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第24話 ゲイル、ラスボス形態になる

 ヘニャニャンが確率1%の「ねコークスクリューパンチ」を発動させ、ゲイルを倒してしまった。

 本来はウィンドとゲイルが互角の勝負を演じ、痛み分けで終わるはずのバトルだ。


 ゲームでも、よっぽどレベルを上げれば、この戦闘に勝利する事は可能だ。

 ただし、その場合も、物語上は互角の勝負だった形になる。

 しかし、この世界ではそうはならずに、勝利は勝利として扱われたみたい。

 そもそも、ゲームではこの戦闘は1対1で、ヘニャニャンは参戦しない。


 ヘニャニャンのよくないハッスルによって、物語は変わってしまった。

 エリアルを殺害する刀、迅雷はここにあるが、それがいい兆しとは思えなかった。

 ゲイルが「人生最大のクツジョク」と言って激怒したみたいだし。


 この変化が、物語にどんな影響を与えるのか心配。

 と、思っていたら、


「た、大変です。神子様!」


 クレイフさんが駆けつけて来た。


「どうしたのです?」


「エルドーラ上層居住区が巨大な化け物に襲われ、壊滅したそうです!」


 巨大生物の襲撃によって、エルドーラ上層居住区が地面に落下。

 甚大な被害が出ているという。

 上層居住区には、ホープ社の私設軍隊や、魔法ロボの様な兵器など、強力な戦力がある。

 そのエルドーラ上層居住区が壊滅したのだ。

 これは世界中に激震の走る大ニュースだ。


 あたしももちろん、驚いていた。

 けど、それは他の人とは意味が違う。

 ファンタジックコスモスでも、エルドーラ上層居住区の崩壊は発生する。

 だから、崩壊する事自体は知っていた。


 ただし、それはゲーム終盤。

 ラストダンジョン出現の直前のタイミングだ。


 知っていればあたしだって、黙って見ているつもりはなかった。

 避難誘導くらいはできたかも知れないし。


(どういう事? ぴより)


(ワンチャン、エルドーラ襲撃イベントのタイミングが繰り上がっちゃってる……?)


 そもそもゲイルは空を飛べない。

 さらに言うなら、エリアルを殺害する第二形態、ゲイル・滅式も飛べない。


 なぜそれを知っているかと言うと、ゲームのプレー中に、エルドーラ崩壊のイベントムービーを見ているから。

 ゲイルがホープインダストリーのCEOの目の前に現れ、


「おれはついに空を飛べるようになった。

 おれを実験動物にしたキサマらに復讐できるようになった!」


 と、言うシーンを見た事があるから。

 ホープインダストリー本社ビルは、エルドーラ上層居住区でも特に警備が厳重。

 正攻法では、ゲイルをもってしても、CEOにたどり着けなかったのだ。


(じゃあエルドーラ崩壊が早まった理由は、ゲイルが空を飛べるようになったからって事?)


 でも、彼が空を飛ぶには全ての原種核を取り込んで、「ゲイル・亡式」にならないと……。


(だったら、なったんじゃないの?

 巨大な化け物ってのが、ゲイルなんでしょ?)


 亡式はゲイル最終形態。

 ゲームだと正真正銘のラスボス。

 つまりゲイルのラスボス形態だ。


 何しろゲームではこのイベント後に、ラストダンジョンに入れるようになる。

 北極地帯で、最後の原種核を手に入れたゲイルは、エルドーラを壊滅させた後、北極に戻り、北極の氷を溶かし、この星を滅ぼそうとする。

 溶けかかった氷壁の形作った迷宮こそが、ラストダンジョンなのだ。


(それじゃあ、エリアル殺害イベントで襲いかかって来るのも、ラスボスって事になっちゃうじゃん。

 そんな事…………)


(そうなんじゃないの?)


 ははは……、エリアルは冗談キツいなあ。


 中盤でラスボスなんて、そんな事…………。


 …………………………。


「えええええーーーーーっ!」


 それが一番つじつまが合う。

 ゲイルがヘニャニャンに敗北した事への怒りから、一挙に全ての原種核を取り込んだとしたら。

 中盤でラスボス形態に到達したら。

 そうしたら、エルドーラ崩壊は早まるんじゃないか。


 これはまずい。

 ゲイルは力を求めるあまり、展開を前倒しにしてしまっている。

 本来のエリアル殺害の瞬間のゲイルは第二形態で、勝負になる可能性があった。

 闘神流の修行と、ヘニャニャンのねコークスクリュー三連発で、倒せたはずだった。


 ラスボス、ゲイル亡式は星の魔力を吸い上げる事によって、、絶大な攻撃力と防御力と回復力を誇る最強の敵だ。

 と、言うよりエリアルの祈りの儀式の力がなければ、絶対に勝つことはできない。

 その姿も、天使の翼で、腕が四本で、足に鷹の爪が生えていて、恐竜みたいな尻尾の付いた、いかにもラスボス的な姿だ。


「中盤でラスボスなんて、そんなの聞いてないよー!」


 取り乱してしまうあたし。


「どうした、エリアル?」


「大丈夫? 具合悪いの?」


 ウィンドとナタリーにも心配されてしまう。


「ヘニャニャン!」


 思わずわたしが大声で叫ぶと、ヘニャニャンのつぶらな黒い瞳が潤んでいた。


「ん-……、かわいい!」


 あたしはヘニャニャンを抱きしめた。

 八つ当たりしそうになったけど、やっぱりヘニャニャンは憎めない。


(落ち着きなさい、ぴより。

 まだ勝ち目がないと決まった訳じゃない。

 本当にその、ラスボス形態とかになったかだって分からないでしょ?)


 そうだ。まだゲイルがラスボス形態になったと決まった訳じゃない。

 原種細胞が馴染んでないとか、完全体じゃないとか。

 ラスボス戦はラストダンジョンになるような、運命の力が働く可能性だってある。


 まだ終わりじゃない。

 まだ何も終わってない。

 まだ諦めるのは早い。


 あたし達は急いで、飛行船でエルドーラに向かった。

 本当に、昨日まで空中に鎮座していた空中都市が消え失せていた。

 さらに接近してみると、空中都市の残骸であろうがれきの様子が確認できた。

 甚大な被害が出ている事は言う間でもなかった。

 まるでこの世の終わりのような衝撃的な光景だった。


 下層居住区も壊滅状態だったが、死者は少なかったらしい。

 ゲイル出現後、すぐに上層居住区が落下したのではなく、交戦にはかなり時間が掛かった。

 そのおかげで、下層の住民は避難の時間ができたのだった。


 これはゲイルがCEOを自分の手で直接殺す事にこだわったからだ。

 そのシーンもゲームのイベントムービーで知っている。


 ホープ社の現CEOは元は一研究者に過ぎなかった。

 原種細胞の魔法エネルギーの吸い上げのノウハウの研究と流用によって、のし上がったのだった。

 CEOは研究していた原種細胞からゲイルが生まれた時に、彼が天空の民である事に気が付く。

 ゲイルは研究対象だったが、逃亡した彼をCEOは監視しつつも殺さなかった。


 その理由が研究のためなのか、情が移ったからなのかは判別できない。

 しかし、彼は襲いかかるゲイルを前に、


「こうなる時がいつか来るだろうと思っていた」


 と、言い残すシーンがある。

 CEOは抵抗する事なく、ゲイルの手に掛かる。

 若くしてのし上がったCEOも、天空の民を育てて実験材料に使った事に、罪の意識を感じていたのかも知れない。

 そんな話。


 それはさておき、あたしは生き残った下層居住区の人々にどんな怪物が現れたのか聞いてみた。

 ゲイルがラスボス形態になっていない可能性に一縷の望みをかけて。


 まだ終わりじゃない。

 まだ何も終わってない。

 まだ諦めるのは早い。


 怪物をみた人々は口々に語った。


「天使の翼が生えていて、腕が四本の奴だった」


「足に鷹の爪が生えていて、恐竜みたいな尻尾が付いていた」


 終わった……。

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