそく竜王斎師範にお願いしてみた。


「この技は、ただ拳を繰り出すだけでは無意味!

 闘気を高め、闘気を纏い、お主自身が竜王となって、初めて真価を発揮するのじゃ!」


 おお! なんか強そう!


「竜王の闘気を纏い、竜王となって放つ。

 それこそが無敵対空ドラゴンアッパーじゃ!」


 おお! 無敵って言ったら、それはもう無敵じゃん!


「無敵対空! 覚えたいっす!」


「よくぞ言った!

 そうと決まれば滝の下で修業じゃ!」


「おす!」


 滝で修行なんてそれっぽい!

 って、滝……?


「流れる滝の下で特訓するのじゃ!


 ドラゴンアッパーを極めれば、滝は逆流して、間欠泉となる!

 そこまでできたら、合格じゃ!」


 えー--っ!

 めちゃくちゃつらそうなんですけど。


「安心せい!」


 お、なんかいい方法があるのかな?


「竜王の闘気を纏う事さえできれば、滝の逆流などたやすい!」


 根性論だけだった。


 こうしてあたしのドラゴンアッパーの修行は始まった。

 滝に打たれるだけで十分キツいのに、そこでジャンプしながらアッパーとか、正気の沙汰じゃない。

 わたしは何回も足場から滑って、滝壺に落ちた。


「ワンチャン死ぬしー」


 この修行はマジにキツイ。

 竜王の闘気を纏う事自体はできた。しかし、


(ここまで気を高められるのは数秒が限界ね)


 エリアルでも限界の力を引き出さなければならない。

 さすが無敵対空。一筋縄ではいかない。


 エリアルが竜王の闘気を纏っていられる時間に、ジャンプの頂点で、拳を振り上げる。

 タイミングを合わせて、お互いの力を出し切る。

 失敗すると滝壺に落ちる。


「恐れを捨てるのじゃ!

 竜王は滝を昇る事など恐れぬ。

 竜王になるのじゃ!」


「おす! 竜王になるっすー!」


(簡単に言ってくれるわね……)


 こうしてあたし達は修行に励んだ。


「ドラゴンアッパー!」


「ドラゴンアッパー!」


「ドゥラゴンナパー!」


 来る日も来る日も、あたし達は滝に打たれながら、ジャンプして拳を放った。

 そして………!


「ドラゴン! アッパーー-ッ!」


 ジャンプと拳の頂点のタイミング、さらに竜王の闘気を纏った瞬間が重なった。

 その瞬間、あたしの身体は滝の勢いに勝っていた。

 あたしは竜王になっていた。

 そして、滝は逆流し、一瞬だけ空中に打ち上がった。

 まるで、間欠泉のように!


「よくやった、エリアル!

 竜王が滝を昇る姿、しかと見た!」


「おす!」


 で、できた!

 やっとコツつかんだ。


 こうして、無敵対空ドラゴンアッパーは完成した。


(ふう……。

 どう? これでゲイルに勝てそう?)


(どうかな。

 でも出鼻を挫く事はできると思う。

 他にもできる事がないか考えてみるよ)


 ファンタジックコスモスには登場しない、あたしの知らない技が見つかった。

 まだ他にもできる事があるかも知れない。

 未来は変えられる事が分かったんだ。

 例え、ラスボスが相手でも、生き残る方法を探す。

 諦めないで、頑張るしかない!

 お読みいただき、ありがとうございました!

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