第17話 新たなる仲間達
砂漠地帯のメナスの街で、爆破テロに遭遇しながらも、闘神流武術で切り抜けたあたし。
その後はパンライの道場に戻り、ウィンド達の帰還を待った。
そしてついにその時がやって来た。
空中に巨大な姿が現れた。
楕円形の風船の下に帆船の付いた物体だった。
帆船の左右には一対のプロペラが付いている。
しかもその物体は高度を下げ、ぐんぐんパンライに近づいて来る。
街並みの上を通り抜け、闘神流道場のある山のふもとに着陸しようとしていた。
(な、何なの? あれ)
どんどん大きくなる影に、エリアルも街の人々もあ然としていた。
その人工物は、何らかの兵器なのではないか。
突如、降臨した謎の物体の前に、人だかりができていた。
「空を飛ぶ船、飛行船だよ」
もちろん、あたしはそれが何なのかも、このタイミングで現れる事も知っている。
(そう言えばぴよりが話してたわね。
新しい仲間の飛行船で戻って来るって)
そう。この出来事もゲームの通りだ。
飛行船の船長が仲間になり、飛行船に乗ってウィンド達がパンライに帰って来たのだ。
船から降りて来た階段状のタラップから、傭兵剣士、ウィンドと格闘少女ナタリー、屈強なバズーカ使い、バーンズが現れる。
「帰りはアッと言う間だったな」
「ホント! こんなに早いなんて!」
「予想外に早く着いたな」
みんな、武器が新調されていて、たくましくなった感じがする。
やっぱりゲームの世界と同じように成長しているみたい。
それはともかく。
(ちょっと代わって)
エリアルのピリピリした心の声。
言われるままに、主導権をチェンジ。
(あんな機械を持ち出して!)
エリアルは飛行船に近づいて行く。
「戻ったぜ。エリアル様。
ゲイルは発見できなかったが、新しい仲間ができたぜ」
バーンズはにこやかに話しかけるが、
「こんな空飛ぶ船を使うなんて!」
エリアルは凄い剣幕だ。
「魔法エネルギーは、この星の温度を上げてしまう。
それに加えて空気を汚すのです。
バーンズ、あなたはそういう見識を備えていると思っていました」
プロペラ部分の周辺は明らかに機械部品だ。
工業製品を見たエリアルの拒否反応はもっともだ。
しかし、
「そいつは魔法エネルギーなんざ使っちゃいねえ」
低い声がして、タラップから一人の男性が降りて来た。
肩までかかる金髪が目を引く。
色白で、鋭い眼光の青い瞳。
目の下にはクマがあり、やせ型で、無精ひげがちらほら。
やや不健康な印象を受けるが、一方で荒々しくもある。
海賊風の礼服のポケットには酒ビンらしきものが見えている。
ダンディーなイケメンの登場だが、もちろんあたしは彼の事も知っている。
飛行船を作り上げた元ホープインダストリーの天才技術者。
名前はジェラルド。
年齢はバーンズと同じく35歳。
武器は拳銃で、曲撃ちの必殺技を使う。
「スカイルーク号は蒸気飛行船だ」
ジェラルドはそう言うと酒ビンを取り出し、一口飲んで言った。
「おれは魔法エネルギーが嫌いでね」
彼の加入にもドラマがある。
北部の山脈ではゲイルの痕跡は見つけたが、発見はできなかった。
バーンズは世界中を回る必要性を感じ、ジェラルドの元へ向かう事を決めた。
バーンズとジェラルドは、ホープ社では同期だったのだ。
蒸気機関を研究していたジェラルドは、魔法エネルギーを快く思っていなかった。
公害と温暖化に早くから懸念を抱いていた。
ジェラルドは同僚で親友のバーンズに、魔法エネルギーの危険性を訴えた。
そして、CEOへの直談判の協力も持ちかけた。
しかし、当時のバーンズは結婚したばかりだった。
家庭を守るため、会社に逆らうなど考えられなかった。
上層部が上手く考えるだろうと、ジェラルドをなだめた。
結局、ジェラルドは一人で上層部と掛け合い、ホープインダストリーを追放されるはめになってしまう。
「おれの言葉に耳を貸さなかったのに、今さらおれに力を貸せと言うのか?」
とジェラルドはバーンズの協力要請を拒んだ。
「家族を守るためとやってきたが、その仕事が原因で、娘が身体を壊す結果になっちまった」
と、過去を悔い、土下座して協力を仰ぐバーンズだがジェラルドは、
「おれはもう、自分の研究にしか興味はない」
と、つっぱねてしまう。
しかし、そこで割って入ったのは意外にもウィンド。
「バーンズは二年以上、活動を続け、元同僚から煙たがれながら、始まりの民との連携まで漕ぎつけた。
あんたはその間、何をやってたんだ?」
とバーンズを擁護。
しかし、バーンズは逆にウィンドに、
「てめえ、誰に向かって口を聞いてるんだ?!」
と胸ぐらをつかむ。
ところが、その様子を見たジェラルドが、
「上司にいつも生意気と言われていたお前が、そんな事を言う年になったとはな」
と言い、笑い出し、そして、
「汚れた空気がこっちにまで流れて来ても厄介だ。
そろそろ頃合いか。
いいだろう、このスカイルーク号で力を貸してやろう」
と、言った。
ジェラルドも星の危機に対して、行動するチャンスを待っていたのだ。
こんなやり取りがあって、ジェラルドは仲間になる。
また、これまでバーンズは、ゲイルを倒すためだけに仲間になったウィンドを、快く思ってなかったが、
「お前に助けられたな」
とお礼を述べ、ウィンドは、
「本当の事を言っただけだ」
とはにかむ。
そんな感じの胸熱イベントを通じて、飛行船船長ジェラルドが仲間になったはずなのだ。
それはさておき。
(そう言えば仲間が増えたら、もう一つ作戦があるって言ってなかった?)
そう。ゲイルを倒すための作戦。
修行によるエリアルの鍛練がその一つだが、もう一つある。
(彼じゃないよ。仲間は二人増えるって言ったでしょ?)
(もう一人の仲間って事?
いないじゃない)
(気まぐれだからね)
ゲームでも、パーティーに入れていない時は、飛行船のどこにいるのかが完全にランダムなほどだ。
しかし、ついに現れた。
現れたが、タラップをとことこ降りると背中を丸めてその場で寝てしまう。
「来たーーーっ!」
タラップに駆け寄るあたし。
(は? えっ……? 何?!)
エリアルが戸惑っている中、
「ヘニャニャン!」
あたしは抱え上げた。
クリーム色の猫のような生き物を。
(仲間、ってそいつ?)
エリアルの戸惑った声。
(もう一人って……、猫じゃない!)
(猫じゃないよー。モンスターだよー)
よく見ると、黒い耳は垂れている。
それがまた可愛さを増している。
つぶらな瞳で見つめられると誰だってイチコロだ。
スリムな体型で、耳やしっぽだけくろっぽい茶色をしている。
なめらかな毛並みはいくらでも撫でられる。
他のモンスターにいじめられ、高い所から降りられなくなったのを、ウィンドが保護したら飛行船の中にいた、という経緯で仲間になる。
(その子がもう一つの作戦に関係あるっての?)
「そうだニャ~ン!」
あたしはヘニャニャンの前足を持ち上げて答えた。
「切り札だニャン!」
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