第21話 告白する? しない? ドキドキ花火イベント!
港湾都市にたどり着いたあたし達。
マーリタスは石造りの建物が並ぶ大きな街だ。
昔から貿易の要衝として発展してきた街で、港にはたくさんの帆船が止まっている。
山に囲まれていて、街並みは坂が多く、起伏が大きい。
石畳の街並みにも風情がある。
「これでも最近はエルドーラの発展には遅れを取っているがな」
ジェラルドはこの街には、飛行船の部品を探しによく出入りしている。
少ないけど、ジェラルドのもの以外の飛行船も停泊しているのが確認できる。
「魔力エネルギーの船や飛行船も開発中らしい」
ジェラルドは不機嫌そうに言った。
彼は魔法エネルギーの自然への影響を以前から危惧していた。
(この上、そんなものまで作られたら……)
エリアルも同じだ。
乗り物にまで魔法エネルギーが使用されれば、世界中がエルドーラのように汚染されてしまう。
マーリタスに到着したあたし達はジェラルドの行きつけの飛行船のドックに着陸した。
それからスパモンの足を換金。
ファンタジックコスモスの世界の通貨で50000リグで換金できた。
ゲームでは30000リグだったが、飛行船の改造に、家具や物資の補充を差し引いたら、ちゃんと30000になった。
ホントによくできてる。
「飛行船の改造には時間がかかる。
せっかくだから街で遊んで来い」
ジェラルドにそう言われるのもゲームの物語通り。
彼とバーンズは飛行船の改造にかかりっきりになる。
またヘニャニャンは気まぐれで姿を消し、船の出発まで戻って来ない。
「今日の夜は花火が上がるらしいぜ」
壁のポスターを見たバーンズが言った。
ポスターには「年に一度の大花火大会」と書いてある。
「ラッキー!あたし、見たい!」
飛び跳ねてはしゃぐナタリー。
(へえ、そうなんだ。楽しそうね。
ぴより。この街ではどうするの?
花火は見るの?)
(ど、どうしよっか……?)
エリアルの問いかけに、歯切れの悪い返事をしてしまうあたし。
(らしくないじゃない。
あんたはここで起こる事も知ってるんでしょ?)
(うん……)
もちろん知っている。
知っているからこそ、戸惑ってる。
(この街の花火はカップルで見ると結ばれると言われている、伝説の花火大会なんだ)
(ふーん。そうなんだ)
ゲームではウィンドはナタリーと二人で、この花火を見る。
そして、幼い頃の思い出話でいい感じに盛り上がる。
この花火大会はウィンド×ナタリー展開にとって、重要な分岐点となるシーンなのだ。
本当は生き残り作戦と一緒に、この花火大会をウィンドと観に行く
作戦を立てていた。
ナタリーは花火の直前で、着物屋さんを見つけ、浴衣を着る事を決める。
ゲームの中で、
「これ、ついさっき見つけたんだ」
と言って、浴衣のナタリーがくるっと回るシーンを覚えているので、間違いない。
それよりも前にウィンドを花火に連れ出せば、ウィンド×エリアル作戦は成功だ。
あたしの印象では、この花火イベント以前は、ウィンドは神秘的で健気なエリアルに惹かれている。
この前のエリアル不在の期間も、ウィンドが、何度もエリアルの事を気にするのでナタリーに、
「エリアルは美人だから気になっちゃうよね」
と、突っ込まれるシーンがあったはず。
ここでアクションを起こせば、正ヒロイン相手と言えど、十分勝算がある。
この花火大会は運命を大きく変えるはずなのだ。
(へえ、面白そうじゃない。
じゃあ今日ウィンドに告白するのね)
(その予定だったけどさ……)
(どうしたって言うの?)
(エリアルはウィンドに恋をしてる訳じゃないんでしよ)
(だから、顔はオッケーの範囲だって)
そのオッケーの範囲と言う言い方が気になっちゃうんだよね。
(このイベントで有利になっておきたいんでしょ?)
確かにそれはそう。
エリアルとウィンドをくっつけるなら、ここでアタックするべきだ。
(どうする、ぴより?)
(で、でもさ、これじゃあ何だかあたしが横取りするみたいでさ)
あたしは運命的な出会いをしたエリアルとウィンドは相思相愛だ、と思ってた。
それがあたしの勘違いならば、ナタリーを出し抜いてまで告白するのはなんだか気が引ける。
(あのね、ぴより。
わたしに言わせるなら横取りかどうかなんて関係ない。
どうすれば、後悔しないか、それだけを考えなさい)
結構ドライだなあ、エリアル。
でも、確かにここで身を引いて、後悔しないのかなんて分からない。
後悔しないように、か。
でも…………。
幼なじみのウィンドを追いかけて来たナタリー。
ゲームではこの後、エリアルは死に、ウィンドはエリアルを助けられなかった事に、激しく落ち込む事になる。
剣術の師匠、神竜斎に続き、エリアルまでもゲイルによって奪われ、中ば虚脱状態に陥ってしまう。
そのウィンドに再び、立ち上がる勇気を与えるのがナタリーだ。
「戦いたくなくなったのなら、一緒に静かに暮らしましょう」とまで言う。
それでいて、影ではエリアルの死に泣き崩れている。
その姿を目撃して、ウィンドは再び闘志を取り戻す。
「おれ達でエリアルのやろうとしていた事をやり遂げないとな。
おれとナタリーで」
ナタリーの手を取り、涙をぬぐってあげるウィンド。
このシーンばかりはあたしも泣いてしまった。
ファンタジックコスモス屈指の名シーンだ。
その展開を知っていて、横から入るのは、しっくり来ない。
エリアルがウィンドを愛していると言うならまだしも、「別にアリ」のレベルだ。
何がわたしの素直な気持ちなんだろう。
どうすればわたしは後悔しないんだろう。
(早くしないと花火大会、始まっちゃうよ)
エリアルの声に我に帰る。
気が付いたら、辺りは薄暗くなっていた。
人々が、そしてカップル達が丘の方へ向かって行く。
浴衣を着た人達の姿も確認できる。
伝説の花火大会が始まろうとしている。
「あたし、決めた。船に戻る」
確か飛行船の改造は、花火大会より前に終わっているはずだ。
(本当にいいの?)
「エリアルがそれほど好きじゃないなら、あたしはいい。
それは変えるべき物語じゃあないよ」
(ふうん。後悔しない?)
「うん!
絶対後悔なんてしないよ!」
そう、あたしの大好きなファンタジックコスモスにはウィンドとナタリーの物語も含まれていたんだ。
丘には立ち寄らないようなルートで、飛行船へとむかう。
ウィンドとナタリーに出くわさないように。
二人の邪魔にならないように。
迷いの消えた、わたしの心は晴れやかだった。
さあ、これからは生き残る事に全力だ!
すがすがしい気持ちで、飛行船を目指すあたし。
だったのだが、飛行船の前に人影を見つける。
それはピンクのセミロングのナタリーだった。
紺色の浴衣が、落ち着いた感じ。
これはこれで、よく似合う。
「あっ、エリアル!」
あたしを見つけて、近づいて来るナタリー。
「あれ、花火の見える丘に行ったんじゃないの?」
「その前に、ちょっとエリアルに、話があって……さ」
下を向いて、目線をこちらに合わせないナタリー。
これはやはり恋の宣戦布告だろうか。修羅場だろうか。
でも、あたしはもう身を引く事に決めたけどね。
「あたしはこれからはあなたとウィンドの仲を応援……」
そこでわたしは絶句してしまった。
なぜなら……、
「わたし、エリアルが好き!
愛してる!」
あたしはナタリーに抱き付かれていた。
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