第22話 恋の決め手はエリアルコンボでした
ナタリーに抱き付かれてしまったあたし。
スレンダーなエリアルとは、圧倒的に違う、豊満な胸の感触。
「えっ? ええっ!?」
「修行するエリアルがとっても凛々しくって。
いつも釘付けだったんだ」
エリアルの顔立ちは確かにキリッとしているけど。
修行姿でかっこよさマシマシだったんだろうか。
「女同士なんて変だよね。
わたしもこんな気持ち初めて」
えー--っ!
恋のライバルだと思ってたエリアルから、恋の告白をされている?
横取りみたいなのは止めようって思ってたのに。
これじゃあエリアルがナタリーを横取りだよ!
「エリアルのエリアルコンボ、すごくかっこよかった……!」
しかも、エリアルのエリアルで、ナタリーを横取りだよ!
こ、こんな事ならウィンドに告白しに行けばよかったー!
「ま、待って! 一旦落ち着こう!」
ひとまずハグを逃れるあたし。
見上げるナタリーのキラキラしたまなざしは、完全に恋する乙女のそれだった。
「き、気持ちは嬉しいけど、そういう趣味はないって言うか……」
(こういうのは二人の気持ちが、いや、三人?!
あ、あたしはそういう趣味ないけど、エリアルは、ないよね?!)
(ないけど。
あんたこそ落ち着きなさいよ)
そう事言われてもアタフタしてしまうあたし。
「わたしの事、嫌い?」
泣きそうな顔で上目遣いに見つめてくる。
ピンクの瞳は幻想的というか、非現実的というか、とにかく大迫力。
前の世界でも告白された事なんかないし、ましてや女の子からなんて。
訳が分からなくって、頭がぼーっとなってくる。
「き、嫌いじゃないよ。むしろ好きになってきたところで……。
でもそういう意味ではなくって……。
ナタリーの事を応援したい、的な……?」
自分でも何言ってんのか、分かんない。
ウルウルしてくるナタリー。
ああ、泣かないでよ。
「で、でもナタリーはウィンドが好きなんじゃなかったの?」
そうだよ。
ナタリーはウィンドを探してエルドーラに来た訳だし。
「あなたもウィンドも同じくらい好き。
でも、修行を始めたエリアルがなんだかお姉ちゃんみたいで。
あたし、お姉ちゃん、欲しかったんだ。
それからはあなたへの気持ちが抑えきれなくなって……」
どっちもいけるタイプなのか……。
ウィンドへの想いも確かにあるみたい。
ナタリーのキャラが、ゲームと異なっている訳じゃなさそう。
ゲームでは現れなかった側面が、ワンチャン現れてしまったみたい。
つまり、ナタリーはどっちもいけるタイプの人だった。
それが格闘を始めた事によって、あたしに恋をしてしまったって事か。
あたしの作戦のせいで、こんな事になってしまうなんて!
運命はそう簡単に変えられないんじゃないかって、思ってたくらいなのに。
実際は、あたしの知らなかった事実で、運命がどんどん上書きされて行く。
「修行に励むエリアルは、ホントにかっこよくって!」
今度はキラキラときめいてるナタリー。
エリアルがかっこいいってのは、あたしもよく分かる。
それにしても……、
「エルドーラで再会した時、手を強く握って、宣戦布告的な事をしたじゃない?」
あたしが、「ウィンドの家に泊った」と言った時だ。
やっぱり恋のライバルだったはずでは?
「あなたが心配で、ホントに嬉しかっただけだよ」
きょとんとするナタリー。
そっちのパターンだったかー。
「痛かった? ごめんね」
「い、いえ……。
じゃあ、ウィンドをにらみながら、『エリアルは美人だから見とれちゃうよね』って言ったのは?」
「単にそう思っただけだよ」
そんなパターンあるの?!
「でもその会話、よく知ってるね?」
しまった。これはこの前の別行動中の会話だった。
うう、後は、後は……。
まさかエリアルの死後に「あたしは何があってもウィンドのそばからいなくならないよ」と言った話はできないし。
「エリアル、ここにいたのか?
ナタリーも」
そこへウィンドが現れる。
「何しに来たの。ウィンド?」
ナタリー、邪魔されたみたいな顔で言わないで。
これは面倒な事になった。
ハグされてる時じゃなくてよかったけど。
「花火やるらしいからな
せ、せっかくだから一緒にどうかなと思って」
ゲームではあくまでナタリーに誘われる形だった。
いつもクールで、周囲に壁を作ってる感じのウィンドにしては、これはかなり攻めてる。
こんな状況じゃなかったらなあ。
これははあたしとナタリーのどっちを誘うつもりだったんだろう。
花火イベント以前のウィンドは、エリアルに惹かれていたはずだから、エリアルの可能性が高いけど。
こんな三角関係は想定していなかった。
この状況、どうすればいいの?
ナタリーの視線を感じる。
あたしに決めろっての?
ウィンドはあたしの憧れの人。
でも、エリアルはそんなにウィンドに恋している訳じゃなくて。
ナタリーは本来、ウィンドと結ばれる正ヒロインで。
でもここでは、あたしに告白して来て……。
ああ、頭がごちゃごちゃだよー。
こんな時はどうすればいいんだろう?
分かんない。
分かんない。
分かんないよー。
(やれやれ)
心の中にあきれた感じのエリアルの声が。
(変わるわよ)
返事をするまでもなく主導権が入れ代わる。
あたしも処理能力の限界で、抵抗する気なんてなかった。
ちょうどそのタイミングで、お腹に響く大きな音が。
見上げると、夜空に、無数の光が円を描いていた。
次々変化する光は、何だかあたしの運命みたい。
そのまぶしい夜空の下で、
「花火、始まったわ」
エリアルが腕を握る。
「行きましょう」
ウィンドとナタリー、二人の腕を。
凄い力で、二人を引っ張り、丘に向かって行くエリアル。
二人ともあっけに取られている。
丘の上は、すでにたくさんの人々でごった返しだった。
さっきよりもさらに大きく、きれいに花火が見える。
花火の美しさは。この世界も生前の世界と変わらないなあ。
ゲーム同様、いい位置が偶然空いていて、あたし達は花火をとっくり鑑賞する事ができた。
エリアルは左右のウィンドとナタリーの肩に手を置いた。
そして、
「本当にきれい。
来年もまた一緒にこの光景が見たいですね」
そうつぶやいた。
「ああ、そうだな」
「そうだね、エリアル」
ウィンドもナタリーも、ただ色とりどりの花火に見とれていた。
そして、あたしもやっと気持ちが落ち着いてきた。
来年また花火を見るためには、まず生き残らなければ。
あたしがまず、頑張らなきゃいけないのはそれだ。
(やっぱりエリアルは大人だなあ)
同じ17歳のはずなのに、あたしはナタリーの告白にオロオロしてただけだった。
(そんな事ないって。
わたしだけだったら、ナタリーとはもっと距離があったはずよ)
うーん、あたしを好きにならなかったら、やっぱりナタリーとは、ウィンドを巡る三角関係になっていたんだろうか。
もう何だかよく分からないや。
分からない事を考えてもしょうがない。
恋愛の事はともかく、生き残り作戦は順調なんだから、あたしにできる事を精一杯頑張ろう。
こうして、波乱の花火大会の夜は更けていったのだった。
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