第18話 ヘニャニャン登場 狙え、乱数調整!
「切り札だニャン!」
あたしがそう言って抱き抱えたのはクリーム色の、耳の垂れさがった猫のようなモンスターだった。
(こ、この子が切り札……?
強いの?)
小柄でスリムなヘニャニャンは、到底強いようには見えないだろう。
(素早さでは全仲間の中でダントツの一位。
ただし、攻撃力が低くて、打たれ弱くて、魔力はほぼなしで、魔法は一切使えない)
(何それ?
全然弱いじゃない!)
実際のところ、ヘニャニャンはもふもふしていてかわいいが、全仲間中、圧倒的に弱い(でも、もふもふしていてかわいい)。
(必殺技のねこパンチならあるよ)
(じゃあそれが切り札なのね?)
(最弱の敵ですら一撃で倒せない必殺技だよ)
ゲーム中での数値を使った言い方をするならば、必ず「一桁のダメージ」を与える必殺技がねこパンチだ。
(ちょっとふざけないでよ。ぴより!
それのどこが切り札になるって言うの?!)
「なるんだニャ~ン」
あたしはヘニャニャンの前足の肉球を押さえながら言った。
(ねこパンチは1%の確率で『ねコークスクリューパンチ』なるんだニャン)
(ねコークスクリュー……?)
エリアルのきょとんとした声がする。
ヘニャニャンが必殺技、ねこパンチを繰り出した時、1%の確率で発動する威力1000倍の攻撃。
それが「ねコークスクリューパンチ」。
発動すれば無類の威力を誇る。
(でも1%なんでしょ)
威力100倍の攻撃は魅力だけど、狙って出せないとなるとやっぱり使いづらい。
(でも、毎回出す方法があるとしたら?)
乱数調整って言葉がある。
ランダムな確率で起こる事を、故意に起こるようにする事だ。
ゲーム攻略では、これが行われる事が時々ある。
そして、ファンタジックコスモスの早解き動画でもそれは行われていた。
他ならぬ、エリアル殺害直後の「ゲイル・滅式」とのバトルにおいて、ねコークスクリューパンチを狙って発動させていた。
しかも、三回連続で!
早解き動画では、この三連発の、ねコークスクリューだけで、ゲイル・滅式を撃破している。
(そのなんちゃら調整の方法は?)
(特定のアイテムを持っている事だよ)
そして、あたしはバッチリそれを覚えていた。
・傷薬
・布の法衣
・スパモンの足
この三つだ。
傷薬は標準的な回復アイテム。
布の法衣はエリアルの初期装備。
どちらもすでに持っている。
(最後のスパモンの足ってのは?)
(これはスパモンってモンスターを倒した際に手に入る、換金アイテムだよ)
パスタの材料にするとおいしいらしい。
そして、ヘニャニャンのレベルが一定に達していて、ねこパンチを習得している事。
これは何しろ、早解きで活用できるくらいだから、そう困難ではない。
(ヘニャニャンが一回でもパーティに入って冒険していれば大丈夫だって)
わたしはヘニャニャンを抱きしめて、頬ずりした。
(頑張ろう、ね。ヘーニャニャーン♪)
やっぱりもふもふしてかわいい!
あたしははリアルヘニャニャンのかわいさを堪能した。
(しかし、なんでヘニャニャンなんておかしな名前なの?)
(ん? エリアルがそう名付けたんだよ)
仲間になった段階では誰もこの子に名前を付けていない。
飛行船がパンライに戻った時に、エリアルによって命名されるのだ。
また、プレイヤーの任意の名前を付ける事も可能だ。
(あ、でもエリアルが名付ける前に呼んじゃったね)
ヘニャニャンの登場でついテンションが上がってしまった。
(他の名前にしたい?)
エリアルが名付けるのが正式な感じがする。
(そうねえ……)
ヘニャニャンを抱いたまま、考え込むエリアル。
「そいつ、エリアルが気に入ったのか?」
その時、ウィンド達が現れた。
「この子、名前はまだないのですか?」
「ああ、勝手に付いて来ただけだしな」
「そうだ! エリアルに名前を付けてもらったら?」
ナタリーの提案により命名権がエリアルに委ねられる。
これはゲームの通り。
「じゃあヘニャニャンで」
「何それ、かわいー!」
「変わったセンスしてるな、エリアル」
やはりゲーム通りのリアクションが返って来た。
(その名前でいいの? エリアル)
(考えたんだけど、いかにもヘニャニャンって感じじゃない?)
やっぱりヘニャニャンになる運命だったみたい。
こうして、エリアル生存の鍵を握るヘニャニャンが仲間になったのだった。
そしてもう一つ、その日、エリアルはウィンド達から改まって質問された。
それは物語の核心に迫る質問だった。
「エリアル、天空の民と言う存在を知っているか?」
ゲームの物語通りではあるんだけどね。
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